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第20話ートリスタンの願いー

「俺は行かなくて良いのか?」

リビウスがそう聞く。するとハイラムが言う。

「捜索隊はリビウス、君を探しているんだ。万が一にも君を奪われる訳にはいかないからな。」

そしてハイラムはシトリナ嬢とフォステリを見て言う。

「ここはシトリナ嬢、フォステリ、そして私が請け負おう。」

ハイラムが私を見て言う。

「最果ての地、エンドオブグリーンに精鋭部隊を送るとは考えにくいと私は思います。まずは先遣隊で様子見といったところでしょう。ですから私たちで対応を。」

ハイラムがそう言うのだから、まず間違いは無いだろう。

「えぇ、ハイラム、あなたに任せます。」

ハイラムはリビウスを見て言う。

「ミア様を頼んだぞ。」

そう言って控えているシトリナ嬢、フォステリに視線を送り、言う。

「付いて来い。」


◇◇◇


皇都からの道のり、それはそれ程、簡単では無い。ここエンドオブグリーンは最果ての地と呼ばれているだけあって、皇都からはかなり離れている。伝令が来てからどれくらいの猶予があるだろうか。ハイラムはすぐにカタフィギオに居る騎士たちを集め、的確に配置を命じて行く。


「ハイラムは実戦経験が豊富なんだな。」

ハイラムが命じて行く様子を見ながらリビウスが言う。

「えぇ、そのようね。私もハイラムの実戦経験については良く知らないのだけど。」

そう言うと、すぐ近くに居たシャネスが言う。

「ハイラムは過去、皇帝軍のいくつかをその才覚一つで落とした事のある者です。地形を利用し、追い込み、追い詰め、時には奇襲をかけ、殲滅して行く。地勢戦略がハイラムの得意とするところ。ですので、ここエンドオブグリーンはハイラムにとっては有利な地形でしょう。」

そう話すシャネスはとても誇らしげだ。ハイラムは私がここへ来る前からカタフィギオを統括している。そして彼の過去について深く聞いた事は無かった。騎士たちがバタバタと駆け出し、カタフィギオを出て行く。ハイラムが戻って来て、私に言う。

「エンドオブグリーンの入口を固めます。」

そう言って懐から大きな紙を出し、テーブルに広げる。

「北側は険しい山道、東は渓谷、西は鬱蒼とした森が続き、入るのは困難でしょう。」

ハイラムがそれぞれ北側の山々、東の渓谷、西の森を指す。

「真っ直ぐにここ最果ての地を目指して来るのであれば、間違いなく南側の荒れ地を通る筈です。」

地図に示されている広く開けた土地から続く道。

「幸いにもここも、左右が大きな山に囲まれています。」

そう言って大きな道の両側にある山を指す。

「我々はここに潜み、この道を通る先遣隊を捕えます。」

リビウスがハイラムに聞く。

「勝算は?」

ハイラムはリビウスを見てニヤッと笑う。

「100パーセント。」

自信を持ってそう言うハイラムに微笑む。

「分かりました。くれぐれも怪我の無いように。」

ハイラムは私を見て頷く。

「肝に銘じておきます。」


◇◇◇


シャネスの提案で先遣隊が捕まるまでの間、私はリビウスやガーランド、ヤニックと共に、カタフィギオに留まる事にした。昼夜を問わず、警戒が続き、ハイラムたちが配置に付いた二日後、動きがあった。


カタフィギオで私が留まる為に用意された部屋。そこは他の部屋とは違い、他の部屋よりも広く造られている。壁にはリナリアの花のレリーフが飾られ、採掘場で採れた水晶が装飾として壁に埋め込まれている。部屋の隅には古い石板が置かれ、その石板にはリビウスの胸に浮かび上がったものと同じ紋様が刻まれている。タペストリーが飾られていて、そのタペストリーは会議場にあるものとはまた別の様子が描かれている。木製のベッドにはシャネスが刺繍したリナリアの花が咲き、私が自身で刺繍したカーテンが掛けられている。カタフィギオの奥にあるこの部屋は、隠し通路があり、有事の時には外への脱出が可能だ。扉の前には常にガーランドとヤニックが立ち、部屋には眠る時以外、シャネスとリビウスが常駐してくれていた。


