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12_俺のミントは『穢れ』を浄化する!

「でさー、バイト中にそんな出来事があってさー」

「コウヘイさん、手が止まってますよ」

「お、悪い」


 フレッタに注意されつつ、俺は意識魔法陣に戻した。

 なんで今俺がこんなことをやっているかと思えば、単純に俺のミントに新たな活用法が生まれたからである。

 俺の作るミント水が魔法陣の触媒に使えるのではないか? という考察からフレッタが試してみたいということでの協力だ。

 今の注意は俺がミント水を作る手が止まってたから。

 モテる男は辛いぜ。


 今の俺はミントの君主らしくてな。

 今までは手元や目視であらゆる場所にミントを生やすことくらいしかできなかったが、君主になったことでミントを加工することができるようになったのだ。

 わざわざ生やしたり撹拌する手間が減ったのはちょっと嬉しいが、相変わらず俺は弱いままなのでもうちょっとなんとかしてほしかったりするぞ。


「あんたら二人、姦しいったらないね。何がそんなに楽しいんだい?」

「叔母さま!」

「姐さん!」


 この魔法道具店の店主であるエマールの姐さんのおかえりだ。

 姦しいって仲が良いってことだよな?

 俺もユウキと一緒にいる時しょっちゅう言われたもんだぜ。


「目的の素材は見つかりました?」

「どいつもこいつも、この近隣で取れた素材はダメになっちまってるね」

「そっすか」


 大体が俺のミントのやらかしらしい。

 この前パイセンと行ったときに無作為にミント生やしたからなー。

 その皺寄せが全部俺にきていた。

 責任をとって俺はここで働かせてもらってるわけだが、どんどん罪状が積み上がって首が回らないのが現状だ。

 あれ、これ王宮内と一緒のパターンじゃね?

 やっぱりミントの地植えは悪。

 俺はまた一つ賢くなった。


「でも王宮から称賛されたばっかりですし、そんな急いで品を揃えなくたって」

「確かにあんたのミントはすごいよ? でもね、みんながみんな手を出せると思ったら大間違いだね」


 生やすだけなら害悪だが、加工すれば奇跡のアイテムに早替わり。

 しかし設定価格が庶民に手が出せるものではなく、9億ゴールドもの値がついた。

 お金ってのはあるところにはあるもんだなと感心する。

 俺も姉さんもびっくりだ。


「そうだ、コウヘイ。あんたを探してる連中にそこであったよ。知り合いかい?」

「え、誰だろ?」

「店内で待たせてる。会いに行ってやんな」

「フレッタ、実験中に悪いな。少し席を外すわ」

「全然いいですよ。私も少し休憩入れたいところでしたし」


 俺の客に興味があるのか、フレッタもソワソワしながら俺の後についてきた。


「久しぶりだな、コーヘイ」

「お久しぶりです」


 店内には懐かしい顔があった。

 雨季になる前に実家に帰ったミリスとカインズパイセンだ。

 もっと早く帰ってくると思ったのに、今まで何してたんだろ。

 何はともあれ無事な姿が見れてよかったぜ。


「あれ、ミリス様?」

「フレッタも久しいわね。そう、ここで修行をしていたの。王国内でも有名だものね。お父様もここで仕入れていると聞いたわ」


 何やら楽しげな雰囲気。

 警戒心強めなミリスがこんなに打ち解けている相手ってそうそういないんじゃないだろうか?


「二人は知り合い?」

「同期なんです。ミリス様は魔術科で、私たちはサポート科でしたけど」

「へー」


 まさかの同世代とは。

 世間の狭さを感じるぜ。


「じゃあシャルとも知り合いなんだ?」

「あの子は知らないんじゃないかしら?」

「そうなの?」


 あれ? 同期じゃないんか。

 フレッタが何を言ってるかわからなくなってきたぜ。


「私の実家の寄親がミリス様のご実家なのよ。同期だってことでお顔を拝見したことがあるの」

「へー」


 だから親しい感じでミリスが迫ってきてるわけね。

 で、フレッタ側としては恐れ多い感じと。

 もっと仲良くすりゃいいのにとは思ったが、それはそれで不敬と言われて貴族社会の難しさを感じた。


「もう、フレッタったら。様付けはやめてって言ったじゃない。同世代で普通に喋れる相手って貴重なんだから。学園と同じように仲良くしましょ?」

「流石に学園外でそれは……」


 この二人のやりとりが貴族社会の煩わしさを匂わせている。

 せっかく仲良くしにきてるんだから、もっと素直になりゃいいのに。

 庶民から抜け出せない俺がいうのもあれだけどさ。

 それはそれとして、パイセンに話を振る。


「んで、パイセン。目的は達成したんすか?」

「ああ、それなんだがな」


 周囲を見回し、ここで話していいか迷いながら口を開く。


「領内で魔族と遭遇した。おかげでミリスの自慢話も延期でな。俺は元メンバーと一緒に魔族の行方を追うミッションに参加した」

「へ?」


 魔族って何?


