カートル国の孤児院バザーは今回も大盛況。
孤児院スタッフも子供たちも、来客の対応に追われていた。
スタッフと子供たちが世話をした花も、調理スタッフが焼くパンやクッキーも、行列が出来ている。
その中でも特に長い列が出来ているのは、イルが売り子をする花の販売コーナー。
並ぶ人々は圧倒的に女性が多い。
販売品はカートルの特産品、ガラスに似た透明な器とビー玉のような物を使う飾り花だ。
「いつもありがとうございます」
リピーターたちに微笑みかける、無駄に愛想の良い美少年イル。
「美少年と花、あざとくも尊い組み合わせだわ」
「この孤児院、やるわね」
コッソリそんな会話をする女性陣。
(ふふふ、イル君の魅力をみんな分ってるじゃない)
得意気な笑みを浮かべるのは、イルのところへ追加の花を運ぶエレナ。
この追加分で本日の生花販売は終了だ。
完売と共にバザーが終わった頃。
「セイラ様?!」
いきなり駆け寄ってくる修道女姿の少女。
「え?!」
駆け寄る先は、生花販売を終えて片付けを始めたイルのところ。
「どうしてここに?! ずっと探してたんですよ!」
「…あの、誰かの間違いじゃないですか?」
凄く心配したのかポロポロ涙を零す少女に、イルも周囲の人々も困惑する。
「私がセイラ様を見間違えるワケありません!」
「いや思いっきり間違えてますから!」
言い切る少女に、孤児院スタッフ一同揃ってツッコミを入れた。
修道女姿の少女は、サラと名乗った。
孤児院前で号泣するので放っておけず、とりあえず応接室に通された。
サラはトワ国の神殿所属で、イルそっくりの聖女セイラに懐かれ、仕える事になったばかりの新米修道女らしい。
「セイラ様はカートルの大神官様の依頼で、秋の実りを祝福に来られました」
カートル国には現在聖女がいないので、隣国トワに産まれた聖女を呼んだという。
「生まれてすぐ神殿に預けられたセイラ様は、初めてのお出かけをとても喜んでらして、予定を早めてお忍びでカートルの街に来ていたのですが…」
ついさっきまで一緒に街を歩いていたのに、サラが屋台の飲み物を買って戻るまでの間にセイラは忽然と消えた。
サラは必死で探し回っていたら、バザーの片付けを手伝うイルを見つけたという経緯だった。
「着ている服は違いますが、お忍び用に男装したセイラ様そっくり。本当に別人ですか?」
「…俺、男ですよ?」
まだセイラではないかと思っているらしく、じ~っと見つめてくるサラにイルはタジタジだ。
「確認させて下さい」
「え? どうやって?」
「本物のセイラ様なら、胸元にトワの国花を描いたタトゥーがあります」
と言われ、イルはシャツの前ボタンを開けてタトゥーの無い肌を見せた。
「ほら、無いでしょ?」
「こんなにソックリなのに別人なんですか…」
再び号泣するサラであった。
イルがセイラではないと分ると、サラは孤児院を出て再び街へ探し回りに出た。
「迷子探しは人が多い方がいいわ。神殿に報せて捜索を手伝ってもらいましょう」
スタッフの1人が提案して神殿へ走る。
「じゃあ私達は、小さい女の子が行きそうなお店を見てみるね」
他に2人のスタッフが捜索に加わった。
「オレも迷子探す!」
「ボクも行く!」
イルそっくりの女の子と聞いて、主に男子たちが探すのを手伝おうとする。
「やめて、あんた達が迷子になるから」
が、迷子が増える予感しかない大人が全力で阻止。
孤児院の子供たちは昼食を済ませてお昼寝タイムとなり、イルとレンも自室へ戻った。
「サラさん、あちこち駆け回って探してるね」
「こりゃちょっと気の毒だな」
左手の魔道具を使い、登録したサラの移動と健康状態を確認しつつ2人は話す。
必死で走り回っているサラの健康は【疲労】表示されている。
たまに転んだりしているようで【転倒】【負傷・打撲】等と表示されたりする。
「ちょっと探すの手伝った方がいいね」
「あのアプリ使ってみるか?」
そして2人は窓に近付き、外から誰も見ていない事を確認すると窓を開けた。
偵察アプリ・familiar spirits、起動。
イルとレンそれぞれの左手から青と緑の小鳥が出現し、窓から飛び立つ。
2人の瞳と同じ色の小鳥は、上空から街の様子を観察した。
その映像は主である2人の脳へ送られてくる。
レンは同時起動で誘拐犯・洞窟に待機していた男・奴隷商人と御者の現在位置を探る。
セイラが姿を消した経緯が、以前のイル誘拐事件の状況と似ている。
もしやと思い探ってみると、街の外に2人組の誘拐犯のうち1人が出ていた。
(1人だけ、洞窟に来てる?)
使い魔の小鳥をそちらへ向かわせると、その男は大きめの背負い袋と弓矢を持っている。
パッと見は狩人か冒険者に見えるが、正体を知るレンの目はごまかせない。
一方イルはサラの動向を見守りつつ、独自の気配探知能力で彼女の敵対者がいないか調べていた。
そして、必死で走り回るサラが人気の無い路地に入り込んでしまった時、危険を感知する。
彼女に危害を加えようとする者が接近中だ。
「! …ちょっと行ってくる」
「じゃあ俺はあっち」
短い会話で意思疎通して、少年たちはそれぞれ転移アプリで移動した。