その日もシャネスとリビウスと共にその部屋で過ごしていた時、知らせが入った。


先遣隊を捕えた、と。


◇◇◇


案内を受けて、捕らえられた先遣隊の元へ行く。カタフィギオの迷路のような廊下を通り、大きく開けた場所へ来る。そこには捕らえられた先遣隊数名と、ハイラム、シトリナ嬢、フォステリが居た。

「ミア様。」

ハイラムがそう言って私の前に片膝を付く。

「捕らえて参りました。」

パッと見た感じ、誰も怪我などは無さそうだった。

「ご苦労様でした。怪我などはありませんか?」

そう聞くとハイラムを含めた皆が頷く。

「はい、ご命令の通り、誰も怪我一つしていません。」

そう言われて私は胸を撫で下ろす。捕らえられた先遣隊数名は皆一様に麻袋を被せられている。ハイラムは立ち上がると、その先遣隊の中から一人の男性を連れて来る。

「この者がこの隊の隊長のようです。」

連れられて来た者は私の前で膝を付かされる。

「名を。」

私がそう言うと、麻袋を被ったままのその男性が言う。

「名はトリスタン、英雄捜索隊、隊長だ。」

するとすぐにハイラムがその男性を小突く。

「皇女様の御前だぞ、弁えろ。」

そう言われてその男性が聞く。

「皇女様……?」

麻袋を被っているのだから、今、どこに居て、誰が居るのかも分からない状況だろう。そして私は随分前に皇都から逃げ出し、消えた皇女となっている。皇城内にあるであろう肖像画など、幼い頃のものしか無い筈。だから今、皇都に居る者たちが私の顔を知っている訳が無い。

「……皇女様とは、消えたと噂されているあの皇女様ですか?」

麻袋を被ったままの男性がそう聞く。

「そうだ。今、貴様はその皇女様の御前に居る。」

麻袋を被った男性が言う。

「どうか、ご尊顔を……拝する事は出来ませんか?」

その口調を聞く限り、私に敵意は無いと感じる。ハイラムが私を見る。

「いかがいたしましょう。」

そう聞かれて言う。

「えぇ、良いでしょう。」

ハイラムがその被せてある麻袋に手を掛ける。ハイラムが目配せをするとガーランドが剣を抜き、その男性に突き付け、リビウスとヤニックが私を守るように立つ。ハイラムが私を見る。私は頷いて見せる。ハイラムが麻袋を取る。現れた顔は精悍で若い印象。トリスタンと名乗ったその男性は私を見るなり、その瞳に涙を溢れさせる。

「あぁ……皇城内の肖像画を幾度、見たでしょうか……」

そう言って涙を流す。

「消えたとされている皇女様が……生きていらしたとは……これは一筋の希望の光です……」

その様子を見て、私は私のすぐ横に立つ、リビウスとヤニックを制して、一歩前に踏み出す。

「あなたは皇帝軍の者でしょう?」

そう聞くとトリスタンはハイラムに押さえられたまま言う。

「この国は炎帝ロベルトの圧政に苦しみ喘いでいます。皇都に居るほとんどの者が口を噤み、炎帝ロベルトに殺されないように息を潜めているのです。」

そしてトリスタンは自身を押さえているハイラムを見て言う。

「見事な戦術でした、あれ程、鮮やかに地勢戦略を取れる者など、この国にはあなたしか居ないでしょう。」

そしてまた私を見る。

「どうか、この国を、導いて頂きたい……私の切なる願いです。その為ならこの身を捧げましょう。」



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