時は遡り、星琉&奏真がイル&レンとしてカートル国へ向かう前。
プルミエ城地下の研究室に1人の獣人が招かれていた。
「セイルの速さはこの世界のヒューマンには再現出来ないし、近付けるとしたら僕しかないだろうね」
白猫の顔に青と緑のオッドアイ、猫人の少年シトリは言う。
「報酬は金貨じゃなくていいんだね?」
瀬田が確認する。
「うん。金貨なんてギルドのSランク依頼で稼げるし。報酬は猫人にとって最高の品と言われるアレがいい」
シトリが言う「アレ」とは…
「…これだね?」
…瀬田が差し出す、スティック状の袋に入った液状食ちゅ~○だ。
「そう!それがいい!」
シトリはヒゲをピンと張って目をまん丸にして期待を示した。
「OK、まずはこの詰め合わせを前払いとしよう」
「やったぁ!」
瀬田から50本入りボトルを渡され、テンション上がるシトリであった。
星琉がカートル国へ行っている間、影武者を務める事になったシトリ。
瀬田は報酬その2として、鑑定・解体・ストレージ(転移者3点セット)を付与するという。
それは冒険者のシトリには是非欲しいものであり、転移者の影武者として欠かせないものでもある。
通常は地球からアーシアに転移してくる者の特典だが、アーシアの人間が地球へ行って戻ってくる際にも付与される。
シトリは往復転移して3点セットを貰える事になった。
「セイル君、シトリ君に同行頼む」
「はい」
王城地下の転送陣へシトリを案内して、瀬田は星琉に指示する。
「シトリ君、向こうは重力がこちらよりかなり重い。猫の姿になった方がいいよ」
「OK」
二足歩行の猫人シトリが、ポンッと音を立てて仔猫の姿になった。
純白の毛並みに青と緑のオッドアイ、普段の姿に似た猫化だ。
「向こうはマナが全く無いからセイル君にくっついてるといいよ。転移者は体内にマナを蓄積してるからね」
「なるほど。じゃあセイル、僕を抱っこして」
「はいはい」
仔猫になったシトリを抱き上げて、星琉は転送陣に入った。
初めて見る異世界・日本。
シトリは興味津々で辺りを見回す。
「ねえねえ、せっかく来たからどっか案内してよ」
「いいよ」
シトリの要望に応えて、星琉は街へ出た。
案内したのは、SETA直営のアミューズメントパーク【Carnival Box】。
奏真の元職場であり、星琉がSword of Earthiaの鉄人戦で優勝した場所でもある。
「これがプルミエ剣術大会をモデルにしたゲームだよ」
「アーシアの環境を再現してあるやつ?」
馴染みの筐体の前で話していると、わらわらと人が集まって来る。
「セイル久しぶり~!」
「あれ? その仔猫どうしたの? 拾った?」
「白くて綺麗な子~」
「あ、オッドアイじゃん。 カッコイイね」
次々に声をかけられて、ちょっと圧倒されるシトリ。
「…ど、どうも」
「え?! しゃべった?!」
小声で答えると、更に注目を浴びた。
「アーシアから来た獣人のシトリだよ。今は猫化してるけどね」
星琉がフォローを入れたところ、更に賑やかになる。
「あ! なんか見たような気がすると思ったらSword of EarthiaⅡの決勝キャラだぁ」
「私シトリ推しなの!ねぇねぇ、獣人の姿になって~」
「いいよ」
「え?! シトリ待て…」
星琉が慌てて止めるが間に合わず。
推しと言われて調子に乗ったシトリ、ポンッと音を立てて人化するが…
「…お前な、今どういう状況か分かってる?」
「あはは…え~っと………」
…星琉に抱っこされた仔猫から人化して、お姫様抱っこ状態だ。
「待って! そのまま、そのまま! 撮らせて!!!」
シトリ推しの女子が現状維持を希望する。
「俺が一緒に写っていいの? 撮影代わろうか?」
「代わらなくていいの、そのままお姫様抱っこ維持で!」
星琉が気を使って撮影交代しようとするが、断られてしまった。
その後しばらく、セイルがシトリをお姫様抱っこ画像が
突発撮影会(?)が済み、シトリは人化した状態でVRの中に入ってみた。
「これ凄いね、重力も同じでマナまである!」
「俺や奏真はこのゲームで身体を馴らしてからアーシアに行ったんだよ」
そして、シトリはAI戦を体験してみる。
AI戦に出て来る対戦キャラは、プルミエ剣術大会に出ていた獣人たちの能力が再現されていた。
(…さすが、獣人最速って言うだけあるなぁ…)
ヒラリヒラリと攻撃を躱して、確実に連撃を入れる。
パワータイプのボルドーAIも当たらなければどうという事は無いと言いた気に楽勝。
ファイナルステージは自らをモデルにしたAIだ。
「お~! シトリVSシトリだ!」
「隠しキャラ使って対戦してるみたい!」
珍しい対戦映像にゲーマーたちが注目している。
能力値は同じかと思われたが、AIは半年前のシトリ、現在の方が成長した分強かったようだ。
「あ~楽しかったぁ!」
ゴキゲンなシトリ(仔猫Ver)を抱っこして、星琉はSETA社屋の転送陣に入る。
アーシアに戻る途中の空間に、出て来たのは春の女神アイラではなく…
「ようこそ、アーシアへ。私は女神レイラ…」
…秋の女神レイラだ。
纏う衣は紅葉の赤・橙・黄のグラデーション。
肌の色はアイラほどは白くなく、サーラのような褐色でもない、黄色人種に近い肌色だ。
「シトリ、貴方がセイルの代役をしやすいように、加護を授けましょう」
「本当?! ありがとう女神様!」
そして、星琉と同じ全属性魔法を授かるシトリ。
女神サーラが森田に授けたほどではないがそこそこの量があり、魔法データの波に押しのけられたシトリの意識は途切れる。
電池切れた仔猫みたいにクタッとしたシトリは、そのまま星琉に抱っこされてアーシアに戻った。
「シトリ君は加護を貰えたんだね」
戻って来た星琉の手から仔猫を受け取ると、瀬田はその頭を撫でて言う。
研究室にあるカプセル型の大型魔道具の中に仔猫を寝かせると、瀬田はそれを起動した。
「セイル君、このプレートに手を置いてくれるかい?」
「はい」
答えた星琉が手を置くと、プレートが発光する。
星琉の肉体を形作っているデータが、機械の中に入っているシトリの身体にコピーされる。
仔猫の身体が急速に大きくなり、人の形に変わってゆく。
ほんの数秒で、仔猫は星琉そっくりな少年に変身した。
「これで君がカートルに行っても、勇者セイル不在が敵にバレる事は無いだろう。私もサポートするし、心配しなくていいよ」
「はい」
その後、星琉&奏真は5~6歳の少年イル&レンとなり、カートルへ向かった。