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13_俺はミントで『運命』を打開する!

「でも商会と言ったって、一体全体俺は何をすりゃいいんだ?」

「ある程度の準備はこちらで請け負うって話だ。その前に何人か会ってもらいたい人がいてな」


 それがミリスのお父さんだって話だ。

 とはいえ、急に街を出ていくとなると俺にも準備が必要だ。

 何せ俺は召喚されてからクエスト以外で一度もこの街から出たことがない。

 宿はすぐに出れるが、それ以外、遠出の準備の知識のイロハもなかった。


「少しいいかい?」

「ああ、どうされた」


 そこへエミールの姐さんがパイセンに話を持ちかけた。


「商会ってのは連盟にするんだろ? いくら恩人といえど、流石に横からやってきてうちの従業員を奪われちまったらこちらも商売が成り立たないよ」

「それは尤もだ。エミール殿の王国内への貢献は計り知れない。わかったウォール卿には俺から取り測ろう」

「すまないね」


 なんかよくわからないが、うちの姐さんは俺の商会に参入するらしい。


「えっと、それだと俺の立場はどうなるんすかね?」

「今まではバイトとして雇っていたけど、今度からはあんたを大店としてミントを卸してもらう形になるわけさね」

「つまり?」

「今までと関係はさほど変わんないね」


 ならいいか。

 俺は姐さんの店で今まで通りバイトをする。

 けどミントの取り扱いだけが商会経由になるってことね。


「あ、でも俺のミントをポーションに使いたいって人が出たら困るっすよね?」


 姐さんのポーションの原料には俺のミントが忍ばせてある。

 今後は俺の裁量外のところでミントが出回るわけだ。

 それはライバル店にとって朗報なんじゃないか?


「あたしは別に困らないね」

「そうなんすか?」

「実際にあんたのミント、本当に調薬に向かない性質してるからね。なんだったら水に浮かべて飲んだ方がまだ効能がある」

「え?」


 俺の宿泊先の魔法の水の話か?


「じゃあアレって?」

「本来なら営業妨害として騎士団に突き出されてもおかしくはないことをしてるって自覚しな。それ以上の功績を出したからあたしは目を瞑ったんだ」

「っす」


 そういえばそれでこの店の経営ガタ落ちしたんだったわ!


「じゃあポーションに向かないのはわかったんすけど、うちの懇意にしてる宿屋がうちのミントを求めた場合は?」

「それを決めるのがあんたの仕事だよ」

「っす」


 責任重大じゃないか。

 なんで俺は今まで通りやっていけるって思い込んでたんだ?


「なんだったら、その宿屋ごと買収しちまうのも手かもしれないね」

「ああ、それもいいだろう。魔族とは狡猾な生き物だ。少しでも懇意にしている形跡が残っていたら、人質にとってでもコーヘイを殺しにくるだろうからな」


 パイセンが鎮痛な面持ちで言った。

 え、冗談すよね?


