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第68話:地下の王国

 地面に描かれた魔法陣のような「扉」に、リオは一歩足を踏み入れる。

 円や文字と同じ青い光が、彼の身体を包んでゆく。

 「こら待て、俺を置いて行くな!」

 慌ててシアルが腕を掴む。他の者も急いで円の中に駆け込んだ。

 青い光は全員を包み、異なる場所へと導き始め、五人の姿はその場から消えた。



「闇の知恵が生みし偽りの生命よ、我が前に姿を現せ」

 血色の宝玉を前に、漆黒の長衣を纏った青年は玲瓏とした声を響かせる。

 宝玉といってもその大きさは半端ではない。

 それが、不気味な明滅を数回繰り返すと、主たるディオンの召喚に応え、魔物達が姿を現した。

 墨のように黒い、一つ目の怪物。

 手足の数は同じだが、その身体は人間より二まわり大きく、筋肉の量に至っては三倍はあると思われる。

 スルリと宝玉から抜け出てくる魔物の数は、ざっと数えて二十~三十といったところ。

「行け、獲物がやってきた。思う存分貪るがいい」

 ディオンが命ずると、化け物達は宝玉から離れ、外への扉へと歩き出す。

「ただし黒髪の小僧だけは生かしておけ。俺が息の根を止めてやる」

 冷ややかな声で命令が加えられた。



「……ここが黒き民の国……?」

 リオは呆然と、辺りを見回す。

「……信じられない……空が黒いなんて……」

 見上げるミーナの瞳に映るのは、夜空より暗い空。

 ……いや、それは「空」というのはおかしい。

 なにしろ彼等が立っているのは、地底なのだから……。


 あまりに巨大な空間で、別世界に来た様な気分にさせられる。

 けれどそこは、確かに死の大陸地下なのであった。


「リオ様、あれは?!」

 周囲を見回したオルジェが、遠くに小さく見える黒い城に気付いて声を上げる。

「……あそこに黒き民たちがいるのか……」

 リオが呟いた時、城の方から近付いてくる人影が見えた。

 その数は、およそ二十~三十。

 しかし、姿が確認出来る位置まで近付いて来た時、ミーナが小さな悲鳴を上げた。


 シアルが、右腕を胸の前にして身構える。

 輝く光明が、その手から伸びた。

「来るなら来やがれっ、みんなぶった切ってやる!」

 現れた聖剣を掴み、彼はキッと魔物の群れを睨みつける。

「夜明けの光よ、俺に力を! 聖者を護る、強い力を!」

 叫んだ直後、剣は金色に輝いた。


「あの魔物には、歌は効かないのですか?」

 その後ろで、ミーナがエレアヌを見上げて問う。

「あれは黒き民の魔力が生み出した化け物です。人間らしい感情など最初からありはしません」

 嫌というほど見てきただけに、考えなくとも答えは出された。


「生命を蝕む偽りの生き物、お前達に遠慮はしない!」

 リオの瞳が、瑠璃色に変わる。

 黒髪が青銀に変わり、その身体を青みがかった銀の光が包んだ。


「私も戦います!」

 オルジェも腰に下げていた剣を抜いた。


「ミーナ、エレアヌ、そこから動かないで」

 戦いには不向きと思われる二人を、リオの防御壁が包み込む。


 最初に一撃を加えたのは、血の気の多いシアル。

 瞬時に切り伏せられた魔物が、塵と化して消え去った。


「僕は戦いに来た訳じゃない。だけどお前達が危害を加えるつもりなら、容赦はしない」

 普段より少し低い声で、リオは言う。

 スッと掲げられた片手が、閃光を放った。

 身体を包む光より激しい、青銀の輝き。

 次の瞬間、光球が魔物を粉砕した。



「死にぞこないのくせに、なかなかやるじゃないか」

 水鏡を前に、ディオンは冷ややかな笑みを浮かべる。

「……それとも、魔物の質が悪かったかな……?」

 黒い水盤、その面に映るのはリオ達の様子。

 戦況は殆ど人間側の優勢であった。

「もう少し遊んでやるか」

 言うと、闇の王は玉座から立ち上がった。

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