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第18話ー宰相ボゴスー

焼き殺された者の遺体を運び出す者たちを横目に見ながら、私はその表情を変えずに炎帝の傍に侍っている。

「ボゴス! 何か手は無いのか!」

炎帝は苛ついていて、言葉を間違えれば、その火の粉は自分にも降りかかるのは明白だ。

「捜索隊を再編成致しましょう。」

そう言うと炎帝の手の平の上の炎がほんの少し弱まる。

「再編成か……その人選はお前に任せるぞ。」

炎帝はそう言うと、大きな溜息をつく。その時、一人の侍従が玉座の間に入って来る。

「皇帝陛下。」

侍従がそう言いながら、片膝を付き、言う。

「皇城の前で怪しい者が、何かを申しております。」

その言葉に反応した炎帝は、少しニヤッと笑い、言う。

「何だ、面白そうじゃないか。その者をここへ。」


◇◇◇


連れられて来た者は、見るからに貧しそうな出で立ちをしており、その瞳は真っ白だった。

「目が見えないのか?」

炎帝がそう聞くとその者を連れて来た衛兵が言う。

「はい、盲目のようです。」

その者は真っ白な瞳でどこを見るでもなく、宙を見ている。薄汚れた衣服は見た事も無いような異国のもの、その首にはいくつもの大きな首飾りが付いている。

「名を名乗れ。」

炎帝がそう言うと、その者が両膝を付いて言う。

「私の名はジャーメイン、占いをしております。」

占い師…そう聞いて、その成りの納得が行く。

「何か面白い事を喚いているそうだな。」

炎帝がニヤニヤと笑いながら言うと、ジャーメインと名乗った男が言う。

「占いの結果が出たので、それをお伝えに来たのです、皇帝陛下。」

目が見えていない筈のジャーメインが真っ直ぐ、炎帝を見ながらそう言う。不思議な力があるのかもしれないと、何故かそう思わせる雰囲気を持つ男だった。

「言ってみろ。」

炎帝がそう言うと、ジャーメインは天を仰ぎながら言う。


「英雄は最果ての地に……英雄を連れ戻せば、崩壊に繋がる……」


何かが乗り移ったようにそう言うジャーメイン。最果ての地と聞いて、私は内心、驚き、そして恐怖した。


最果ての地だと?! そこには私が逃がした皇女様がいらっしゃるのだぞ!


そう思いながらも、それを表情には出さない。

「ボゴス!」

呼ばれて私は返事をする。

「はい、陛下。」

炎帝はニヤニヤ笑いながら、言う。

「聞いたか? 英雄は最果ての地に居るのだそうだ。」

炎帝が私を見て言う。

「捜索隊を再編成し、追手を差し向けろ。」

私は平静を装いながら聞く。

「崩壊に繋がると、そう申しておりますが……」

私がそう言うと、炎帝が高笑いする。

「たかが占い師の言う事だ、気にするな。」

そう言いながらも炎帝はジャーメインを連れている衛兵に言う。

「その者は地下牢にでも繋いでおけ。何か面白い事を言い出したら、また連れて来い。」

ジャーメインは衛兵に連れられて、玉座の間を後にした。

「ボゴス、優秀な人材を選び出し、最果ての地とやらに行かせろ。」

そう言われて私は頭を下げて言う。

「御意にございます。」


◇◇◇


私は自身の執務室に戻りながら人選を考える。捜索隊を再編成し、最果ての地へと向かわせなければならない。あの炎帝に忠誠を誓いながらも、もしかしたら、最果ての地にいらっしゃる皇女様の助けになりそうな、そんな人物……。大きな溜息を付きながら、書類をめくる。再編成にはそれ程、時間をかけられない。城に居る騎士ならば、いつ命じられても動けるようにはしてあるだろう。


皇女様……最果ての地でお元気に過ごされているだろうか。私のところには秘密裏に最果ての地で革命の火が灯っている事が知らされて来ている。あの炎帝であれど、その目を欺く事は容易い。血も涙も無い炎帝だが、その才覚は治世のそれでは無い。


幼い頃からあの炎帝を見て来た。私は代々、宰相の職を任されている家系だ。皇家が代々続いて行く中で、今が一番酷い治世だった。幼い頃よりロベルトの暴君のような振る舞いは顔を出していたし、その暴君を助長させたのは何と言っても乳母のオーブリーだろう。


オーブリーはロベルトを溺愛し、ロベルトを皇帝にすべく、その地位を脅かす可能性のあるミア様を排除しようとあらゆる画策を講じて来ていた。まだ言葉も分からないようなミア様に辛く冷たく当たり、前皇帝が亡くなった時には、その手さえ、ロベルトの為に汚したのだ。


洗脳とも言うべきその教育は、確実にロベルトに影響していた。オーブリーが何故、そこまでロベルトを皇帝にしたがっていたのかは、誰にも分からない。だが代々、皇家に仕えている私には分かる。


ロベルトを産んだのは、亡くなった皇后様では無いという事を。


そう、ロベルトは先代皇帝とオーブリーの間に出来た子だ。


オーブリーは自分が産んだ子を皇帝にしようと画策し、正当な皇位継承者であるミア様の排除を目論んだ。そしてその目論見が上手く行き、ロベルトは今や、炎帝と呼ばれるまでになっている。ミア様が殺されず、生かされた事は不幸中の幸いだっただろう。ミア様を殺す事、それはあの冷血な炎帝ロベルトであっても、躊躇わずにはいられない事だった。それ程までにミア様には「何かがある」と感じずにはいられないのだ。


リナリアの力の継承者である事。それがロベルトの劣等感を刺激しながらも、その力が失われる事を何よりも恐れている。だからこそ、生かさず殺さず、北の塔に幽閉していたのだ。政治的に影響力を持たないように誰とも会わせず、その力を誰かに見せる事が無いように。そしてロベルトは自身に逆らう事の無いようにミア様に躾をした。洗脳とも言うべきそれは、ミア様を浸食していき、遂にはその意志さえ奪ってしまった。それを不憫に思っていた事は言うまでもない。


だが。


私がミア様を逃がしたのには、別の理由がある。


在ろうことか、あの炎帝は美しく成長されたミア様に良からぬ思いを寄せたのだ。


忘れもしない、ミア様がもう少しで成人される頃。それまでロベルトはミア様の躾を定期的に行って来ていたが、ミア様が何の反応もしなくなると興味を失い、北の塔へはほとんど行かなくなっていた。その日、気が向いたロベルトは私を引き連れて、ミア様が幽閉されている北の塔へ入った。美しく成長されたミア様を前にロベルトはいやらしい笑みを浮かべ、躾を行った。裂かれて行く肌に鞭打ちながら、ロベルトが言ったのだ。


「お前も大人になったのだな……」


それを見ていた私は迅速に行動した。このままでは良くない事が起こる。そう予感したからだ。


自身の伝手を使い、腕利きの侍女を雇い入れ、その者にミア様を託した。逃がすしか手は無い。このままミア様が北の塔へ幽閉されていれば、近い将来、あの炎帝はミア様に手を掛けると、そう思ったのだ。


再編成の人選をしながら、私は願う。どうか、革命の火がこの城を焼き尽くし、新しい世が来る事を。


◇◇◇


再編成した捜索隊の隊長にはトリスタンという騎士を据えた。トリスタンは若く士気が高い。そしてあの炎帝に疑問も持っている。最果ての地にトリスタン率いる部隊が辿り着いた時、そこで起こる変化に期待をしよう。そして私は伝令を秘密裏に送る。隣国サイノックスへ。



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