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07_俺はミントで『戦闘』を補助する!

「お前があたしのお客様か!」


 同行者を案内する。パイセンにそう言われて紹介されたのがこの上から下まで無礼の極みの少女だった。

 背丈は俺と同じくらい。だとしたら中学生くらいか?

 こっちじゃ15で成人ていうし、ミリスもそれくらいだったもんな。


「シャル、一応お客様なんだからお前って呼び方はよしとけ」

「そうだったな。一応出資者だもんな」

「出資者?」


 なんの話をしてるんだ?


「あー、なんでもない。もし最初の仕事が気に入ったら、担当鍛治職人になれるって話をしてるんだ。まぁ気に入ったらでいいぜ?」


 シャルと呼ばれたクソガキの口を塞いで、パイセンが愛想笑いを浮かべる。


「そういう話、契約を結ぶ前にするもんじゃないっすか?」

「あーはは。コーヘイはいい男だから二つ返事で承諾してくれるかなって」


 ダメだこの人。皿洗いの時から楽して儲けることしか考えてない!

 俺のおかげでただ飯食えるって喜んでたのもこの人だったな、そういえば。


「で、クエストって話だけど」

「ああ、ゴブリン討伐系だな。見ての通り俺は弱い! ミントをそこらじゅうに生やす『宿命』しか持ってない」

「兄ちゃーん、このクエスト先に終わらせなきゃ鍛治しちゃダメ?」


 ガキンチョが唇を尖らせてパイセンに抗議する。


「ダメだ。それが受注条件だしな」

「えーー」


 途端に不満になるじゃん。

 サクッと終わらせてサクッと受注してもらえる。

 そういう絵図でも思い描いてたんか?

 だが、俺の『宿命』を聞けば誰だってそうなる。

 俺もちょっと無謀かなって思ってる。

 最悪討伐はパイセン達に任せて高みの見物で終わる可能性だってなくはない。


 だが、ここでやり遂げるという俺の意思は尊重してもらいたいものだ。


「ヨシ、行く前に軽く自己紹介だな! 俺はコーヘイ! この町で流通しているミント製品はだいたい俺由来だ! よろしくな。ミントを使っての皿洗い、ドブ浚い、配膳なんかは任せとけ!」

「俺ぁハウゼンだ。知っての通りこの街の角の方で鍛冶屋をやらせてもらってる職人だな。得意なジャンルは職人道具って呼ばれるものだ。はさみ、包丁、薬缶。この町で暮らしてれば何かと目につくものは大体賄ってる」


 へぇ、あのパイセンがね。

 意外とちゃんとしてるんじゃん。

「最後にあたしだな! あたしはシャルロッテ! ハウゼン兄ちゃんのところで修行してる駆け出し鍛治師だ! ナイフとかハサミとかようやく合格点をもらったところだな! このクエストを終わらせて、ショートソードなんかの長物を任せて貰えばいいなって思ってる!」


 シャルロッテだからシャルね。

 じゃあミリスももっと長い名前ついてるのかな?

 受付のお姉さんが言うにはお貴族様らしいし。


 あとちびっこ。最後欲望ダダ漏れなんよ。

 それを俺に期待してるってことか?

 一番俺から程遠い受注なんだよなぁ。


「まずはウェルカムドリンクだ。俺の仕事は基本的にはサポートって覚えてほしい」

「うまっ! なんか眠気が吹っ飛ぶ味だな」

「シャル。お前、また徹夜したのか?」

「仕事が自分のものになってるって感覚を掴みたくてさ」


 パイセンは気持ちは分かるがと苦言を呈しているが、自分も昔そうだったなと思い出して口を閉じた。


「おい、俺の初クエストをそんな物のついでみたいな感覚で受けるつもりだったんか?」

「まぁ許してくれよ。こいつは筋がいいんだ。これからなんだよ」

「巻き込まれる者の身になれって話をしてるんすよね」

「何はともあれ、お前のミントでそれは解消した。よかったじゃねぇか」


 なんだかんだと促されて近場の森に。

 さすが自分で炭を作るまでが仕事の一環と豪語するだけあり、森に入ってからの足取りは慎重だった。

 俺? 俺はミントの上を滑るように進んでる。

 ミントマスター舐めんな。

 今や歩行などしなくたってミントが俺を目的地まで運んでくれるからな。

 森の中ならミント生やし放題!

 むしろここは俺の理想の地なのでは? と思わなくもない。

 街の中だと、ほら。迷惑かけちゃうからさ。

 ずっと我慢してたんだよ。

 いやー、快適快適。


「コーヘイ」

「なんすか?」

「お前だけ随分快適だな。なんだその『宿命』? 普通じゃないぞ」

「あ、なんなら荷物持ちますよ? 持つのは俺じゃなくてミントになるけど」


 パイセンはクソガキと顔を見合わせ、ならと俺へ荷物の殆どを預けてくる。

 なんなら肩を回して精一杯深呼吸していた。

 そんなに重かったんかよ、その荷物。


「一旦ミントに包むけどいいっすよね?」

「中身をめちゃくちゃにしないのなら」

「そこは保証できないっすね」

「保証はしてくれよ」


 いやぁ、できない約束はしないんで俺。

 一応断り入れたんで一気にミントで覆ってミントの上に。

 あとは俺と一緒にミントの上に乗って進んだ。

 俺意外と荷物持ちの才能あるのでは?

