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第32話:青野家の次女・理真

 ラグスの里を出た星琉は、また街へ買い出しに向かう。

 今度は実家の家族用の食材や、チビたちへの菓子の購入だ。

 日没間近い街では夕市が開催中で、午後に収穫した農作物が並んでいる。

 その中から日持ちする物を選んで買い、ストレージに入れてゆく。

「美味しい木の実はいかが?栄養満点だよ!」

 呼び込みにつられて見てみた露店には、宝石みたいに艷やかな色とりどりの木の実があった。

「はい、味見してみてね」

 試食を差し出され、味を確かめて家族が好みそうなのをいくつか選んで買う。

 鮮度を保つ保存容器もオプションでつけられるので、多めに買って保存容器に詰めてもらった。

「あれ?これって体力回復効果ある?」

 最後に味見した木の実の効果に気付く星琉。

「それは疲れを癒すから滋養の実って言われる木の実だよ」

 露店のおばちゃんが教えてくれた。

 星琉はそれも購入して保存容器に入れてもらい、ストレージに収納すると実家へ向かった。


 転移アプリで青野家の前に到着。

 玄関の扉を開けると…

「さしいれぇ~!」

「おかえり~!」

 ドドドドッと走ってくる。

 …相変わらずなチビチビ集団の出迎えだ。

「お前ら、差し入れだけじゃなくて兄ちゃんも出迎えてくれよ」

 苦笑しながら、チビたちの差し出す手に街で買った菓子を1つずつ乗せてやる。

「ありがとぉ~!」

 ドドドドッと走り去るチビッコ4人組。

「食ったら歯を磨けよ~」

 と言ったが多分聞こえてない。


 星琉はいつものように台所の大型冷凍庫&冷蔵庫に肉や野菜を詰め込みに行った。

「いつもありがとうね。無理してない?ちゃんとゴハン食べてる?」

 夕食後の片付けをしながら母が言う。

「大丈夫だよ、賄い美味くて食べ過ぎてるくらいだから」

 前から入ってる肉の後ろへ新しい肉を詰めながら星琉は答えた。

「その割にちっとも太らないじゃない。父さんなんか最近お腹出てきちゃってるのに」

「それはホラ、若さってやつかな?」

 生活環境が変わっても細身のままの息子を心配する母に、星琉は得意気に笑う。

 元々太らない体質もあるが、日々の運動量が非常に多いので摂取したカロリーなんて多分全部消費してるのかもしれない。

「そうねぇ、星琉は元気だものね。理真もそうならいいんだけど…」

「ん?理真なんかあった?」

 溜息混じりに言う母に、何かあったなと察した星琉が聞いた。

「また倒れちゃったのよ、貧血で」

 返ってきた答えに更に何か察した星琉は、肉や野菜を詰め終えると女子部屋に向かった。


「理真、起きてるか?入っていい?」

「兄ちゃん?うん、入っていいよ」

 女子部屋の扉越しに呼びかけると返事があり、許可を得て中に入る。

 年子の妹は横になってるかと思ったら壁際に布団を寄せ、壁を背もたれに布団に座って漫画を読んでいた様子。

「お前、また徹夜したな?」

 その傍へ行くと、星琉は理真の顔を見て言う。

 寝不足を証明する隈が出来ているのが見えた。

「つ、つい夢中になっちゃって…」

「貧血って聞いたぞ?ちゃんとメシ食ってるか?」

 テヘッと笑って誤魔化す妹を、ジト目で見る兄。

「た、食べてる…よ?」

「どうせまた肉残してるだろ」

 目を逸らして言う理真をジーッと見て星琉は言う。

「だ、だって肉嫌いなんだもん」

 観念して白状した妹に、滋養の実が入った容器をストレージから出して手渡す。

「ほら、これなら食えるだろ?」

 受け取った理真が中を覗くと、ツヤツヤした赤い木の実が入っていた。

「うん。美味しそう」

「洗ってあるそうだから、そのまま食えるよ」

「ありがとう。食べてみていい?」

「食え食え、今すぐ食え」

 理真は木の実をつまみ出して食べてみた。

 アセロラに似た赤い木の実は、甘酸っぱく瑞々しい。

「美味しい。それに身体のダルイのが治るみたい?」

「回復効果付きだよ。それは他の奴にやらなくていいぞ。隠しといてお前1人で食え」

 2つ目に手が伸びる理真に星琉は言った。

「私だけの【特別】だね」

「うん。理真だけの特別」

 理真が微笑み、星琉も笑みを返す。


 子供が9人もいる青野家の食事の時間は弱肉強食、大皿盛りの料理はアッという間に無くなる。

 おっとりした性格の理真はオカズ争奪戦でいつも負けているので、世話焼きの星琉が代わりに取ってやる事が多かった。

『特別だぞ』

 星琉はいつもそう言って確保したオヤツやオカズを理真に分けていた。

 兄弟の中でも特にすばしっこくて要領がいい彼はいつも確実に食べ物ゲットしており、出遅れて食いっぱぐれる妹にコッソリあげる、というのが日課みたいになっていた。

 プルミエ王城に住み込みを始めてからは星琉が実家で食事をする事は無くなったので、理真は以前ほど食べてないのではと心配になった。

「ん~、理真お前ちょっと痩せたんじゃないか?」

「そお?気のせいじゃない?」

「い~や、痩せた」

 子供の頃みたいにおりゃっと抱きつくと、妹はふえっ?!と小さく声を上げて赤面した。

「…に、兄ちゃん、いきなり抱きつくの良くないと思うの」

「え~?小さい時からやってるじゃん」

 歳が近く仲も良かったので、ハグなど今更珍しくも無い兄妹である。

 16歳にしては小柄な妹は、ラグスの里のリマと背格好が同じくらいだ。

 魔物に致命傷を負わされたリマを抱いていたのは、ほんの4~5時間前の事。

 星琉の脳裏には、大量の血を流してグッタリしていた少女の姿が鮮明に残っている。

 星琉は理真を抱き締めて囁く。

「肉がダメなら他の物でいいから、ちゃんと食えよ」

「…う、うん」

 兄の声の調子に何かあったのかな?と察した妹は、大人しく頷いた。




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