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第53話:勇者の中の人

 時は遡り、星琉&奏真がイル&レンとしてカートル国へ向かう前。

 プルミエ城地下の研究室に1人の獣人が招かれていた。

「セイルの速さはこの世界のヒューマンには再現出来ないし、近付けるとしたら僕しかないだろうね」

 白猫の顔に青と緑のオッドアイ、猫人の少年シトリは言う。

「報酬は金貨じゃなくていいんだね?」

 瀬田が確認する。

「うん。金貨なんてギルドのSランク依頼で稼げるし。報酬は猫人にとって最高の品と言われるアレがいい」

 シトリが言う「アレ」とは…

「…これだね?」

 …瀬田が差し出す、スティック状の袋に入った液状食ちゅ~○だ。

「そう!それがいい!」

 シトリはヒゲをピンと張って目をまん丸にして期待を示した。

「OK、まずはこの詰め合わせを前払いとしよう」

「やったぁ!」

 瀬田から50本入りボトルを渡され、テンション上がるシトリであった。


 星琉がカートル国へ行っている間、影武者を務める事になったシトリ。

 瀬田は報酬その2として、鑑定・解体・ストレージ(転移者3点セット)を付与するという。

 それは冒険者のシトリには是非欲しいものであり、転移者の影武者として欠かせないものでもある。

 通常は地球からアーシアに転移してくる者の特典だが、アーシアの人間が地球へ行って戻ってくる際にも付与される。

 シトリは往復転移して3点セットを貰える事になった。

「セイル君、シトリ君に同行頼む」

「はい」

 王城地下の転送陣へシトリを案内して、瀬田は星琉に指示する。

「シトリ君、向こうは重力がこちらよりかなり重い。猫の姿になった方がいいよ」

「OK」

 二足歩行の猫人シトリが、ポンッと音を立てて仔猫の姿になった。

 純白の毛並みに青と緑のオッドアイ、普段の姿に似た猫化だ。

「向こうはマナが全く無いからセイル君にくっついてるといいよ。転移者は体内にマナを蓄積してるからね」

「なるほど。じゃあセイル、僕を抱っこして」

「はいはい」

 仔猫になったシトリを抱き上げて、星琉は転送陣に入った。


 初めて見る異世界・日本。

 シトリは興味津々で辺りを見回す。

「ねえねえ、せっかく来たからどっか案内してよ」

「いいよ」

 シトリの要望に応えて、星琉は街へ出た。


 案内したのは、SETA直営のアミューズメントパーク【Carnival Box】。

 奏真の元職場であり、星琉がSword of Earthiaの鉄人戦で優勝した場所でもある。

「これがプルミエ剣術大会をモデルにしたゲームだよ」

「アーシアの環境を再現してあるやつ?」

 馴染みの筐体の前で話していると、わらわらと人が集まって来る。

「セイル久しぶり~!」

「あれ? その仔猫どうしたの? 拾った?」

「白くて綺麗な子~」

「あ、オッドアイじゃん。 カッコイイね」

 次々に声をかけられて、ちょっと圧倒されるシトリ。

「…ど、どうも」

「え?! しゃべった?!」

 小声で答えると、更に注目を浴びた。

「アーシアから来た獣人のシトリだよ。今は猫化してるけどね」

 星琉がフォローを入れたところ、更に賑やかになる。

「あ! なんか見たような気がすると思ったらSword of EarthiaⅡの決勝キャラだぁ」

「私シトリ推しなの!ねぇねぇ、獣人の姿になって~」

「いいよ」

「え?! シトリ待て…」

 星琉が慌てて止めるが間に合わず。


 推しと言われて調子に乗ったシトリ、ポンッと音を立てて人化するが…

「…お前な、今どういう状況か分かってる?」

「あはは…え~っと………」

 …星琉に抱っこされた仔猫から人化して、お姫様抱っこ状態だ。


「待って! そのまま、そのまま! 撮らせて!!!」

 シトリ推しの女子が現状維持を希望する。

「俺が一緒に写っていいの? 撮影代わろうか?」

「代わらなくていいの、そのままお姫様抱っこ維持で!」

 星琉が気を使って撮影交代しようとするが、断られてしまった。

 その後しばらく、セイルがシトリをお姫様抱っこ画像が御腐人ごふじん方の待ち受けになっていた。


 突発撮影会(?)が済み、シトリは人化した状態でVRの中に入ってみた。

「これ凄いね、重力も同じでマナまである!」

「俺や奏真はこのゲームで身体を馴らしてからアーシアに行ったんだよ」

 そして、シトリはAI戦を体験してみる。

 AI戦に出て来る対戦キャラは、プルミエ剣術大会に出ていた獣人たちの能力が再現されていた。

(…さすが、獣人最速って言うだけあるなぁ…)

 ヒラリヒラリと攻撃を躱して、確実に連撃を入れる。

 パワータイプのボルドーAIも当たらなければどうという事は無いと言いた気に楽勝。

 ファイナルステージは自らをモデルにしたAIだ。

「お~! シトリVSシトリだ!」

「隠しキャラ使って対戦してるみたい!」

 珍しい対戦映像にゲーマーたちが注目している。

 能力値は同じかと思われたが、AIは半年前のシトリ、現在の方が成長した分強かったようだ。


「あ~楽しかったぁ!」

 ゴキゲンなシトリ(仔猫Ver)を抱っこして、星琉はSETA社屋の転送陣に入る。


 アーシアに戻る途中の空間に、出て来たのは春の女神アイラではなく…


「ようこそ、アーシアへ。私は女神レイラ…」


 …秋の女神レイラだ。


 纏う衣は紅葉の赤・橙・黄のグラデーション。

 肌の色はアイラほどは白くなく、サーラのような褐色でもない、黄色人種に近い肌色だ。


「シトリ、貴方がセイルの代役をしやすいように、加護を授けましょう」

「本当?! ありがとう女神様!」


 そして、星琉と同じ全属性魔法を授かるシトリ。

 女神サーラが森田に授けたほどではないがそこそこの量があり、魔法データの波に押しのけられたシトリの意識は途切れる。

 電池切れた仔猫みたいにクタッとしたシトリは、そのまま星琉に抱っこされてアーシアに戻った。




「シトリ君は加護を貰えたんだね」

 戻って来た星琉の手から仔猫を受け取ると、瀬田はその頭を撫でて言う。

 研究室にあるカプセル型の大型魔道具の中に仔猫を寝かせると、瀬田はそれを起動した。

「セイル君、このプレートに手を置いてくれるかい?」

「はい」

 答えた星琉が手を置くと、プレートが発光する。


 生体情報マトリクス複写コピー


 星琉の肉体を形作っているデータが、機械の中に入っているシトリの身体にコピーされる。

 仔猫の身体が急速に大きくなり、人の形に変わってゆく。

 ほんの数秒で、仔猫は星琉そっくりな少年に変身した。


「これで君がカートルに行っても、勇者セイル不在が敵にバレる事は無いだろう。私もサポートするし、心配しなくていいよ」

「はい」

 その後、星琉&奏真は5~6歳の少年イル&レンとなり、カートルへ向かった。




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