 と思わなくもない。


「コーヘイ兄ちゃん」

「なんだ、ガキンチョ」

「ガキ……あんま年離れてないように見えるけど?」

「俺はこう見えて17だ。見た目で年齢を測るなよガキンチョ」

「あたしは16だぞ。一個しか変わんねーじゃんかよ!」


 名前で呼べ。そう言うことなのだろう。


「どうした、シャル」

「その力でゴブリンを縛れるんじゃないか? そう思ってさ」

「その心は?」


 なんでそう思った? と尋ねれば。

 荷物を持てたり、人を一人乗せて走れるのは普通じゃない。

 一本一本は普通のミントなのに、俺を介して発せられる力はちょっとおかしいと。

 そう言われた。


 確かになぁ。

 俺もちょっとこのミントおかしいんじゃないかって思ってたところだ。

 この繁殖力をバトルに活かせる。

 そのヒントをガキンチョは俺に示したいのだろう。

 なんだかんだ態度が悪いだけで根はいい奴なのかもな。


「わかった。でもあんまり期待するなよ。所詮はミントでしかないんだからな」

「わかってる。こっちも受注がかかってるからな。受注主には気持ちのいい仕事をしてもらう様サポートするのも鍛治職人の仕事なんだ」


 そう言うことか。

 パイセンも言ってたが、鍛治屋は武器や道具を製造しておしまいじゃない。そこから先もずっと面倒を見ていくと。

 だから妹弟子に自信をつけさせたかったんだな。

「駆け出しと言いつつも心構えは立派な職人じゃん、お前」

「お前って言うな」

「先にお前って言った奴が何言ってんだか」

「むきー」


 軽く戯れ合いをしていると。

 先行していたパイセンが俺たちに静かにしろとジェスチャーを送ってきた。

 シャルは足音を消すように動き、俺はミントで近くまで移動した。


「ゴブリンだ。三匹いる。一匹ずつ誘導するぞ」


 三匹同時に相手取らないのは自信がないからじゃなく、俺を引き立てるためだろう。

 このクエストを受けたのはあくまでも俺で、他の二人はサポートでしかないのだから。


「誘導は俺がやっても?」

「コーヘイが?」

「俺はミントを自在に生やせる。それで相手を誘い出すことだってできるんだ」

「間違ってもあまり刺激するなよ? あいつらは単純だが馬鹿じゃない。対処できないとわかったら仲間も呼ぶ。俺たちの装備で相手取れるのはこの3匹だけだ。10匹来たら逃げる。わかったか?」

「ゴブリンは雑魚って話じゃないんすか?」

「そりゃ単体での話だ。駆け出し冒険者ほどその言葉を鵜呑みにしたがる」


 雑魚が何匹集まっても雑魚。

 そう言える様になるにはある程度稼いでいて、怪我をして数日休んだところで食うのに困らず、その上で仕事も降って湧く人種だけと。ケチなパイセンらしい持論である。


 俺はミントをゴブリンの前で人の形をするように生やす。

 なぜか俺の動きを連動するように動く様は実際にそこに人間がいるかのように見える。

 それを見つけたゴブリンは獲物を見つけて舌なめずりしていた。

 ミント人間はゴブリンにあっという間に切り伏せられ、儚く散る。

 所詮はミントか。あまり期待はしてなかったが、あまりの弱さに涙を禁じ得ない。


「ゲギャギャ」


 どこか勝ち誇った笑み。少し離れた先にもう一匹ミント人間を出現させる。

 ゴブリンは誘い出されているとも知らずに軽率にその茂みに入っていき、木の影に隠れていたパイセンの片手斧により首を胴体から泣き別れさせた。


「まずは一匹。油断はするな。手負の獣こそ注意が必要だ」


 まるで歴戦の戦士みたいな言葉である。

 勝利のあとは油断しやすく、その慢心をも利用する。

 この人本当に一般人なのか? ちょっと怪しいな。


 戦闘中のパイセンは普段のチャランポランさが嘘のようだった。


 その後も人型ミントを使っての誘い出し。

 流れるような作業。俺が誘い、パイセンが仕留める。

 あっという間に三匹仕留め、これで仕事は終わったと帰路に着く。

 結局俺は何もできないまま。

 どこかでミントを使って大活躍! そんな姿を想像していただけに惜しくもあった。

 そんな帰り道。


 人型ミントを作って遊んでいると、そこには作った覚えのないミントの塊があって。


「あれ?」

「どうした?」

「いや、なんかこれゴブリンっぽくないです?」

「ああ、背丈なんかはそっくりだな」

「あっ」


 作った覚えのない小鬼型ミントはそのまま森の中に消えてしまった。

 あれがなんだったのか、わからないまま数日が過ぎる。


「なんかいい仕事ないっすかねぇ」

「そういえばコウヘイ君、聞いた?」

「何をっすか?」


 あの後森の中にいたゴブリンは何者かによって討伐。

 代わりにその地位に成り代わった種族がいた。

 どうにも見た目はゴブリンそっくりで。

 でも人類には友好的な種族。

 よくわからないがゴブリンの亜種ではないかという話だった。


「でもそいつもゴブリンなんでしょ?」

「頭からミントを生やしてる以外は見た目はゴブリンと同じらしいわね」

「そこ、なんで俺をじっと見るんですか?」

「またコウヘイ君が何かしたのかなって」

「そうやって何でもかんでも人のせいにするのやめてくれます?」 


 あの時のゴブリンが俺の代わりにゴブリンを討伐してくれた?

 まさかな。

 だとしたら俺の活躍の機会を奪いやがってという気持ちでいっぱいだ。


 今日もまた楽して稼げる仕事は取れず。

 仕方ないかとシャルの仕事場に油を売りに行く。

 そろそろ発注かけてたハサミができる頃合いだ。

 今度はそれをして何をするか、考えるのもまた楽しみの一つになっていた。

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