「ああ、だから王国で勇者様を召喚なされたんですっけね」

「そうなの?」


 フレッタが思い出したように言った。

 そういえば勇者には魔王を討伐する使命がある。

 ミントを生やすだけしかできない俺には詳しい話は教えてくれなかったが、どうやらその討伐すべき存在がミリスの実家で悪さを働いていたらしい。

 やばいじゃん。

 引退した冒険者のパイセンには荷が勝ちすぎるんじゃねぇの?

 俺の心配を受けて姐さんが語り出す。


「今の若い子は知らなくて当然さ。あいつらの悪行は歴史から念入りに封じられてきた。人をそそのかし、人を変質させる。最近モンスターが活性化しているのもその魔族が原因だろうね」

「そんなやばい奴がちょっかい出してきてよく無事だったな」

「ああ、偶然勇者様が居合わせてくれてな。魔族はうまいこと封印できた。ウォール卿が今後それの監視役を担ってことなきを得たのはいいが……」


 魔族は無事討伐された!

 けどパイセンの顔はどこか疲弊しきっていて。


「救助が間に合わない人がいたんすか?」

「ああ、豪雨の勢いは予想以上に強くてな。土はぬかるみ、家は土台からひっくり返され、水位が上昇して領内は人が住めない泥沼に沈んだ。魔族を封印しても、それは変わらなかった」

「…………」


 本当に害悪そのものじゃねーか!

 倒しても元に戻らないとか、俺のミントと一緒すぎる。

 あ、それ考えると俺も人のこといえないな。

 もうちょっと反省しとこ。


「あ、じゃあ最近難民が多いのって?」

「うちの領民です。ローズアリア国の寛大な処置にお父様も感涙しておいででした」

「それでパイセンたちはこっちにトンボ帰りか」

「書状を届けにな」

「難民受け入れの感謝状っすか?」

「それもあるが、難民の返還を促す書状だ」

「あれ? 領内は人が住めない土地になったって話じゃ?」

「本当はそれだけだったんだがな、お前のミントだ」

「?」


 パイセンが何を言いたいのかわからない。

 俺のミントが何かをしたっていうのかよ。


「ずっとおかしい、おかしいって思ってはいたんです。けどあそこまでおかしいとは思ってもいませんでした。コーヘイさん、あのミントって一体なんなんですか!?」


 ミリスが食い気味に俺に詰め寄ってきた。

 どうどう、落ち着け。

 パイセン、助けてくださいよ!

 俺がアイコンタクトでSOSを送れば、パイセンは無言でミリスを引き剥がした。

 ふぅ、窮地を脱したぜ。


「で、俺のミントが一体全体何をしたんすか?」

「お前のミントは領内に瞬く間に広まると、汚泥に埋まった家屋に巻きついて汚泥の排出から室内の洗浄の全てを行った。おかげで敷地内はそこら中ミントだらけになったが、ふたたび人が住める環境になったのだ」

「何それ、そんな機能知らない」


 確かに俺のミントはちょっとおかしいとは思ってたけど、そこまでの機能があるなんて知らないぞ?

 俺のステータス画面がまるで仕事してない件。


「まぁ、何はともあれ一件落着ってことでいいんすか?」

「お前はそういう奴だったな。もっと自分の仕事に誇りを持っていいのにさ」


 実際俺は一切何もしてないから、受け取るも何もないんだよな。


「コウヘイさんのミントってやっぱりおかしかったんですね?」


 ミリスの発言に食いついたのはフレッタである。

 魔道具の媒体になるのも変だし、水に浮かせるだけでポーションの代わりになる離れ技もやってのけた。最近では王国御用達に抜擢されて、目玉が飛び出るくらいの価値がついた。

 そんな話を聞いたミリスが俺への視線を険しくさせる。

 やめろよ、そんな目で俺を見るのは。俺だってそんなことできるなんて知らないわ。


「やっちまったな、コーヘイ」

「これ、俺が悪いんすか?」


 パイセンが肩ポンしながら頷いた。

 お前ならいつかやるとは思ったとまるで犯罪者に向ける視線だ。


「そういえば、あんたカインズだって言ったね?」

「確かに俺はカインズだが、あんたは?」

「あたしゃしがない魔法道具展の店主だがね、若い頃は地方の領主をしてたのさ。その時にあんたたちに助けてもらったことがある。『舜滅』のカインズ。ここであんたに会えたのも何かの縁だ」

