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18_俺はミントで『荷物』を搬送する!

「参った。領民が受け入れ切れん」

「あちゃー」


 ミント商品が爆売れしたのを受けて、ウォール領にこぞって人が押しかけてきた結果だった。

 ほとんどが住民を装って商品数制限緩和を狙った商人ではないかという噂が流れてくるほどに、領内は手狭になっていた。


 おかげでミント住宅は爆売れで商会の懐は潤ったが、土地が足りなくなったので如何ともし難いということらしい。

 いっそミントでもう一つ上に大陸作っちゃうか? みたいな馬鹿げた提案が出るくらいには切羽詰まっている。


「実際のところ商人の制限緩和狙いでの住居確保がメインなんだろ? 宅配までこっちでやれて仕舞えば解決するんじゃないか?」

「バカを言うな。配送までミントで済ませられるわけ……いや、できるのか?」


 アルハンドさんは俺のミントの万能性をこれでもかとみてきた。その上で提案をしたカインズパイセンを見やる。


「実際、ここにくるのに馬車で2日だったぞ」

「そんなことが実際に可能なのか?」

「まぁ、そっちの検証もしたいところでした」


 俺も今思いついたアイディアを、まるで今まで温めてきたかのように言った。

 ちょっと商売人っぽく見えたかな?


 そんなこんなでミント貨物列車の試乗会。

 ミントのレールの上に貨物用のコースターが連結されていて、そこに人が乗れるような仕様にした。

 全部ミントで作ったのもあり、反発具合は馬車の比ではない。


「こんなものが本当に動くのか?」

「コーヘイのやることはいつも突拍子がないが、馬車はこんな感じで普通に動いたな」

「あれは馬の方が困惑してて側から見て可哀想だったな」


 パイセンズが二人して馬に同情してて笑う。


「とりあえず、これが運転席です。この赤いボタンがスタートで、緑のボタンがストップですね。右足には速度を上げるアクセルペダルと、左足には速度を下げるブレーキペダルがついてます」

「押すだけで動いたり止まる? 一体どんな原理だ?」

「いっそそう言う魔道具だと言われた方が納得できるな」

「諦めろ、コーヘイは出会った時からこう言うやつだった」


 ひでぇ言われよう。

 何はともあれ出発進行!

 俺はスイッチを押して、アクセルを踏み込んだ。


 レールの上をゆっくりとミント列車が動き出す。

 最高速度は、ちょっと景色が見えなくなるレベル。

 あ、これ風避けないと視界が死ぬ!


 軽く事故って、再度作り直す。


 ジェットコースター形式じゃなく、モノレール形式でちゃんと列車型にした。

 あまりに未来すぎるスタイルに、本当にここ異世界か?って二度見するほどである。


「気を取り直して出発進行!」

「さっきの失敗を無かったことにするな」

「これ、メンテナンスできるようにして中間マージン取ろうぜ」

「そこら辺はハウゼンパイセンに任せるっすわ」

「っしゃ!」


 いつでもどこでも金儲けの匂いを嗅ぎつけるのが上手い人である。

 だが実際に、俺以外が動かせなきゃなんの解決にもならないのは確か。

 今回は試乗会でどれくらいのスピードが出せるかのチェック。

 そこから荷物を運ぶのにどれくらいの負荷がかかるか、荷運びにどれくらいの時間を要するかのチェックがある。

 そこにずっと付き合う時間もないので、その頃には他人に完全に任せることになるわけだが、奪われても問題なので、ミント商会の人以外には動かせないセキュリティみたいなのも作っときたいな。


 今の技術で作れるだろうか?

