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17_俺のミントで『商会』が繁盛する!

 ウォール領を復興して数週間。

 人々は徐々に帰ってきて、領に活気が戻ってきた。


 流石に難民申請してからすぐに蜻蛉返りできる民は多くなく、少しづつの受け入れ体制。

 代わりに新しい領民の受け入れも同時に行い、アルハンドさんは商会に顔を出す暇などないほどの大忙し。


 そのおかげもあって、商会も想定外の人がごった返すほどの人気となった。

 とにかく新しい領内には人のスペースはあれど、以前までの生活は泥の中に埋まったまま。

 人が住むようになれば、生活必需品は飛ぶように売れた。


「この魔法の水筒。水を入れるだけで爽やかな風味がつくのすごいわよね」

「商会の一押しアイテムらしいわ。ミントを使った器なんですって」

「ミントの?」

「ウォール領の名物になること間違いなしね!」


 みんなは『どうやってミントが器に?』『強度的な心配はないの?』みたいな疑問を抱くものの、それで実際に建てた家に住み、暖炉を使い、バスタブに浸ってるうちに強度の方はどうでも良くなっていった。

 原理は一切わからないが、なんかそう言うもの。

 それさえ理解してればいい。

 俺も実際どうしてミントでそんなことができるか知らないし。

 突っ込まれても説明しようがない。


 けど、製作者としては最後まで責任を取るつもりでいる。

 一度魔族の手によって泥に埋まった土地を復活させたミントであると売り込めば、故郷の救世主という立ち位置での売り込みもできた。

 大体はアスタールさんの受け売りなんだけどね。


 顔の広さだけで言えば、多分アルハンドさん以上。

 おかげで新規参入のうちの商会でも、それなりの販路を獲得できたのがでかい。


 やっぱ、人が集まって大量生産できてもさ、買ってくれる人がいなきゃ始まんねーよ。

 俺はただミントを出してるだけで、全然そこらへんに参加できてなくてちょっと寂しかったりする。


「コーヘイ、少しいいか」

「どうしたんすか」


 と、そんなところへハウゼンパイセン。

 今じゃすっかり商会のご意見番だ。

 商会の一角に自分の店の出張所を出し、ご近所さんの日用品のお手入れを格安で引き受けている。

 今は繁忙期のはずなのに、どうしたんだろうと足を運べば。


「お前の商会のアイテム、買い占められてるぞ」

「別に良くないっすか?」


 売れるのなら良いことじゃないの?

 疑問符を浮かべていると。


「ガッツリ同業っぽい装いの奴らだな。ここらじゃ見かけない服装だし、きっとあの商品を研究して模倣しようって腹づもりだろう」

「ガッツリ研究してもらっていいですけどね」

「お前は将来のライバルに塩を贈るつもりか?」

「いや、ミント売った方が手間賃かからないので楽かなって」

「本当にお前は商売っ気のないやつだよ」


 褒められた。

 いや、呆れられたのかな?

 パイセンは大きなため息を吐いている。


「従業員に給料払う立場だろ、お前。商品の真似されて、そっちに客を持ってかれたら給料も払えなくなるぞ?」

「そんな言うほどのもんすか?」

「どうせお前のことだから一種類くらいいいやとか思ってるんだろうがな」


 バレてら。

 うちの紹介はたくさんのミント商材がある。

 1個くらいでケチケチすんなって思ってるんだが、パイセンが言いたいことはもっと別の場所にあるようだ。


「その一つを許したら、それを皮切りにあれもこれも奪われるぞ。商売人っていうのは難癖をつけるのも仕事のうちだ。そうやってライバルを潰して販路の拡大を図るんだ。ぶっちゃけお前カモにされてるぞ」

