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15_俺はミントで『領都』を構築する!

 見渡す限りミントだらけのウォール領。

 本来なら手のつくしようもない事態。

 すでに焼き払う提案はあったのだが、恐るべき繁殖力で元に戻ってしまう。

 そこで俺が呼ばれたと聞いて「うちのミントがすいませんね」という気持ちで加工していく。

 知らなかったわ。すでに生えてるミントに対しても加工できるなんて。

 久しぶりにステータスを見たら納得した。

 これはこの領地ならではのものらしい。


◉=====================◉

名称    :コウヘイ・ウエノ

宿命    :ミント栽培

称号    :ミントの君主

ミントLV :1200

<繁殖地>   

ローズアリア王国_Ⅱ

ローズアリア・南の森_Ⅲ

ローズアリア・ウォール領_Ⅴ

<特性>

繁殖力:極 / 防虫力:中 / 防臭力:中 

吸魔力:中 / 伝達力:小 / 運搬力:小

<信仰>

_Ⅰ_疲労回復

_Ⅱ_精神回復

_Ⅲ_魔性模倣

_Ⅳ_加工

_Ⅴ_再構築

<機能>

メッセージ:OFF / オート地植え:OFF

オート吸魔:ON   / オート加工:ON

意思疎通:ON

<眷属>

ミントゴブリン / ミントトレント 

ミントヒューマン

◉======================◉


 レベル、めちゃくちゃ上がってる。

 まぁこの景色を見たら無理もないって感じ。

 ここに町があったとは思えない生い茂り方してるし。

 ここまでの繁殖力はそうそう見ない。

 俺がいた場所の比じゃないくらいの生い茂り具合に、制御してなきゃこうなるのかという恐ろしさを味わっていた。


 しかしステータスを見たことでより理解が深くなった。

 俺、ミントに直接意思を伝達できて、作り替えることができるっぽい。

 これまでは考えたこともなかったが、こうしてできることがリスト化された今、やれる限りのことをしようと思った。


 ミントはミントのままじゃなくてもいい。

 加工してもミント同士で仲間意識を持ってくれることが判明したので。そこから着手しようか。


「パイセン、俺、ミントに直接介入して作り替えることができるみたいっす」

「お前のミント、そこまで変質可能なのか?」

「俺のミントっていうよりか、俺がミントに対して直接語りかけてお願いを聞いてもらう感じっすね」

「お前いったいなんなんだ?」

「そんなの俺が知りたいっすわ」


 勇者でなきゃ、聖女でもない。

 そのお付きとしての能力も備えてない。

 決して人類の生活圏でもてはやされるタイプではない能力なのだけは理解しつつ、だが俺はこれで世界に順応してやるせと決意を新たにした。


「とりあえず、この道を再構築してみますわ」


 イメージは現代の道路。コンクリートを敷き詰めて、凹凸の少ない路面を馬車の前に敷き詰めた。

 馬の蹄鉄も現代のイメージに加工する。

 まぁ見た目が変わっただけで、未だ制御不能なので滑りっぱなしなのだが、見た目は随分と改善されたように思う。


 意思疎通とオート加工をONにしたおかげで、ミントのある場所なら俺のイメージが即座に伝達されていく。

 これの困ったことがあるとするなら、領内を俺が巡回しなくてはならないということ。

 そして繁殖力の高さから、その場所にミントが生えないかどうかの心配もあった。


「お前やっぱりすごいやつなんじゃないか?」

「サバイバル適正は高そうっすよね」

「護衛いらないよな」

「旅は初めてなんすよねぇ」

「なら必要か」

「っす」


 冒険者ってのはどこかで削れるなら削りたいと常日頃から思ってるのか、今のパイセンみたいに必要ないと感じたらバッサリ切りたがる。

 今回は初めての遠出なんだから必要経費だろ、と思うのは俺だけなのかもな。


「ここが門で、あそこに塔があるとするならば、領主邸はあそこだ」

「ミントだらけっすね」


 そこには蔦の巻いた古びた館、ならぬミントに埋もれた館があった。なんならミントで館を作ったと言われても頷いてしまうほど原型が残っていないまである。


「とりあえず、ミントをペーパーに加工しちゃいますね。再構築するにしたって、外観がわからないんじゃどうしようもないし」

「今はそれで十分助かる。アルハンド! 今帰った! 無事か!」


 視界に収まる限りのミントを一瞬でペーパー化。