「あんた、まだ事の重要性を理解できてないようだね。なんだったら魔族は魔王を封印できる勇者様よりあんたを警戒してるよ」

「どうしてまた?」


 姐さん曰く、俺の浄化はシズクお姉ちゃんの清浄結界のさらに上位。

 聖女では封印しかできない魔王を、文字通り消滅できるのだとか。

 だからそんな存在を野放しにできないと今頃躍起になって探しているだろうと予測していた。

 ミリスのお父さんは俺を守るために『商会長』という肩書きを与え、護衛をつけるんだと言っていた。

 それが近い将来魔族が王国に侵攻してくる時の切り札になるんだってさ。


 思った以上に壮大な計画の礎にされてるって知ってぶるっちまったよ。

 それと同時に俺のミントはハズレじゃないんだって。

 勇者とタメを張れるほどにすごいんだって認めてもらえた気がした。

 だからこそ、仲間は多い方がいいだろうと意見を出していく。


「あ、じゃあシャルとハウゼンパイセンも誘った方がいいっすかね?」

「その方がいいかもしれないですね」


 友達と豪語しているフレッタは名案だと頷くが、バイト中のパイセンしか知らないカインズパイセンは値踏みするような視線で俺に尋ねてきた。


「ああ、あいつか。どうなんだ、実際のところ?」

「あの人、勇者様の武器を作った名工らしいんすよ」

「は? 冗談だろう」


 実際俺もシャルに聞くまでは真実味がなかった。

 が、仕上がった品があまりにも馬鹿げていた。


「俺、あの人に包丁を作ってもらったんすけどね。これ、なんと魔法文字が3つ入ってるんす」

「ただの包丁にか?」


 カインズパイセンが疑いの視線を向ける。

 ルーン文字は一つはいっただけでも国宝級。

 王国の宝物庫に管理されるレベルの品らしい。

 カインズパイセンも一つだけルーン武器を所持してるらしいが、それでも三つクラスは見たことがないと言っていた。


「まずは切断。これを発動させてるうちは肉の塊を骨ごと切断できるっす」

「包丁につける能力じゃない」

「続いて粉砕。これは包丁の柄の部分についてる能力っす」


 こいつで叩くと熱々のポテトを瞬時にマッシュポテトにすることができる。

 パイセンからは「バカじゃないのか」という言葉をいただいた。

 言われてるっすよ、ハウゼンパイセン。

 あとは自己修復機能。これは専用の鞘に入れてる限り効果が続くらしい。

 そんな説明をしたら、その場にいた全員の目が点になった。


「まじか」

「ちなみに納期を無期限で、さらに1万ゴールド用意して作らせたっす」

「お前もよくそんな金が手に入ったな」

「パイセンがスプレーを1ゴールで売れって言ってくれたおかげっすね」

「あれが1万も出たか。まぁ本来ならもっと欲しがるだろう? 優秀だものな」

「予約が2年待ちになってるっすね」

「なら、商会を立てるのに誰も反対はしないな。ちょうどいい頃合いだろう」


 誘う相手は決まった。

 そして出立する前に商業ギルドで登録だけ済ませておけと言われた。


「コーヘイっす」

「これが紹介状だ。今後彼はウォール子爵の預かりとなる」

「確かに賜りました」


 ギルド内でのやり取りは淡白なものだ。

 ちょっとだけ俺を値踏みしているような視線はあったが、終わって仕舞えば意外に呆気なかった。


「これでお前は名実ともに貴族の預かりとなった」

「俺、貴族のマナーとか全然知らないっすよ?」

「別にそんなものは覚えなくていい。あいつが勝手にやってることだからな。昔からそうなんだよ。平民の俺にも分け隔てなくタメ口で話せと要求してくる。変なやつなんだ」

「ふふ、そうですね。お父様は随分と変わっています。でも領民からはその馴染みやすさから慕われているんですよ」


 カインズパイセンが昔を思い出し、迷惑そうな顔で呻いた。

 ミリスがその様子を面白そうに眺めている。


「コウヘイ、あんたどうやって『舜滅』とお近づきになれたんだい? 偶然だけじゃ流石に色々説明つかないよ」

「いや、パイセン二人とはちょうどバイト先で一緒になっただけっすよ」


 それ以外の何者でもない。

 その後冒険者ギルドで再会したり、そんなだ。


「あ、でもその案内をしてくれた人が冒険者ギルドの受付にいたっすね」

「アイリス嬢か」

「ああ、あの子ね。それなら合点がいった。あんたたちはあの子の『時見』の宿命に導かれたんだろうね」


 姐さんは何やら納得した面持ちで頷いている。

 カインズパイセンは「今更俺にそんな大役を割り振らないでくれよ」とばかりに顔を顰めている。

 時見って何? ちょっと、俺に詳しい説明をよろしくお願いしますよー。

 未来に俺のミントが何かしでかすってことでしょ!

 おーい!


「何はともあれ、あんたたちが宿命を終わらせて帰ってくるまでここの支店はあたしに任せな」

「何から何まで世話になる。あまりに急な話で色々準備が慌ただしいとは思うが」

「それはお互い様さ。まさかうちの店に喧嘩を売って回ってる不届きものが世界の命運を賭ける戦いの渦中にいるだなんてね」

「本当にな。ただバイト先で知り合った小僧が勇者よりも大役を任されるなんて、世の中わからんものだ」

「あの、二人してわかってる空気出して俺をハブるのやめてもらっていいっすか?」

「お前はそのままでいろ」

「ああ、後のことはあたしたちに任せな」


 そんなこんなで丸め込まれ。

 俺は二日の猶予期間をいただいて身支度を整えた。


 民泊していた宿とその客たちへの挨拶回り。

 バイトで世話になったレストランへの挨拶回り。

 そしてハウゼンパイセンやシャルへの店への挨拶回り。


「兄ちゃん、なんか大役をもらったって顔してる」

「悪いな、シャル。どうやら俺のミントは世界を救う大役を任されちまったようだ。ここでお前に専属の職人になってもらうって夢は果たせそうにない」

「は? 別に兄ちゃん以外にも客はいるが?」


 おっと、藪蛇。


「ああ、そうだったな。お前のハサミの使いやすさは俺がギルドで自慢しまくったから。顧客はあれから増えたんだったな」

「そうだよ、全部兄ちゃんのおかげだ! だからあたしは平気だよ。でも、ハウゼン兄ちゃんは……」

「ハウゼンパイセンがどうしたんだ?」

「国から追い出されるって」

「どうして……」

「国に黙って武器を作ったのがバレたって」

「俺の包丁のことか?」

「うん、ルーン文字を刻んだのはどんなものでも武器に該当するって御触れがきてさ、それで」


 それで国を追い出されるのか。

 だが、勧誘する絶好のチャンスではあった。


 時見の宿命だかなんだか知らないが、パイセンがどんな人かは俺がよく知ってるからな!


 ギルドの酒場に赴けば、見知ったシルエットがあった。

 数日中に出ていく割に、すっかりここから出るつもりはないってオーラ。

 俺でなきゃ見逃しちゃうね。


「パイセン、ここにいたんすか」

「どうしたコーヘイ? 最近羽振りがいいって話じゃないか。俺に一杯奢ってくれんのか?」

「いいっすよ。こっちも話があったんす」

「話だぁ?」

「実はパイセンの腕を見込んで、俺の商隊の護衛を任せたいんすよね」

「護衛だと? 俺が相手取れるのはゴブリンくらいだぜ? しかしそのゴブリンもここいらじゃ見当たらねぇ」


 すっかり仕事を無くしたと意気消沈していた。

 この人の仕事を、俺のミントは全部奪ってしまったんだ。

 なら、責任とって預からなきゃな!


「ええ、だから今回誘うのはちょっと遠出するからなんすよね。カインズパイセンも同行するので、よかったら一緒にどうっすか?」

「あいつもいんのか。まぁ少しは暇つぶしにはなるかな」

「そんで、商隊なんで護衛の武器をメンテナンスするバイトもあるんすよ」

「お、俺に小遣いをくれるチャンスもあるってわけか」

「そっすよ。パイセンにぴったりの仕事だと思うんすけど、どっすか?」

「いいな、その話俺にも一枚噛ませてくれや」

「っす」


 まんまと引っかかったパイセン。

 のちに酒の肴欲しさに人生を棒に振ったと語るが、その横顔はどこか自分の場所を見つけたようで嬉しそうだった。


 旅は道連れっていうもんな。

 パイセンたちには最後まで付き添ってもらいますからね!


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