「やばいじゃないっすか」

「だからそう言ってんだよ。店が舐められると従業員も舐められる。今は領主様の名前がそう言う輩を締め出してくれるが、その効果は永遠に保証されるもんじゃない」

「うっす、気持ちを引き締めます」


 ちょっと説教くさくなったなとハウゼンパイセンは自分の工房に戻った。

 今の俺の状況を、過去の自分に言い聞かせてるような、そんな語り口だった。

 元々は王国御用達の鍛治職人だったパイセン。

 国からの無茶な発注を受けて、その責任を負わされた職人だからこその発言に、俺も舐められないように気合いを入れる。


「アスタールさん」

「どうしましたかな?」

「商品の買い付けの際に購入者に数量制限を設けられないかな?」

「ようやく気付かれましたな。誰かの入れ知恵もありますでしょうが、それに気がつき、行動に起こせるものこそ商会の主人に相応しい振る舞いです。坊ちゃんにも見習って欲しいくらいですよ」


 坊ちゃんというのはアルハンドさんのこと。

 いまだに子供扱いされているのは、その頃からの教育係だったからだそうだ。


「それでできるの?」

「お声をかけてくださればいつでも導入できます」

「じゃあ、お願いね」

「一人頭おいくつまでとしますか?」

「そうだなー」


 俺はそこでアスタールさんから住民が一般的な暮らしをする上でどれくらいの物資が必要になるかを換算してもらい、その上で毎日買いに来るならどれくらい必要かの大体の数字を割り出してもらう。

 その上で。


「領民キャンペーンを定期的に開催するというのも良いかもしれませぬな」

「ああ、いいねそれ!」


 別に外から来た商人を締め出すわけではないが、領内で活動する住民向けにセールを行う。

 そこで日頃のちょっと厳しめな制限を緩和できるという試みだ。


「ついでに外からの行商人の買い付けは帳簿に記録しておきましょう」

「それで何がわかるんだ?」

「商人は商いをするときには看板を掲げるものです。うちですとミント商会のように」

「ああ、そうだな。それで?」

「その看板ごとに売り数を管理します。一日10人までの買付を許可し、多くてもそれ以上買えないようにします」

「ああ、そういう制限。姿を変えて何回も買いに来ることもあると?」

「安く購入できるならば誰もがこぞってやるでしょう」


 異世界でも転売が横行してそうだなぁ。

 まぁ対策は多くとっておくに越したことはないか。


「とはいえ、一見実用的ではない、インテリアなどの商材にもそろそろ着手していい頃合いですな」


 アスタールさんは一息ついてそんなことを言い始めた。


「インテリア? 売れ筋商品じゃなく?」

「そうです。人には癒しが必要です。ミントで作った薄ガラスに水を張り、そこにミントを浮かべるだけのインテリアとかどうです?」

「それ自体が魔法の水に思えちゃわない?」

「側から見ればそうなりますな」


 アスタールさんがすごく悪そうな顔をしている。

 妙案ありって顔だ。


「たとえば、そのインテリアは購入制限をつけず販売するとか」

「めちゃくちゃ商人が殺到しそう」


 日用品には制限をつけておいて、これにはつけない。

 あえてここに人の視線を釘付けにする。

 そんな狙いすら見えてきそうで。


「で、実際のところはガラスの中にミントが封入されてるだけで、魔法の水でもなんでもないものを、すごく高値で売りつけます」

「売れるかな?」

「それは実際に売ってみなければわかりません。住民には売れなくてもいいものを、商人向けに販売するんです。たとえばそう、購入制限をかけた商人様限定商品です、とか言ってそれなりのお部屋に招待した上で話を持ちかけるとか」


 うーん、絶対上手くいかない気がするぞ。

 こんなの買うか? って自分で作っておきながら思ったほどだもん。


 しかし実際に制限を受けた商人に早速話を持ちかけたら、飛ぶように売れたから驚きだ。


 なんだったら魔法の水そっちのけで大量買いしてるほど。

 あとで詐欺だって言って駆け込まれないか心配なほどに笑っちゃうほど売れた。


「コウヘイ様。これが商売の面白いいところです。なんの価値もないものに、もしかしてこれはすごいものなんじゃないか? と思わせて売る。売った方も買った方もお互いに得をしていると思うからこそ成り立つ商売です」


 この人おっかねー!

 絶対に逆らわらないようにしとこ。

 それと同時にこれほど頼り甲斐のある仲間もいないと俺は安堵するのだった。


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