親友のユウキから託された勝負に、俺は早速手に入れた再構築を披露する。
全てはここまでミントが育ってくれたおかげってのもあるが、一歩間違えば人の住めなくなっていた可能性が非常に高く、俺自身はミントを制御できていたつもりでも、第三者から見たら実際は大差ないのかも知れない。
「コーヘイ、手伝えることがあるんなら言えよ。工具を作るのなら任せろ」
「物は作らなくていいんで、構造を教えてくれないっすか?」
「さっきの街路づくりのあれか?」
「っす」
ハウゼンパイセンとの話に、カインズパイセンが参入する。
はっきり言って俺は家屋に関する知識が抜けている。
見たままに形を模倣することはできるが、人が住めるような耐久性までの模倣ができないんだ。
「この中で建築に詳しい人はいるっすか?」
「俺は工具だけだな」
「俺は少し齧ったことがある」
挙手をしたのは意外な人物。
ウォール領・領主のアルハンドさんだった。
「お前、いつの間に?」
「家を継ぐ前の話だ。メアリと二人で外回ってた時にさ、こういう家欲しいなって色々考えてたんだよ。兄貴が倒れてぽしゃっちまったけどな、ガハハ」
戦争だったという。
魔族はその頃から人類に対してちょっかいをかけていて。
当時の人たちは酷い迷惑を被っていたのだとかなんとか。
カインズパイセンはその頃にパーティを解散、今に至るまでに多くの苦労をしたとか。
その苦労の先々で元パーティメンバーの助けをしたからこそ、今の関係が気づてるんだって。
いいよな、そういうの。
俺もユウキやシズクお姉ちゃんとそういう関係でいたい。
離れてても親友で、カインズパイセンの話を聞き、俺もいっそう思いを寄せる。
「じゃあ、恐れ多いっすけどお願いします」
「家の構造は任せとけ! けどよ、ここにゃ木材も石材もない! 耐久がものを言う建築で素材も建材もなくてどうするつもりだ?」
「それを俺のミントで賄うんすよ。領主様はどう言ったものが欲しいかの図の制作を。ハウゼンパイセンはこういう工具が欲しいって説明してくれたら俺もやりやすいっすね」
「わかった」
「お手並み拝見と行こうか」
それで、あっという間に一軒経つ。
最初から領主館を建てたのは、ここの領土には領地が健在であると証明するためだった。
それを皮切りに使用人部屋、家屋を建築していく。
特に俺のミントは優秀で、一度建築したノウハウを吸収、すぐに再構築してくれる優れた性能を見せる。
「もう一軒家だけだったらコーヘイ単独でいいな」
「俺はここの住人じゃないので、どこに家を建てれば景観がいいとか理解できてないんすよね」
「それも踏まえてお前の店を構えればどうだ?」
「店を?」
俺が疑問符を浮かべていると、アルハンドさんが「おいおいおい」とここに来た当初の目的を思い出させてくれた。
あ、そうじゃん。
俺ここに紹介作りに来たんだったわ。
惨状を見てすっかり吹き飛んじまってたぜ。
でもその前に、この領を再興するところから始めなきゃな。
俺の個人的な要望はそのあとでいい。
そもそも店始めるのに、客がいなきゃ始まんねーし!
「なんかあれっすね。自分の店となると色々拘りたくなるっすね」
「全く使わない部屋を作ってもな。だがお前はいつでも増築する能力を持った。まずは必要なカウンター、商品を置くスペース、後は従業員を雇い入れるなら更衣室に休憩室、トイレや入浴施設などの設置があれば嬉しがられるんじゃないか?」
詳しいっすねパイセン。人生2周目かなんかっすか?
