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EPILOGUE

 ―――どこにいる……?

    探しても見つからない……

    いつも傍にいると言った大切な魂

    僕は、ここにいるよ……―――



 緑の葉を茂らせる菩提樹の下、一人の青年が佇む。

 青年は大木の幹を見つめ、慈しむように撫でている。

「何じゃ、またお前さんか」

 声をかけられ、青年はそちらに目を向けた。

「今日は、授業は休みか?」

 声の主は、図書館の管理人。

 既に馴染みとなっているのか、その口調は穏やかであった。

「うん。今日は先生が風邪で寝込んで休講になったよ」

 風に髪を揺らしながら、青年は軽く微笑む。


「どうじゃ、探し人は見つかったか?」

「全然」

 老人はまた問い、青年は肩をすくめた。

 そんな会話も、最近は馴染みになっている。


「……生まれ変わり……とか言っておったな? それは人間だけかのぅ?」

 どっこいしょ、と隣に座り込み、小柄な老人は長身痩躯の青年を眺める。


「……違う。この世の全てのものは皆、輪廻の流れの中にある。生まれ変わるのは人だけじゃなく、鳥も、獣も、草木も、みんな生命の輪を描き、有から無、無から有へと渡ってゆくんだ……」

 空を見上げた青年の瞳が、一瞬青く染まる。

 どこか現実離れした、ともすれば宗教的なその話を、老人は普通に聞いている。


「じゃあ、お前さんの探し人は、人間以外になっておるかもしれんな」

 深い皺が刻まれた顔に温和な笑みを作り、老人は嗄れた声で言った。

 青年が誰かの生まれ変わりを探している事は、既に聞いている。


「……だとしたら見つけられないかもしれない……。人間だけでも一苦労なのに、鳥や動物だったら……」

 溜め息を漏らす彼の髪を、風が柔らかく揺らす。


「……なあ、儂は思うんじゃが……」

 老人も青く澄んだ空に目を向け、ぽつりと意見を述べる。

「その探し人っちゅーのは、いつもお前さんの傍にいると言っておったんじゃろう?」

 その言葉に耳を傾けようと、青年が視線を空から老人へと移した。

 老人も目を合わせ、それから背後の大木を振り返り、言葉を続ける。


「この菩提樹、お前さんがそこにおる時、いつも葉や枝を揺らしておる。それも、お前さんの居る方向にだけじゃ。……何を言おうとしとるか分るな? リオ」

 言われた青年は立ち上がり、緑の葉を茂らせる大樹の幹に額を寄せた。

 菩提樹の幹を軽く撫で、彼は小さく低く穏やかな声で何か呼びかける。


 呼応する様に、大樹はその葉を震わせた。



 ―――時は流れ、魂は異なる地へ渡りゆく。

 過去も現在も未来も、すべて

 いつか見た、夢の伝説にかえて…―――


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