カートル地下大迷宮。
聖王国トワ・プルミエ王国・カートル王国の三国による大規模な探索は、目標である重罪人フォンセの捕縛成功で完了した。
しかし、作戦途中でカートル国の王都から国王を含む200万人が消息不明となる事態。
領土内の村々も住民が消えており、カートル国の生存者は討伐隊に加わっていた冒険者たちと、人魚の里に行っていて難を逃れたテレーズとロシュだけ。
国王も政治に関わる者も全て消滅した為、カートルは滅亡したのと同じ状況だ。
フォンセの身柄は、プルミエの賢者シロウに託された。
ゾロゾロとダンジョンから出て来る人々。
その中でカートルの冒険者たちの表情は暗い。
Sランク冒険者エレナも涙を必死に堪えている様子が感じられた。
「おかえりエレナ。お疲れ様でした」
孤児院に戻ると、テレーズが出迎える。
エレナはそこで抑えていたものが溢れ出て、テレーズに抱きついて号泣した。
賢者シロウの地下研究室。
王族3名と瀬田がいるところへ
「よくぞフォンセを捕らえてくれた。後に公式に褒賞を与えよう」
プルミエ国王ラスタが話しているところへ、トワの勇者イルとなった本物の星琉も現れる。
相変わらず前世の姿のままで、まだプルミエには復帰出来なさそうだ。
イルは7~8歳くらいに見える華奢な体格の子供を抱えていた。
「ん? その子は? フォンセの奴隷を保護してきたのかい?」
瀬田が問う。
「いえ、これ魔王です」
「は?!」
さらっと答えるイルに、一同揃って子供を二度見。
抱かれている子は深い眠りに落ちていて、身体に全く力が入らずクタッとしている。
角も翼も無く、肌の色もイルとそう変わらない白さで、顔立ちも中性的で可愛らしい。
灰色の髪は長く、身体が華奢なので、女の子にも見える。
「いや待て、どこの世界に魔王をお姫様抱っこして来る勇者がいるんだよ!」
奏真がツッコむ。
「ここにいるけど?」
しれっと答えるイル。
「連れて帰るなよ! 倒してこいよ!」
「いや、弱々しすぎてそんな気にならないよ」
そんな会話を、他の面々は呆然として聞いていた。
ナルがきっかけとなり、フォンセの居場所を突き止めた勇者たち。
転移した際、フォンセだけでなくその場にいたロミュラと子供も追跡登録した。
フォンセが他の2人を逃がすのを見て、
一方、イルは独自の気配探知で子供が魔王だと分かり、追って行った。
魔王の体内にエネルギー化された人の魂があるのが視えて、それを取り返す為に。
「で、見つけた時は川でコケて起き上がれなくなって溺れてた」
「…それ、本当に魔王か?」
経緯を説明するイルに、奏真がまたツッコんだ。
追い付いて見ると魔王の身体は虚弱で、覇気も無ければ殺気も無かった。
まともに動ける状態ではないらしく、川で転倒した挙句に動かなくなり、水中を漂い始めたので慌てて駆け寄った。
そのまま死なれては困るので、水の中から助け上げて呼吸が出来る状態に治療した。
「行方不明の人たちは多分、シトリが倒した魔族の仕業だよ。魔王のエネルギーになってたけど、自力でやれる状態じゃなかったし」
「奇跡の雫で復活したナルの近くにいたのはあの女魔族だったもんな。間違いなくあいつがやったんだと思う」
イルの意見に
川から助け上げた後、イルは神樹の御使いの協力を得て
人魚の心臓以外の【存在力】を失った魔王は、意識を保てなくなり昏倒した。
その姿は無防備に眠る子供にしか見えず、止めを刺せず連れ帰り現在に至る。
「魔王って倒したら1000年くらいで転生するらしいから、このままの方が安全じゃないかな?」
「そうだね。とりあえず聖王国の法王様とセイラちゃんにも聞いてみよう」
イルの提案に瀬田が同意し、2人は昏睡状態の魔王を連れてトワに転移した。
「! 魔王…!!!」
見てすぐ反応したのはセイラ。
古代からの宿敵なのでどんな姿でも分るらしい。
本能的に
「魔王の左胸、核を聖剣で刺して! 早く!」
「まてまてまて! 落ち着いて!」
グッタリして喘ぐ子供を抱いたまま、イルが慌てて飛び下がる。
「どうして庇うの?! 前世の貴方を殺した者なのに!」
セイラが涙を流して叫ぶ。
「いや俺には記憶無いし! それに倒しても転生するなら封印の方がいいと思うよ」
「専用の魔道具を作って封印するよ。この虚弱体質のまま眠らせておく方が安全だからね」
イルと瀬田が説明する。
さすがにセイラも少し落ち着いた。
トワの法王と聖女の許可を受けて、イルは魔王をプルミエに連れて行った。
セイラの
とりあえず封印用の魔道具が完成するまで、異空間牢に収容した。