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第78話:30分だけの神隠し

 「古谷っ!」

 出た途端、いきなり久しぶりに名字で呼ばれる。

 久しぶり過ぎて、リオは自分が呼ばれたと気付くのが少々遅れた。

「お前、何ともないのか?」

 菩提樹の根元に佇む少年に、悪友二人が駆け寄った。

 一度は逃げ出した彼等は、リオを探しに戻ってきている。


「本田、鈴木ひっさしぶりだなぁ」

「はあ?」

 リオの思わず口をついて出た言葉に、二人は首を傾げる。

 彼等にとって、リオから離れたのは僅か三十分ほどの事だ。


「どーでもいいけど、何だよお前、いつ着替えた?」

 ボサボサ髪の少年が言う。

 はぐれる前とリオが着ていた服が違う。

 手ぶらで来ていた筈だが、いつどこで違う服に着替えたのか?


「それに何か、髪と背が伸びたんじゃないか?」

 眼鏡小僧も問うた。

 リオの身長は彼と同じくらいだったのに、ほんの少し背が高くなっている。

 髪に至っては、短髪からセミロングに近い長さになっていた。


「ま、気にしない気にしない」

「気にするよっ!」

「なんの怪奇現象だよ?!」

 飄々として言う彼に、二人がそれぞれツッコミを入れた。


「教えろ、コラッ」

 ボサ髪少年がくらわすヘッドロック。

 しかしリオは、ただ笑ってみせただけ。

「行方不明の三十分、一体何やってたんだよっ」

 眼鏡小僧が両手でリオの頬を挟む。

 でもやっぱり、リオは笑ってごまかし続けた。


「こら! そこで何しとる!」

 その時、嗄れた声がして、管理人の老人が走ってくる。

 懐中電灯の光を揺らしながら近付いて来た老人は、三人の少年たちを発見した。


「げっ、また出たっ」

「おい、逃げるぞ古谷っ」

 悪友たちが、怪物でも見たかのように言う。

 顔を引き攣らせて後ずさりし、逃げる準備にかかる。


 しかし、三十分だけ行方不明だった少年は、逃げようともせずに言った。

「おじさんゴメン!」

「は?」

 怒鳴るより先に謝られ、管理人はとぼけた声を上げる。

 リオは傍らに立つ菩提樹の幹をそっと撫でた。


「この木に呼ばれて、ちょっぴり不思議体験させてもらったんだ」

 悪びれる様子もなく笑顔で言う彼に、老人も悪友達もしばし呆然となった。


 その後、少年たちはたっぷりと説教され、それぞれの家に帰る。

 リオは帰宅して家族にも服装や髪や身長の変化について聞かれ、実際に起こった事をそのまま話したけれど、理解が追い付かない様子だった。

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