大国カートルの王都は、人口約200万の大都市として栄えていた。
しかし、魔族ロミュラによってその時そこにいた人々は全て消滅、魔王の糧となった。
誰もいなくなった都市、誰もいない孤児院。
静まり返ったそこは、どこか現実感の無い雰囲気を漂わせる。
一体何が起きたのか未だ分からず、涙も出ずにただ呆然とするしかなかった。
独り残されたテレーズを放っておけず、渡辺が付き添っていた。
「この植物、花を楽しむだけじゃなく、種・花・果実・葉・根茎がお茶や薬や化粧品に使えます」
房状に白い蕾を付けた植物の前で、テレーズが話す。
「根からとれる汁は毒消しに使えるんですよ」
ほとんどの毒に有効なその解毒薬は、テレーズがよく作るものだ。
バザーに出したり、街の薬屋に卸したりしていた。
しかし今は、それを使ってくれる人々がいない。
街の人も、スタッフも子供たちも、どこへ行ってしまったのだろうか?
広大な樹海の地下、カートル地下大迷宮。
探索を続ける冒険者たちはバランスを考えつつ、馴染みのメンバーでパーティを組んでいる。
獣人族で構成されるパーティに狙いを定め、フォンセが襲い掛かる。
誰が使うか分からない反射系の魔法や魔道具を警戒し、自身に反射されても無効化出来る闇魔法を使う。
襲われたのは、Aランク冒険者で狐タイプの獣人ナルのパーティだった。
闇属性・特殊:
パーティの背後に現れて無詠唱で使った魔法は、対象の魔力を吸い取るもの。
全部吸い取れば、対象は意識を保てなくなり昏倒する。
上位になれば範囲内の複数対象から吸い取れる。
ナルたちのパーティには反射系が使える者はいない。
装備に魔法耐性はつけているが、魔王の眷属となったフォンセの魔法を防げるほどではなかった。
獣人は身体能力が高い代わりに魔力はそれほど高くはない。
瞬時に全魔力を失い、パーティ全員が昏倒した。
フォンセはそれを確認すると、彼等をロミュラの元に送った。
「こいつらも贄に出来るぞ」
フォンセが言い、足元にドサドサと転移されてきた獣人たち。
「反射は無いのね?」
ロミュラが確認する。
彼女が使う魔法は特殊で、無効化出来ないという。
「
フォンセが言うと、ロミュラは安心したのか魔法を使い始める。
生物が存在する為に必要なエネルギーを奪う魔法。
奪われた生物は完全消滅する。
獣人たちは消滅し、黒い霧となって災厄の主に吸収された。
が、1人だけ吸収されず復活した者がいる。
「な?! 何だここ?!」
狐耳とシッポを持つ少年ナル。
その身体をアクアマリン色の光が覆っていた。
「ほう、珍しい。【奇跡の雫】か」
他の獣人の存在力を吸収した事で目を覚ました魔王が言う。
奇跡の雫は以前、エルフの里で湖の精霊がリマに渡したもの。
死者を復活させる効果があり、所持者が死亡した場合は自動的に発動する。
それは、肉体と魂が存在する為に必要なエネルギーを失った者さえも復活させる効果を持っていた。
復活後しばらくはアクアマリン色の光に包まれ、ダメージ無効・状態異常無効となる。
大切なものを守る為に。
リマは危険な地下迷宮へ行く兄に持たせていた。
そして、ナルが復活した事で、偵察アプリに彼を追跡登録しているプルミエの勇者、双剣使い、トワの勇者が異変に気付いて転移してくる。
「ナル! どうした?!」
最初に転移してきたのは星琉の影武者シトリ。
ちょうど魔物を倒したところで仲間の危険を報せるアラートが鳴ったのでスッ飛んで来た。
ナルの近くに魔族がいたので転移アプリで位置を入れ替え、速攻で斬り付ける。
不意をつかれたロミュラが、斬撃をまともに受けて倒れた。
そこへ、奏真、イルが続いて転移してくる。
「魔族を見てすぐ攻撃とは、プルミエの勇者は随分と思い切りがいいのだな」
大量に出血して倒れているロミュラと本物の魔王を何処かへ転移させ、単独で相対するフォンセが言う。
「そうでもしなきゃ、こっちがやられるんでね」
その背後にいた奏真が、瞬時にフォンセに斬り付けた。
ヒューマンの動体視力では追えないその動作は、人ではなくなったフォンセには見える。
とはいえ、魔道士としての経験しかないフォンセには接近戦は難しい。
避ける合間に闇魔法を仕掛けるも、反射されるばかりで役に立たない。
一方、奏真の方もフォンセに動きを見切られている事で攻撃が届かず、決着がつけられずにいた。