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第46話:霊の親子

 アサギリ島。

 ルルの木の根元に空間移動した俺は、ルルとアズの霊を呼んだ。


「ルル、アズ、出てきて」

『何か見つかった?』

『ルイの霊はいたか?』


 2人は、すぐ出てきてくれた。

 続いて俺は、セレネの霊を呼んだ。


「セレネ、出てきて」

『はぁい』


 セレネもすぐ出てきてくれた。

 こうして見比べると、やはりルルに似ている。


『イオ、その子は?!』

『その顔立ちは、まさか……』

『ママ……パパ……』


 ルルとアズは、すぐに気付いた。

 セレネも気付いた。

 両手を差し伸べる母の胸に、娘はすぐに飛び込んだ。

 俺の時とは違い、霊と霊だから、すり抜けることはない。

 アズは、妻ごと娘を抱き締めた。


『嬉しい。……残っていてくれてありがとう……』

『名前をもらったのか? 霊力が安定しているね』

『うん、現世のパパが名前をくれたよ』


 3人の霊はしばし再会の喜びに浸った後、セレネが「現世のパパ」と呼ぶ俺の方を向いた。

 緊急だったから俺が名付けたけど、ルルやアズが正式な名前をつける方がいいかもしれない。


「もしも、2人が考えた名前が良ければ……」

『私、セレネがいいよ』

『私もセレネがいいと思うわ』

『いい名前だと思うぞ、セレネ』


 3人とも同意見の即答だった。

 それでいいのか?


「でも俺には前世の記憶が無いから、セレネの家族じゃないよ?」

『記憶なんて関係ないよ。前世パパも現世パパも、魂は一緒でしょ』


 セレネは、俺がアズの記憶を継承しなくてもいいらしい。

 アズの血縁者で、そう言ってくれたのはセレネが初めてだ。


「ありがとう。セレネはいい子だね」

『ルイもそう思っていたよ。記憶は無くてもパパなんだって』


 それは想定外。

 日本人に転生していた俺の身体を、わざわざ前世返りさせたり容姿固定したりするから、てっきりアズに執着してるんだと思ったのに。


「ルイは俺なんか要らないんじゃないの? 欲しかったのは魂だけじゃない?」

『ちがうよ。現世パパにもいてほしいから、この世界に呼び戻したんだよ』


 セレネが語る詩川琉生の気持ちは、予想していたものと違った。


『身体を前世返りさせたのは、そちらの方が長生きするからだよ。地球人の身体だと10分の1しか寿命がないから』

「じゃあ俺に、異世界転移すると死ぬ呪いをかけていたのは?」

『ナーゴ固定は、神様の命令で異世界に飛ばされないようにするためだよ。転移したら死ぬなんて知らなかったの』


 そういえば、俺が異世界転移したら死にかけたと言ったら、彼は動揺していたな。


『それで、ルイは現世パパにかけたナーゴ縛りを解こうとして、蛇将軍の話に乗ってしまったの』

「まさか、それって……」


 もうこの時点で、俺もルルもアズも、分かってしまった。


『術者が死ねば、呪いは解除される、死んでもすぐ転生できる方法があるって言われてたわ』

「つまり、呪いを解くために死んで魔族転生したのか」

『魔族に転生するなんて聞いてない。また日本人になると思ってたよ』


 ……騙されたんだ、彼は。


 命を犠牲にしてまで、俺の呪いなんか解かなくてもよかったのに。

 俺はコピー体での活動で、何の支障も無かったのに。


『トゥッティは【魔王】を求めていたわ。私が応じないからルイを利用したのね』


 ルルが、静かに怒っていた。

 かつて、蛇将軍はルルの転生を願っていたらしい。

 それを拒絶されたから日本へ行き、何かを企んでいたものの、765人一斉転移というとんでもない力で強制送還された。

 もしかしたらその時点で、詩川琉生の力に気付き、魔王化の可能性に期待したのかもしれない。


『だとしたら、転生したルイには生前の記憶は残されていないだろう』


 アズも冷静でありつつ、その内面に怒りがあるようだった。

 せっかく、日本人に生まれて幸せに暮らしていたのに。

 セレネのように触れ合うことはできなかったけど、ルルとアズは時々会いに来てくれるルイを嬉しく思っていたらしい。

 記憶と心の保存をしていなければ、詩川琉生の記憶や人格は二度と戻らない。


『ルイは消えてしまったけど、魂は取り戻せると思う』


 希望を告げたのは、セレネだった。

 そうだ、セレネを体内に取り込めば、転生者の身体の支配権は前世に移る。

 転生者は魔族に洗脳されている可能性が高いから、セレネに身体の支配権を移す方が良さそうだ。

 6つの心臓を破壊して残り1つで生きていけば、魔族の身体でも平和に暮らせるかもしれない。

 何なら、翔に事情を話して、エルティシアに連れて行ってあげてもいい。

 カリンもきっと、新しい子を受け入れてくれるだろう。


「じゃあ、これからやるべきは、予備の心臓を破壊して無力化することかな?」

『うん。私、現世パパについていくね』


 こうして、セレネは変身の腕輪を依り代に、俺に同行することになった。

 とりあえず入ってもらってるけど、もう少し落ち着けるものの方がいいかも。

 翔に頼んで、キャラクタークリエイトでセレネに仮の身体を創ってもらおうかな。

 タマとカリンにも、新しい情報を伝えないといけない。

 でもまずは、生徒会室へ帰って報告をしておこう。


「ルル、アズ、子供は必ず連れ戻すから、待ってて」


 俺は2人にそう言って、アサギリ島から生徒会室へ空間移動した。




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