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10_俺のミントは『薬効』を促進する!

 雨季が終わったことで城下町も随分と賑わってきた。

 しかしそれで訪れるのは決していいことばかりではないと宿のレストランで軽食を食べにきたシャルから情報を聞き入れた。


「最近さー、王国の北で大規模な豪雨があったらしくてさ。原因は解決したけど、どうも人が住むには適さない土地になったらしくて移民が増えてきてんだよね」

「移民。この街にそんな人数流れ込んで平気なのか?」


 ただの一般人でしかない俺が心配すべきではないと思うが。


「あたしが知るわけないじゃん。でも門が開いたってことはお貴族様が許可出したってことじゃん?」


 知らんけど、とどこか他人事のように語って残りのメニューを片付けていた。

 シャルに限らず、異世界の一般人の食事は早い。

 よく噛んで食べないとお腹壊すぞ? と言っても聞かない。

 多分胃腸が俺より頑丈なのだろう。

 俺も最近頑丈になってきたが、流石にかっこんで食べたりはしないもんな。


「じゃあ人が増えたら何が困る?」

「あたしたちみたいな鍛治屋なんかは注文してくれる顧客の分母が増えるじゃん?」

「まぁそうか。でも俺みたいな零細商人なんかはそこまで仕入れてないから干上がっちまわないか?」

「あー、人気商売はそこが辛いとこだな」

「他人事じゃん」

「実際他人事だし」


 こいつめ!

 シャルは言うだけ言って帰った。

 確かに宿屋の前の人通りは増えた気がした。

 顔見知り以外がうちの商品を覗き、その値段の高さから敬遠する風景を何度も見た。

 知らない奴が見たら確かにその通りだもんなぁと思わなくはない。

 でも毎日完売するのだからありがたい限りだ。


 店をたたみ、飯を食ってからギルドに向かえば。

 そこはごった返していた。

 難民といっても食うのに困った人々ではなく。

 職を持ってたが商売が成り立たなくなった人がこぞって押し寄せてきた系なので、そりゃ仕事探しに来るわけだ。

 殆どが冒険者で、あとはそれぞれの『宿命』のプロフェッショナルが別の席で職員から説明を受けていた。


 いつも仕事を斡旋してくれるお姉さんも今日は忙しそうだし、とギルドを出ようとしたところでフレッタとバッタリ顔を突き合わせた。


「あ、コウヘイさん! ちょうどよかったです」

「フレッタじゃん。どした?」

「実はうちのお店、畳むことになりそうで、それでなんとかできないかってずっと考え込んでて」

「へ?」


 シャルから聞いた話じゃ、フレッタはいいところのお嬢さんで。

 今世話になってるエミール魔道具店も貴族御用達。

 だから顧客は少ないけど店が潰れる心配はないって太鼓判を押していたのに。

 それが潰れるって?


「とりあえず理由を話してくれないか? 助けるのはやぶさかじゃないが、そこに素人の俺が入って解決する話なのかどうかも含めてさ」

「わかりました。ここではアレですので場所を変えましょう」


 そういって、この時間にしては空いてる喫茶店を紹介してくれた。

 やたらと顧客は女性が多いが、この中で俺一人浮いてたりしない?


「奥の個室を」


 フレッタは首から下げた紋章をウェイターにちらつかせ、そのまま奥の個室に案内される。


「ここは?」

「貴族専用の密会室ですね」

「フレッタって貴族だったんだ」

「爵位こそ低いですが、一応。そんなこと言ったらシャルだって貴族ですよ?」

「へ?」


 目が点になる。


「そもそも王立魔法学園は貴族しか通えないしきたりありますから。魔法や武技なんかは特にその傾向が強いですね。さて、長話になるのでドリンクの注文をしちゃいましょうか。コウヘイさんは何かご要望あります?」

「なんでもいいって言ったら失礼になるのかな? じゃあこのレモネスカッシュで」

「今の時期にぴったりですね。でしたら私はメローフロートにしましょうか」


 テーブルに置かれたベルを鳴らすと、すぐに人がやってきた。

 身のこなしから一般人ではないと思われる動きで、ウェイターはすぐに注文を受け取るとまるで最初から居なかったようにその場から消えた。

 恐るべし、貴族御用達の店!


「それでですね。私がお世話になってるお店がどのようにピンチなのかと申しますと」


 フレッタは語る。

 魔道具店は魔法道具もさることながら、半分以上はポーション販売で生計を立てているのだと。

 マジックスクロールと呼ばれるものは高価すぎて週一本売れたら御の字なんだって。

 そりゃ高いもんな、あれ。


「それで、ポーションの効果が下がっていると?」

「はい。原因は全く不明で。今までと同じものを作っているのにも関わらず、治りが遅いと。しかし競合店のポーションは好評のようでして。それで今度この店の土地を買うから出て行けと言われています」


 まるで思い描いていたような土地転がしの絵図。

 地上げ屋かな?


「相手は貴族御用達の看板が欲しいのかな?」

「いえ、それはないかと。ただ、うちの店を追い出すのが目的となると思い当たることがありますね」

「と、言うのは?」


 フレッタはこれを一般人に話してしまってもいいものか? と考えあぐねた末に語る。

 次の王位継承権争いで、フレッタの店は第一王子派。

 そしてライバル店はまだ幼い第二王子派と言うものだった。


 まだ幼い王子を担ぎ上げるとか、傀儡政策の匂いがプンプンするけど。

 でも第二王子なんていたか?