 あとでエマール姐さんに相談しとこ。

 その時にこのミント列車のこと詰められそうだけど。


 この列車のいいところは、ミントが生えてるところならどんな場所でも走ることができる安定性にある。

 断崖絶壁の崖でも、俺のミントは安定して生やせる。

 ある意味でどこでもいけちゃうのだ。


 そんなこんなでローズアリア国までひとっ飛び。


「おい、日が上がる前に出てきて、まだ日が高いままだぞ?」


 馬車を使って3日以上、雨季なら一週間は余裕で見る峠を三つ超える場所にあるウォール領からローズアリア王国を、ミント列車はものの数時間で到着してしまった。


「貨物の裂傷はなし。品質も無事だ」

「これは輸送革命が起こるな。乗合馬車が悲鳴を上げるぞ」

「流石にうちの商会以外で扱わせないっすよ?」

「だから盗まれる可能性が高い」

「あー、やっぱそうなりますか」


 でも、と前置きをおく。


「俺が運転席から離れると、普通のミントに戻るんすよね、これ」


 俺が運転席を離れ、荷物を全部下ろすとそれはただのミントになった。


「とんでもないギミックだな。これじゃあ技術を盗みたくても賊は足踏みするしかないな」

「腹いせに焼き払われそうだ」

「俺なら八つ裂きにする。間違いない」


 嫉妬がひどい。

 それはともかく全員でエマールさんの魔道具店へ。


「おやおや、これは珍しい顔だね」

「お久しぶりです。フレッタは元気にしてますか?」

「フレッタ、客だよ」

「誰ですか? あ、コウヘイさん。それにアルハンド様まで!?」

「うちの娘が世話になったと聞いた」


 ぺこりと頭を下げるアルハンドさんに、フレッタはそんなことされても困るとオドオドする。

 ほんとこの親子は小市民の心臓に悪いことをする。

 カインズパイセンが見えない角度で腰にエルボーを入れてた。


「や、やめてください! ミリス様とは仲良くさせていただいてますけど……あーもー誰かこの人を止めてください!」

「あんまりうちの孫をいじめないでほしいもんだね」

「わっはっは。そう言う気はなかったのだが、すまんな」

「こいつは昔っから自分の立場を下に見すぎる。まるで自覚がないんだ」

「十字剣のアルハンド、噂に違わぬ豪快な人物だね」

「お、俺の二つ名を知っててくれるのかい。嬉しいね」

「お前はもう領主だろ。昔の字名を懐かしがってるんじゃない」

「過去の栄光に浸りたい時もあるのさ」

「で、そんな大人物がわざわざうちに何のだい?」


 これ以上居座るなら営業妨害で警邏を呼ぶよ? とその目は物語っている。


「いや、すいません。実はあれこれこうで」


 俺は話をかいつまんで、ミントで作った乗り物の試運転できたことを説明する。

 その上でセキュリティの強化を図りたいと、魔道具の専門家であるエマールさんを訪ねたと話した。


「ものを見てみないことにはねぇ」

「まぁここですぐにミニチュアを製造できますけどね」

「今はそれでいいか。術式の状況を確かめられればいいからね」


 そう言うことになった。

 そしてミニチュアを製造し、店の中をミント列車が走り出す。


「待ちな。これは何だい?」

「新しい貨物機構ですね」

「ミントの上を走るのは理解はできないがわかった。だがこれの動力はなんだい?」

「あー」


 やっぱそこ突っ込まれるよな。


「叔母さま、私心当たりがあります」

「言ってみな」


 かつてシャルやフレッタと一緒に冒険した時に俺はそこでもミントで荷物持ちを請け負ったことがあったもんな。


「コウヘイさんのミントは、コウヘイさんの生み出したミントに限り、反発します。かつてそれで討伐したモンスターの素材を根こそぎ持ち帰ったことがあります。普段なら廃棄するレベルの部位まで」

「なにを狩った?」

「レッドオークを20体、ファングボアを15体」

「だいたいわかったよ。つまり耐久性は問題ないってこったね」

「おおよそは」

「問題はその動力だよ。どこから出て、どこに循環しているのか。それがわからないことにはね」

「あー、それなら多分」


 俺は何となく心当たりのある【信仰】について話す。

 ついでにそれに付随する能力も開示しといた。


「レベル1200!?」

「それに、ミントで人形を作ることもできるとは」

「それじゃあ、運転はそのミント人間に任せることも可能なのかい?」

「あー、その考えは想定してませんでした」

「呆れるね。宝の持ち腐れもいいところだよ」


 ひでぇ。

 けど実際に俺だけじゃそこまで思い至らなかったのは事実である。

知識人が集まるからこそまとまる話ってあるんだな。

 いやー、勉強になるわ。


 室内のミント列車にミント人間を精製して、そこで運転させてみた。うん、問題なく運行できた。


 これで商会の人間は使わなくていいな。

 全部俺のミントで事足りる。

 やばくね?


「これ、あたしの魔道具必要かね?」

「俺のメンテも必要無いまであるな」

「いや、人を乗せて走る想定しなきゃ、きっともっと早く運べると思うんすよ」

「乗せてるのはミントだものねぇ」

「問題はそんなもので運んで、積荷の受取人はこちらのルールを守ってくれるかだよ」

「じゃあ守ってくれなかったらミントで列車の側面に貼り付けて、そのまま走り出すとか?」

「いいね、そう言う仕事なら請負うよ」


 エマール姐さんにはアテがあるらしい。

 こわっ。


「見回りで冒険者雇ってもいいな」

「こんなのに一回乗ったらもう乗り合い馬車には乗れんだろう」

「それはそれだろ。まぁ他国まで出向かなきゃ許可はされると思うぞ」

「陛下にまた鎮痛剤をお渡しせねばなるまいな」


 そんな何度もお渡ししてるのか?

 だなんて思ってたら。


 アルハンドさんに「本当にお前さんは自覚がないんだな」って言われた。

 つまりその鎮痛剤が必要な案件は全て俺が由来らしい。


 ごめーん。


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