やたら元の世界の趣旨が広い。
だからこその話しやすさもあった。
「俺があったら嬉しいものを列挙した。冒険者やってると緊急時に適当で済ませたくなるが、普通に暮らしてる時にその対処をすると嫌われる。主にこう言う貴族様は白い目で見てくるぞ」
誰に、とは言わないがミリスからそう思われてるんだろうなとと言うのは納得した。
男と年頃の女が共同生活をすれば、そう言うことも起きるか。
相手は肩や貴族だし、庶民の暮らしとは大きく異なって、苦労の度合いが見えるようだった。
「そこでまずお前のミント商品を売り込む、と言うのがある。口コミってのは実際に使ってみなきゃわからないものだ」
「それを従業員に使わせ、買い物客に効果を口頭で伝えさせる?」
「それが一番手っ取り早い。俺が冒険者ギルドで吹聴して回ったおかげでお前は包丁を買えただろ?」
「あれは有り難かったすね」
「それとおんなじことをすればいいんだ。特にこのウォール領は今一番雨や浸水にナイーブになっている。お前のミントの吸水性や撥水性をアピールするのにもってこいだと思わないか?」
今までいったいどんな苦労をしてきたらこんなアイディアがポンポンと出てくるんだ?
俺は今まで通り『魔法の水』や『スプレー』『ミント石鹸』を売ろうぐらいに思ってたのに、カインズパイセンの商魂の逞しさに感心させられてしまっていた。
「だがそんな余裕があるのは高位貴族ばかりで、庶民はそこまで求めちゃいねーぞ? コーヘイのミント商品は格安にするとすぐに他の街の商人がよってたかってくる。俺だって欲しい、だから安くしろ。お貴族様に口を聞いてやるぞ? そんな甘言で近寄ってくるんだ。売れる商品でも、売る相手を見極めなきゃいけねーよな」
俺とカインズパイセンの夢のある話に、ハウゼンパイセンが人生の教訓を刻みつけてくる。
「お前は知ったふうな口を聞くな」
「こう見えて人生経験豊富でな。欲の皮の突っ張った連中を何人も見てきている。特にこいつは人が良すぎるから心配してるんだよ、俺はよ」
ハウゼンパイセンが俺に固く身をしながら頭を叩いた。
痛て! 痛いって!
鉄みたいなゴツゴツした手で叩かねーでくんねーかな?
こちとら頭はミントみたいに優しく扱って欲しいんすわ。
「俺はそんな難しい話をされてもわからないんで、そこは専属の秘書さんを雇おうと思う。カインズパイセンがそう言う人紹介してくれるって話だったっすよね?」
「それは俺だな」
出てきたのは領主様。
おい、話が違うぞ?
ちょっとかっこいい感じの紳士が出てきてくれると思ってたのに!
「悪いな、コーヘイ。本当は別の相手を用意してたんだが、こいつが急にでしゃばってきて」
「俺ほど顔の広い秘書も他にいないだろ? 貴族に対しての顔の広さならそこらの商人にゃ負けねーぞ?」
「その上で私めもついております」
そこには老紳士といったふうな装いの執事さんがいた。
「うちの執事長なんだけどな、どうしてもお前にお礼が言いたいとこうして馳せ参じたんだ。だがお前の面白さに気づいてからは、俺もこいつと一緒に参加することになった」
「坊ちゃんは公務を優先させてください。その間のコーヘイ様の諸々の手続きは私めがやらせていただきます」
老紳士はアスタールと名乗った。
「執事長が味方になってくれるのはありがたいんすけど、お屋敷の管理は誰がやるんすか?」
「それは後任がおりますのでお気になさらず。そもそも私は今期で任を外される予定でした。もう歳ですし。アルハンド坊ちゃんも立派になられました。先代様からお守りを任されていましたが、もうお役御免で良いでしょうと。そこであなた様の商品を手に取り、この世の中もまだまだ捨てたもんじゃないと希望を新たに復帰をすることと相成りました。老兵ですがそれゆえの練達をご覧しましょう」
「なんかよくわかんないけどよろしく」
「よろしくお願いします」
ちょっとやんちゃなアルハンド様と違い、この人は物静かで立ち振る舞いが綺麗。
その対比が面白い。
こうして俺のミントでウォール量は復興し、そしてこの量を足がかりに俺の商売は始まった。
まずは領民に俺のミントグッズの良さを売り込み、そこから外に向けて商売を始める。
いつかユウキにこの名声が届くまで、俺はここでじゃんじゃんミントで人助けするぜ!
そしていつか、俺の作った商品がお前の手に届くことを信じてるぜ! 相棒!