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第55話:サラとセイラ

(セイラ様、どこ?!)

 サラは必死で走っていた。

 既に息切れしていて、大声で呼び掛ける余裕は無くなっている。

「どうした? 誰か探してるのか?」

 声を掛けられて立ち止まると、胡散臭い男が建物の陰から数人出て来て囲まれた。

「俺たちが代わりに探してやるから、そこで休んでなよ」

「…い、いえ…結構です…」

 これ絶対ヤバイ人たちだと察して、サラは逃げ道を探す。

「遠慮するなよ」

 とか言う奴に限って遠慮した方がいいものだ。

「ひ…人手は足りてますから…!」

 後ずさりするも、退路も断たれている。

 サラを取り囲む男たちが、距離を縮めて来る。

 怯えた彼女は、声も出せずに固まった。


 ビシッ!


 突然、何か硬い物が当たった音がして、ドサドサッと男たちが全員昏倒する。

 その近くには、小石が転がっていた。


「え?!」

 何が起きたか分からないが今がチャンスと思い、サラは全力で逃走した。


 サラが去った後、物陰に隠れていたイルは小石で倒した男たちに左手を向ける。

 異空間牢が、昏倒した者たちを吸い込んだ。



『聖王国トワに聖女が産まれたのは聞いていたが、容姿までは知らなかったよ』

『しかも俺…というか【イル】にそっくりで、タトゥーを確認するまで別人だと分ってもらえなかったですよ』

『トワの国花イジェのタトゥーだね、白い5枚の花びらで、中央が黄色だよ』

 サラを襲おうとしていた男たちを異空間牢に放り込んだ後、一旦部屋へ戻ったイルは脳波通信アプリで瀬田と通話していた。

『その子、今見てるけどお前かと思うレベルにそっくりだぜ』

 誘拐犯を追跡中のレンが会話に加わる。

『攫った連中の様子はどうだい? 聖女と知って拉致したのか?』

 瀬田が問う。

 それによって今後の対応を考える必要があった。

『それが…あいつらどうやらイルと間違えてるみたいです』

 レンの答えは、人違い拉致だった。

『…って、俺今凄く罪悪感に襲われたんだけど!』

『あいつらなら商品価値重視で暴力は振るわないから大丈夫だろ』

 話しつつ隠れて様子を伺うレンが、洞窟内を撮影した動画をリアルタイムで送ってくる。


 洞窟内にはセイラを含めて拉致された者が3人いた。

 そこへ4人目を連れて、街に残っていた方の誘拐犯が合流する。

「今回は少ないな」

「街の連中がそいつ探して大騒ぎだからな」

 後から来た男が、洞窟の中に転がされているセイラを指差した。

「孤児のくせに人気あり過ぎだろ」


(………それ、俺じゃないけどね)

 動画を見たイルは心の中でツッコミを入れる。

 サラが間違うのも無理は無い、動画に映っている子供はイルに瓜二つだ。


「とりあえず馬車が来る前に準備しとこう」

 そう言って、誘拐犯たちが始める準備は、身元を知る手がかりになる衣服や所持品の剥ぎ取りだ。

 強い睡眠薬で深く眠らされた人々は無抵抗で衣服も所持品も奪い取られてゆく。

 剥ぎ取りが済んだ者は粗末な貫頭衣を着せられ、手足を縛られた。

「え?! おい見ろ、このタトゥー!」

「こ、こいつ女だぞ!」

「まさか、トワの聖女か?!」

 少年だと思っていた金髪の子供の衣服を剥ぎ取った時、彼等は動揺する。


 しかし、そこまでだった。


 背後から次々に小石が直撃、3人はバッタリと倒れた。

(さすがにこうなったらオークションに出すとか無いだろ)

 駆け寄ったレンは剥ぎ取られた衣服をセイラに着せてやり、その身体を抱き上げる。

 そして、転移アプリで孤児院の花園に移動した。


 そろそろ昼寝タイム終了でみんな出てくる頃。

 レンは花畑にセイラを寝かせると、皆に大声で呼びかけた。

「おーい!こっちに誰か倒れてるぞ!!!」

 声を聞いてスタッフも子供たちも慌てて走って来る。

「イル君?!」

 真っ先に駆け寄ったのはエレナ。

「どうしたのイル君?!」

 子供たちも大騒ぎになった。

「え~? 何~? なんかあった??」

 そこへ、しれっと現れるのは本物のイル。

「え!?」

 レン以外の一同、驚いて振り返った。

「こっちはイルじゃないぜ」

 花畑に寝かせていたセイラを抱き上げて、レンが言う。

「えええ~???」

 イルとレン以外、その場に居た全員が混乱した。



「セイラ様ぁぁぁ!!!」

 孤児院スタッフから報せを受けて、サラが必死で走って来る。

 が、入口で出迎えたイルを間違えて抱き締めてしまう。

「御無事で良かったですぅぅぅ!!!」

「違う違う、俺はイル、セイラはあっち!」

 サラの背中をペシペシ叩いて我に返らせ、イルは医務室まで案内してあげた。

 医務室では女性薬師テレーズがセイラの診察をしている。

 イルそっくりの金髪の子供は、以前のイルと同様に深い眠りに落ちていた。

「セイラ様………」

 サラがまたポロポロと涙を零す。

「大丈夫だよ、眠ってるだけだから」

 その服の袖をチョイチョイと引っ張って、イルが告げた。


 一方、眠り続けるセイラを見て、孤児院の男子たちがうずうずし始める。

 以前のイルの時と同じく一斉に駆け寄って来た。

「眠り姫はキスしたら目覚めるよ!」

「女の子に戻してあげるよ!」

 今度は本物の女の子で男装しているだけだ。


 絵本の影響受け過ぎ坊やたちがセイラにキスしようとするが…


「………やめとけ!」

「あんたたちも寝ちゃうから!」


 …イル&テレーズのコンビに阻止された。




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