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第33話:魔物退治

 エルティシアに来て2週間が過ぎた。

 フリー討伐クエストと食材調達を兼ねて、俺は今日も森に入る。

 人目を避けるため、狩りに行くのはいつも夜だ。

 夜といっても白夜だから、真っ暗ではない。

 翔曰く、この時間帯が最も魔物が活発化して遭遇しやすくなるので、一般人は勿論、冒険者も何か事情がない限りは森には立ち入らないそうだよ。

 魔物退治は聖者や聖女、聖水や聖なる武器を持つ冒険者の仕事だけど、彼らも夜の森には行かない。


 そんなに忌避される夜の森が、どれほどのものかというと……


「お~こりゃ多いな」


 ……昼間は何処にいたんだ? ってくらいの群れが、夜の森を闊歩している。


 昼間は見かけても単独なのに、夜の森では1匹見たら10匹いると思えってくらい、群れを成していた。

 更に、まるで感染が広がるように、今まで普通の生き物だったものまで魔物化してしまう。

 ベテランの冒険者でも、この数は厄介かもしれない。

 おまけに、夜の魔物は能力が上がるのか、昼間と同じダメージでは消えない。

 魔物の攻撃を受けると、聖なる力を持たない者は傷口から黒化が広がり、知性を失い魔物化する。

 聖なる力を持つ者は黒化や魔物化はしないけれど、傷は負うので危険なのは同じだ。


 でも……


「あ~、はいはい」


 ……俺には全く当たらない。


 群がって攻撃するが、ミスを連発する魔物たち。

 その中央で、涼しい顔して立つ俺。

 コピーされたユニークスキル【完全回避】は、今日もしっかり仕事しているよ。


「みんな、集まったかな?」


 呑気に言う俺の言葉を、魔物たちは聞いちゃいない。

 普通の人が見たら腰を抜かすような数の魔物が集まったところで、俺の背中から大きな白い翼が広がる。


白き翼エルブランシュ!」


 起動言語と共に、白い翼はバッと散って、無数の刃のような白い羽となり、魔物たちを襲う。

 羽が刺さると、魔物たちは瞬時に消滅した。


 ナーゴのダンジョンボスから貰った攻撃スキル、白き翼エルブランシュ

 全方位、範囲型の物理攻撃。

 そこに聖なる力が加わるので、魔物の群れ相手に都合の良いスキルだ。


 そんな感じでユニークスキルとダンジョンボススキルを活用して、夜勤の魔物退治デバッグを終えて帰ろうと森を歩いていた俺。

 途中で誰かが戦ってる気配に気付き、コッソリ様子を見に行ってみた。


(え?! カリン?!)


 なんと、そこで戦っているのは、金髪碧眼6歳美少女カリン。

 いつもと違うのは髪を結ってなくて、服装がネグリジェらしき物ってところ。

 カリン、夜更かしはお肌の敵とか言って、いつも早寝早起きなのに。


 なんで真夜中の森に来てるんだ?

 まさか、トイレに行こうとしたら寝ぼけて迷い込んだとかじゃないよな?


 翔に見出された子供なだけあって、カリンの聖なる力は強かった。

 魔物はどれも、彼女の手から放たれる白い光球1発で消滅している。

 努力家でもあるから、6歳児とは思えない戦闘技術もあるように見える。


(これなら、自力で全部片付けちゃうかもな)


 思った後、すぐにそれは間違いだと気付く。

 真上から降ってきた小型の魔物が、持っている大きな石でカリンの頭部を殴りつけた。

 カリンはよろめいて、倒れそうになる。

 危険と判断した俺は、助けに向かった。


 加速魔法【風神の息吹ルドラ】ON。


 音速移動でカリンに駆け寄り、彼女が倒れる前に左腕で抱き寄せる。

 右手に持っている剣で、空中で静止したみたいになっている小型の魔物を両断、消滅させた。

 付近の魔物は既にカリンが倒しており、これで片付いたようだ。


 剣を異空間倉庫ストレージに収納し、俺はカリンに治癒の力を使ってみた。

 石で殴られたカリンは頭から血を流して気を失っている。

 頭を打ってるから、なるべく動かさないように、抱き寄せた体勢のまま治療しよう。

 傷口に手をかざし、治るように願うと、その手から金色の光が湧き出て傷口を覆った。

 ほんの数秒で血が止まり、傷は跡形も無く完治してゆく。


(治癒の力が使えて良かった。完全回復薬エリクサーなんか飲ませたら怒られそうだし)


 まだ意識は戻ってないカリンの顔を見て、俺は少しホッとした。

 重傷なら仕方ないかもしれないけど、軽傷で薬の口移しなんて絶対嫌がるだろ。


 聖なる力は、基本的に術者の体力や生命力を消費する。

 平均寿命60~70年程度のエルティシアの民に比べて、1000年の寿命を持つ世界樹の民は生命力が高い。

 大量の魔物に聖なる力を使いまくった後でも、俺は余裕で治癒の力が使えた。


 傷が完治したカリンは、まだ気を失っている。

 気が付くまで待って事情を訊くか? 部屋に戻して何も知らないようにふるまうか?

 ちょっと考えて、俺は後者を選択した。


 カリンをお姫様抱っこして運ぶ姿は、風神の息吹ルドラを使えば、誰にも見られずに済む。

 俺はコッソリ神殿に帰り、ちょっと申し訳ないけど彼女の部屋に入り、ベッドに寝かせてあげた。

 部屋の窓辺には、鉢植えの可愛い花が飾ってある。

 女の子の部屋にあんまり長居したりジロジロ見たりするのはよくないと思い、俺はすぐ外に出た。


 カリンは森へ行ったことを覚えているのだろうか?

 生活魔法の【分離】で、彼女の髪に付いた血やネグリジェっぽいものに付いた汚れは取り除いてある。

 翌朝ベッドで目覚めて、あれは夢だったんだなと思うかもしれない。


 カリンが何故あそこにいたのか、気にはなるけれど。

 まさか、夢遊病とかじゃないよね?












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