 するとくっきりとまではいかないが朧げにお屋敷の形が見えて、門の奥に頑丈そうな扉が見えた。

 あそこから中に入れるらしい。


 カインズパイセンに続いて室内に。

 そこでは外に出られず空腹でやつれていた使用人たちがうずくまっていた。


「コーヘイ、飯だ」

「っす」


 ミントペーパーに巻いておけば日持ちする。

 その特性を用いて俺は料理を作る際、多めに作って保存するのだ。それを人数分渡して、水分として途中で組んで浄化させたミント水も渡しておく。


「カインズだ、今戻った」

「おぉカインズ様」

「アルハンドはどこへ?」

「執務室においでです。あれからミントに閉じ込められ、ついには食料が尽きてしまい」

「事情は理解した。お前たちは食事を続けていろ」


 パイセンは連れてきた護衛たちに開放を任せ、俺を連れて執務室へ。


「アルハンド!」

「帰ったか。あと少し遅れてたら気を失うところだった」


 そう言いながら倒れたミリスのお父さんは、太ももに筆を刺して意識を保っていた。


「コーヘイ、ミント水を」

「あー、直接癒す方法があるっすけど」

「なんでもいい。こいつを助けてくれ」

「っす」


 俺はキズにむけてミントを生やす。

 パイセンが何してんだ? みたいな視線を向けるが、生えた場所がみるみる癒えていけば視線の鋭さも和らいでいく。

 完治したのを見届けて、ミントを湿布と包帯に加工。

 そのまま安静にしておくように伝えた。


 続いてワニ肉のハーブサンドとミント水。

 腹が減っていたのか、ハーブサンドを三つペロリと平らげてしまった。


「いやぁ、あと少し遅れてたら死神に魂を連れていかれるところだった」

「あまり心配させるな。お前は昔からいつもそうだ。俺たちに内緒ででかい計画をサプライズで仕込む。あの時も……」

「まぁ待てカインズ。昔話はいいだろう。それよりもそこにいるのが?」

「あ、ああ。こいつがコーヘイだ。例のミント使いの宿命を歩む」

「コーヘイっす。ミント使いじゃなくてミント栽培っすけどね」

「迅速な救助対応、助かった。援助する前に物理的に家がなくなるところだった」


 わっはっはと豪快に笑う。

 本当に笑い事じゃないこと言ってら。

 パイセンも胃のあたりを抑えていた。

 昔からなんだろうなぁ。


「アルハンドだ。見ての通り泥沼に沈んで途方に暮れていたところに、勇者殿の持ち込んだミントがみるみる沼を浄化してくれてな」

「ユウキたちがここに来たんすね?」

「やはり勇者様のお知り合いだったか」

「コーヘイ? そんな話聞いてないぞ?」

「まぁ言ってないし」


 俺はことの馴れ初めを話した。

 王国が召喚した勇者は二人組では無く、三人いたこと。

 そのうちの一人が俺で、宿命がこんな感じだったから王宮にいられなくなったこと。

 そして世間知らずボーイが能力の低さでろくな仕事に就けない時にギルドからの勧めであのバイト先に送り込まれたことを話す。


「アイリスさんの宿命か」

「アイリス嬢って確か?」

「彼女の身元を知っているのか?」

「伯爵令嬢だろう? パーティで何度かお会いした。三姉妹の一番下で、家を出て市井で一般人として暮らしていると聞いたな。まさか受付嬢をしているとは思わなんだ」

「巡り合わせってやつですかね」

「なんの運命を託されたかわからんが、そこに昔の仲間が抜擢されたのは少し歯痒く感じるな」

「お前は執務を放り投げて昔みたいに旅に出たいだけだろう」

「わかるか? ガハハ」


 このダメな親父さんぷりはハウゼンパイセンに通づるものがある。


「それでだ、勇者様は王国に身内を一人置いてきたと言っていた。それがお前だったということだな?」

「そっすね」

「これで点と点がつながったか」

「何を掴んだ?」

「これさ」

「書き置き?」


 そこにはユウキの筆跡で、こう書かれていた。

 日本語で書かれていると、読める対象は限られてくる。


 そこには『もしこの手紙を読むことがあったら、どうかこの領地を助けてあげてほしい。漢気チャレンジだ。オレは救った。けど領地はこの有様だ。お前だったらどう救う?』


 挑戦状である。

 魔族を討伐した。それは勇者としての使命もあったが、初陣で飾るにはあまりにも無謀な挑戦だったと、領主館の惨状からも読み取れた。


 いいじゃねぇか、その賭け乗ってやるぜ。

 異世界でのそのチャレンジ、受けて立ってやる!

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