「白き神殿には不吉な、闇色の髪と瞳……。エレ兄、何でそんな魔物みたいな奴を連れてきたんだ?」
シアルと呼ばれた少年から、侮蔑と嫌悪を含んだ視線が向けられる。
それは人としての好き嫌いではなく、人外の忌むべきものを見るような目だった。
「魔物?」
リオは唖然とした。
黒髪・黒い瞳が普通の日本で育った彼には、その色を嫌うシアルの言葉が理解出来ない。
「黒は魔に属する者の色だ」
シアルはつかつかと歩み寄ると、リオの髪をグイと掴んだ。
「痛っ」
リオは顔をしかめる。
銀髪の少年シアルは背格好が変わらぬリオを鋭い目で睨み、髪を掴む手の力をギリッと強める。
「闇に染まった奴がリュシアの
シアルは怒鳴ると、リオを突き放した。
(……
硬い地面に尻餅をつき、呆然とするリオ。
「お前なんか認めないっ!」
シアルは刺さっていた剣を引き抜くと、不意に切りかかってくる。
「わっ?!」
慌てて避けたものの、鋭い切っ先は左肩を掠め、デニム製ジャケットの袖を裂いた。
「やめなさい、彼は魔物ではありません」
止めに入ったエレアヌの脇をすり抜け、敏捷な少年は再びリオに襲いかかる。
身の危険を感じたリオは立ち上がり、逃走を始める。
「人間に化けても無駄だ、正体を現せ!」
「人を狸か狐みたいに言うなっ!」
怒鳴り返したものの、武器を持たぬリオに反撃する術はなく、ただ走って逃げるのみ。
瓦礫の転がる赤錆色の大地を、逃げる者と追う者、二人の少年が全力疾走する。
だがそれは、数百メートルほど走った地点で終わりとなった。
(……行き止まり……?)
逃げ足の速さでシアルを引き離していたリオは、厚着のせいで汗だくになりながら、呆然と立ち止まった。
行く手を阻むのは、どう見ても飛び越えられそうにない、巨大な地割れ。
「それが何か、お前に分かるか?」
息を切らして追いついて来た銀髪の少年が、右手の剣で地割れを指し示して言う。
「聖域に近付く魔物を減らす為に、リュシアが大地を裂いたんだ。……彼は大いなる力をもってた。武器も持たずに敵を倒す、不思議な力を持つ人だった……」
シアルの蒼い瞳が、微かに潤んで揺れる。
(……泣いてる……?)
地割れの間近に追い詰められていながら、リオはそんな事を思う。
「お前に、それが出来るか?
しかし、何かを払い除ける様に頭を振ると、シアルの目付きはまた鋭くなった。
「リュシアの名を騙る奴は許さない!」
両手で頭上に振り上げた剣が、明け方の太陽の如く輝く。
逃げ道を失ったリオは、咄嗟に身体を丸め、両手で頭を覆う。
「魔物め、その命で罪を償え!」
剣が振り下ろされた瞬間、リオの身体から閃光が迸った。
「何っ?」
シアルは目を剥いた。
青みがかった銀の光が壁のように剣を遮り、どんなに力を加えても、リオの髪の先にすら到達しなかった。