「ああ、そんな時もあったな」

「なんすか、そのカッケー称号!」


 パイセンは語る。

 俺たちが生まれる前、この国は魔族の侵攻に頭を抱えていた。

 その時、多くの魔族を屠った冒険者には称号が与えられた。

 『舜滅』は一般魔族の討伐数が一致値を超え、男爵級魔族の討伐を果たした者へ与えられる。

 パイセンがいうにはその当時は二つ名があるのが当たり前だったそうだ。

 でも、今となっては恥ずかしく、その名を明かすことはないんだって。


「あんたにきてもらわなければあたしの領土は魔族に奪われ、穢れに汚染されていた。今こうやって老後を送れるのはあんたのおかげさね」

「大袈裟なばーさんだな」


 パイセンは感謝を受け取らなかったが、どこか安堵したように微笑む。

 それはそれとして、そんな悪いことする奴がどうやって領内に侵入できるんだ?

 人類がいむべき存在、ってわりにはあっさり侵入されてるし。


「パイセン、魔族ってどんな姿してるんすか?」

「どうした急に」

「いや、どんな姿を知らなきゃ、対応しようがないんで」

「確かにお前のミントをツケ狙ってくる可能性もあるか。そうだな、魔族とは……」


 パイセンの語る特徴と合致する存在と最近会ったことがある!


「あの、それにそっくりな人に最近会ったっす」

「おい、それはどこでだ?」


 口をついて出た言葉に、パイセンも姐さんの表情も険しくなっていった。

 あ、これ言っちゃいけない奴だった?

 でも、もし王都が狙われている場合、庶民として報告する義務がある。


「俺の宿泊先の宿屋っすね。宿泊名簿にないお姉さんがベッドの上の二人と行為に混ざろうとしてるところを目撃したんす。そのお姉さんに角と尻尾、羽を確認したっす」

「おい」


 話を真面目に聞いてたパイセンの顔が一瞬で瓦解した。

 それは魔族ではなく、コスプレではないか? という眼差し。

 実際それを指摘されたら否定できない状況なのもある。


「あ、でも。そのお客さんがチェックアウトした時にお姉さんの姿はなかったっすよ? 代わりにお客さんはこれくらいの石を持ってたっす」

「小さな石? 色は?」


 エマールの姐さんは何か思い当たる節があったのか、詳細を聞いてきた。


「このサイズで色は赤。間違いない、それは賢者の石さね」

「魔族を討伐した際に入手できる魔石の、さらに大型のものを指していうのだったな」

「ああ、そうさ。それは高位魔族がこの世に再び受肉するための媒介。普通であるのなら触ることもできない呪いを周囲に撒き散らすものなんだが」

「え、けど? 普通に持って帰ってましたよ? 宿のどこにも異常は見られませんでしたし」

「おかしいね、まさかあんたのミント、魔族の穢れすら浄化しちまってるのかい?」

「浄化?」


 サッパリ身に覚えがない。

 しかしパイセンには心当たりがあるようだ。


「これは俺がローズアリアを出立する前、コーヘイと一緒に下水路に巣食う魔獣退治に向かった時のことだ」


 下水道にモンスターが出現した時の話だな。

 それを聞いた姐さんの態度が急変する。


「浄化した?」

「確実に」


 パイセンと姐さんが神妙な顔つきで頷き合っていた。

 ちょっと臭いを消したくらいで大袈裟じゃない?

 フローラルな香りもミント特有のものだし。


「おかしさでいえば今まで言及してこなかったけど、そもそもミントってのは土がなくても生えるものなのかい?」

「え?」


 俺は生やせる。けど普通に考えたら確かにそれは難しいことだった。

 その上でいくら生やしても俺は疲れない。

 姐さんは今後俺の身柄が魔族に狙われる危険性を提示した。


 いやいや、そんな大袈裟な。

 ちょっと汚れを浄化できるくらいで。

 え、聖女は封印が精一杯で魔族を消滅できるのは俺のミントだけだって?

 そんなバカな。


「これはピンときてない顔だね」

「ああ、コーヘイは昔からそうなんだ。自分の功績を低く見積り過ぎている。だからここで出会ったのも何かの縁。俺たちはコーヘイに恩義がある。そうだな?」

「あたしゃむしろこの坊やのおかげで損失しか出しちゃいないが、恩義のあるあんたの誘いを断れば領民から恨まれちまうからね。話ぐらいは聞こうじゃないか」

「コーヘイ、お前商会を開かないか?」

「へ?」


 俺のミントが王国の後ろ盾を経て世界に羽ばたくってよ。

 王国から追放を言い渡された俺でも、流石にこれは予想外だった。

 いや、一人で商売するのしんどくなってたところに渡りに船だけど。

 話飛躍し過ぎじゃね?

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