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第33話:エルフの里リオモ

「テルマ村への魔物の大群襲来に、ラグスの里への大量の瘴気流入と剣歯虎による守護石強奪…。無関係とは思えぬな」

 完全防音の国王専用書斎で、タブレットを前にプルミエ王ラスタが言う。

「加えてさっきリオモの里からも相談がきたよ。神樹の病を治す為に聖女に来てほしいって」

 ラスタのボイスチャット相手、瀬田が言った。

「神樹が病に罹るなど、14年前以来ではないか」

 溜息混じりにラスタは言った。



 放課後、プルミエ王立学園の正門から出てきた星琉とイリアを迎える者がいた。

 美しい純白の毛並み、澄んだ水色の瞳をした仔狐。

(え?リマ??)

 星琉はすぐそれが誰か分かった。

「勇者様ぁ~」

 仔狐は星琉に気付くとフサフサした尾を振り、ピョーンと飛び込んで来た。

 そして、スッポリその腕の中に納まる。

「え~何そのコ可愛い~」

「セイルのペット?」

 下校しようとしていた生徒たちが群がる。

「あら、リマちゃんじゃない」

 イリアはあっさり仔狐の正体に気付いた。

「聖女様ぁ~」

 仔狐が星琉の腕の中からイリアの方へピョーンと飛び移る。

「…り、リマ、なんかキャラ変わってない?」

 昨日までの物静かな雰囲気とのギャップに星琉は困惑した。

「こっちが素なんです。お兄ちゃんが『こっちの方が可愛がってもらえるぞ』って言ってました」

(…っていうか誰に可愛がらせる気だ、ナル…)

 星琉は心の中でツッコミを入れた。

 年相応の子供らしく無邪気な雰囲気になった仔狐は確かに可愛い。

 実年齢は分からないが、小学生くらいだろうか?

「うんうん、リマちゃん可愛いね」

 イリアはニコニコしてリマを撫でた。

「で、森から出てここまで来たのは、何か用があったんじゃないか?」

 星琉は聞いた。

「はい。エルフの長老様が昨日のラグスの森に出来た結界について聞きたいそうで、それを伝えに来ました」

(…そういや1000年に1つ出るかどうかの魔石だったっけアレ…)

 言われて、ラグスの祠に寄贈した上位種エルク魔石を思い出した。

「それと、聖女様にも来てほしいって言ってました」

「私も?」

 イリアがキョトンとした。


 その後、王城へ帰って国王に報告すると、既にそちらにもエルフの里リオモから聖女への依頼が入っている事が分かった。

 リオモは神樹を護る場所なのでラグスのように街の転送陣からは行けず、王城の奥に隠された転送陣での移動だ。

 2人がリオモの里に着くと、すぐ長老の元へ案内された。


「お待ちしておりました」

 長老といっても見た目は青年のエルフが穏やかな声で言う。

「話は聞いています。すぐに神樹の治療に入りましょうか」

 パールホワイトのローブに身を包んだイリアも落ち着いた口調で言った。

 その腕には、白仔狐リマが抱かれている。

 長老の案内で神樹がある場所へ向かいながら、ラグスの祠に寄贈した上位エルク魔石の経緯を話す。

「ではアイラ様が授けた幸運の力で、あの神話級魔石をドロップされたと?」

「はい」

「歴史に残る幸運ですな」

「女神様のおちゃめな歴史が残りますね」

 感心する長老に苦笑しつつ星琉は答えた。


 途中まで来たところで、星琉の気配探知が敵の接近を報せた。

「長老様、イリア、リマ、ここで待ってて下さい」

 言うと、星琉は2人と1匹を包むバリアを展開させる。

 表面に魔法陣が浮かぶそれは、全方位・全種類の攻撃を反射する防御壁だ。

 そして少年はフッとその場から消えた。


 エルフの里リオモとその森を護る神樹。

 その葉は神々がメッセージを伝えるのに使われており、アイラがいつも星琉のところに落としている木の葉もそれだ。

 その樹に、イナゴに似た虫が襲いかかる。

「この!あっち行けよ!」

 神樹を護る妖精たちが小さな剣を手に、追い払おうと必死になっていた。


 突然、神樹を取り囲んでいた虫が一斉に消滅した。


 妖精たちが驚いたところへ、青い騎士服姿の少年がスッと姿を現す。

 少年は手にした刀を鞘に納めた。

「セイル~!」

「ありがとう!」

 安堵した妖精たちがワッと寄ってくる。

 星琉はここに来るのは初めてで彼等とは初対面の筈だが、妖精たちは独自のネットワークで情報を共有しているようだ。

「イリアも来てるよ」

 星琉も既知の中のように妖精たちに言うと、長老とイリアのところへ戻った。

 バリアの外側に、スズメバチに似た虫が複数死んでいる。

 こちらも襲撃があったようだが、予測していた星琉が設置した反射魔法をまともに食らって敵は全滅していた。



 神樹の森に、聖女の浄化と祝福の光が広がる。

 半ば枯れかけていた大樹に新芽が吹き出し、新緑の葉へと育ってゆく。

 星琉の頭や肩に乗ったりフワフワと空中に浮いたりしていた妖精たちが、一斉に舞い上がりその葉の茂みへと還ってゆく。

 白仔狐リマが星琉の腕に抱かれつつ、澄んだ水色の瞳でそれを見上げる。

 やがて、病が癒えた大樹が神秘的な燐光を放ち始めた。


『…ありがとう…』

 星琉とイリアの頭の中に声が響く。

 神樹の前に、緑の瞳と長い髪の女性が現れた。

『…勇者と聖女に、創造神から託された贈り物を渡しましょう…』

 女性の左右の手のひらから光の玉が湧き出る。

 2つの光の玉はフワリと風に流れるように空中を移動すると、1つは星琉の額に、もう1つはイリアの額に吸い込まれていった。

 何か温かな力が、体内に宿るのが感じられた。

『…どうか、大切なものの為に使って下さい…』

 言い残すと、神樹の精霊と思われる女性の姿は消えた。




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