 俺が知ってる王子は妹想いのいい兄ちゃんて感じだったけど。


「第二王子はまだ生まれたばかり。つまり2歳です」


 そりゃ知らなくて当然だ。

 その歳ならママから離れられないもんな。

 勇者召喚の場に出ていなくても当然である。

 王妃の姿を見ないと思ったらそう言うことかよ。


「なんか急に陰謀くさくなってきたな」

「王子はこの国の腐敗を快く思ってませんからね」


 つまりその魔道具店は腐敗に加担してるって自ら宣伝してるわけじゃねーか。


「なんだか随分と物知り顔じゃん」

「私とシャルは王子と同期ですから」

「ああ」


 有名人な訳ね、あの人。

 そりゃ王国に住んでて王子を知らない方がどうかしてるか。

 しかも貴族なら尚更ね。


「しっかし、原因不明の現象か」

「はい。私はよくその素材を近場の森から採取するのですが、むしろ色艶は前より綺麗になっているのでより不可解で」

「色艶は良くなっているのに効能が落ちる?」


 それは元気だけどやる気がないみたいなそう言う症状?


「あ、ポーションの説明がまだでしたね」


 そう言ってフレッタがテーブルの上に赤いポーションと青いポーションを置いた。

 赤い方が体力と疲労を緩和するもの。飲めば一晩中体力仕事をしても翌日に負担がない。爽やかなミントフレーバー。

 青い方は魔法の使いすぎで頭痛や肩こり、魔力不調に陥った精神的疲労を回復するもの。爽やかなミントフレーバー。

 なんかどっちも俺のミントが関与してそうで怖いから聞く。


「その素材、もしかしてミントとか使ってる?」

「あ、はい。フレーバー程度に」

「それかなぁ?」

「多分そうかなと思ってコウヘイさんにご相談したくて」


 問題があるのは赤いポーション。精神疲労ポーションの方だという。

 どう考えても宿屋の魔法の水を体験してる人はこっち飲まなさそうだなと思い当たる節しかない。

 しかもあれ、タダで配ってるしな。

 さっきから嫌な汗が止まらないぜ。


 俺はステータスを覗く。

 するとそこにはいつの間にか育っていたステータスがドヤ顔するように主張していた。



◉=====================◉

名称    :コウヘイ・ウエノ

宿命    :ミント栽培

称号    :ミントの君主

ミントLV :750

<繁殖地>   

ローズアリア王国_Ⅱ

ローズアリア南の森_Ⅲ

<特性>

繁殖力:極 / 防虫力:中 / 防臭力:中 

吸魔力:中

<信仰>

_Ⅰ_疲労回復

_Ⅱ_精神回復

_Ⅲ_魔性模倣

<機能>

メッセージ:OFF / オート地植え:OFF

オート吸魔:ON

<眷属>

ミントゴブリン / ミントトレント 

◉======================◉


 俺はステータスをそっ閉じして、配膳されたレモネスカッシュを一気に呷った。

 盛大に咽せた。

 そして平静を取り戻し、言った。


「俺で良ければ協力するよ」

「ありがとうございます! これで叔母さまも救われます!」


 聞けば、母方の姉が経営してるお店だそうで。

 貴族令嬢であるフレッタは覚醒遺伝した宿命を頼りにそこへ下宿していたのだという。

 しかし俺がこの町で下宿、ミントを根づかせてから明らかにポーションの販売本数が伸び悩んだと言う話である。


 思いっきり思い当たる節しかなかったので、やっぱりミントの地植えは悪い文化なのだと今更ながらに気付かされたのであった。


「あんたかい、謎のミント使いという男は」

「っす」

「どうにも取り留めのない男だね。私の店に喧嘩を売って置いて」

「その、悪気はなかったんす」

「いいさね。宿命が暴れちまったんだろ? 誰しも己の宿命の手綱を取るのは難しいもんさ。貸しにしとくよ」


 すごい! あまりにも気風のいい姉御というイメージしかなくて元貴族とかフレッタのおばさんだというイメージが全部吹っ飛んだ。

 というか、俺の憧れる『漢気』を感じさせる、そんな生き様だった。

 目標がこんなところにあったなんて!

 俺は今、猛烈に感動している。


「なんだい?」

「あ、いや生き様がかっこいいなって。あの、弟子入りしていいですか?」

「なんだいこの坊やは。フレッタ、本当にミントを使って荒稼ぎしていたって男はこいつなのかい?」

「どうもそのようなんですが、あまりにも悪意がなくて……」

「あの、俺のミントなら如何様に使ってくれていいんで! あ、よかったら肩揉みましょうか? 俺、コーヘイっていうっす。姉さん! 何をすればいいっすか?」

「なんだか人懐っこい子犬が戯れてくるようじゃないか」

「あはは」


 こうして俺はエミール魔道具店に弟子入りすることになった。

 なぜか共同経営者の肩書をもらったけど、これ受け取っていいんだろうか?

 俺のミントなんていくらでも増やせるんで。なんなら増やすくらいしか能がないまであるぞ。


 しかし俺は自分のミントのヤバさをまだ理解できていなかった。

 それは繁殖力の高さ以外にもポーション界隈に革命を起こしたのだ。


 今までの素材に俺が生やしたミントを投入しただけで!

 死者が起き上がるほどの効能を持ったポーションが出来上がってしまった。

 王国はそれに途方もない金額を設定!

 唯一それが作れる魔道具技師としてフレッタのおばさんはより一層国から厚く手当されるようになったらしい。


 また、俺のミントが何かやっちゃいました?

 まぁミントがすごいと思われる分にはいいか!

 俺も鼻が高いぜ!


 いい加減王国も俺の国外追放令を撤回してくれないかな。

 とかなんとか思ったりしてる。

 無理か!

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