「古谷っ!」
出た途端、いきなり久しぶりに名字で呼ばれる。
久しぶり過ぎて、リオは自分が呼ばれたと気付くのが少々遅れた。
「お前、何ともないのか?」
菩提樹の根元に佇む少年に、悪友二人が駆け寄った。
一度は逃げ出した彼等は、リオを探しに戻ってきている。
「本田、鈴木ひっさしぶりだなぁ」
「はあ?」
リオの思わず口をついて出た言葉に、二人は首を傾げる。
彼等にとって、リオから離れたのは僅か三十分ほどの事だ。
「どーでもいいけど、何だよお前、いつ着替えた?」
ボサボサ髪の少年が言う。
はぐれる前とリオが着ていた服が違う。
手ぶらで来ていた筈だが、いつどこで違う服に着替えたのか?
「それに何か、髪と背が伸びたんじゃないか?」
眼鏡小僧も問うた。
リオの身長は彼と同じくらいだったのに、ほんの少し背が高くなっている。
髪に至っては、短髪からセミロングに近い長さになっていた。
「ま、気にしない気にしない」
「気にするよっ!」
「なんの怪奇現象だよ?!」
飄々として言う彼に、二人がそれぞれツッコミを入れた。
「教えろ、コラッ」
ボサ髪少年がくらわすヘッドロック。
しかしリオは、ただ笑ってみせただけ。
「行方不明の三十分、一体何やってたんだよっ」
眼鏡小僧が両手でリオの頬を挟む。
でもやっぱり、リオは笑ってごまかし続けた。
「こら! そこで何しとる!」
その時、嗄れた声がして、管理人の老人が走ってくる。
懐中電灯の光を揺らしながら近付いて来た老人は、三人の少年たちを発見した。
「げっ、また出たっ」
「おい、逃げるぞ古谷っ」
悪友たちが、怪物でも見たかのように言う。
顔を引き攣らせて後ずさりし、逃げる準備にかかる。
しかし、三十分だけ行方不明だった少年は、逃げようともせずに言った。
「おじさんゴメン!」
「は?」
怒鳴るより先に謝られ、管理人はとぼけた声を上げる。
リオは傍らに立つ菩提樹の幹をそっと撫でた。
「この木に呼ばれて、ちょっぴり不思議体験させてもらったんだ」
悪びれる様子もなく笑顔で言う彼に、老人も悪友達もしばし呆然となった。
その後、少年たちはたっぷりと説教され、それぞれの家に帰る。
リオは帰宅して家族にも服装や髪や身長の変化について聞かれ、実際に起こった事をそのまま話したけれど、理解が追い付かない様子だった。