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19_俺はミントの『線路』を販売する!

「それはあまりよろしくありませんな」


 俺は帰るなり、アスタールさんにミント列車計画の情報共有をするなりこんな返答が返ってきて眉を顰める。


「やっぱり他の商会が黙ってないかな?」

「それもありますが、こちらの費用がかかりすぎると言うことです」


 ほとんどミントで賄えるんだから言うほど費用は……と思っていたところにアスタールさんの知恵袋が発動する。


「いっそ、側は完全に販売する商会側に任せ、我々はミント線路と走行理論だけを販売する、と言うのはどうでしょうか?」

「そんなもので相手は納得するかな?」

「もし私が商会の主人なら絶対にそうしてもらったほうが助かります。商売敵よりいち早くこのシステムを導入してみなさい。皆が羨み、飛びつきますよ。しかし我々だけで扱うのはそれこそ犯罪を助長する。そこで国に介入してもらい、ミント線路の利用料の中間マージンを報酬として支払う。国はミントの線路を敷くだけで勝手にお金が入ってくる。そう言うシステムを売りつけましょう」


 アスタールさんの思惑では、国を商談に介入させることによって口止め料と恩を売りつける狙いがあるらしい。

 はえー、俺じゃそこまで考え付かなかったわ。

 やっぱりこの人は切っても切れない頼れる人材っすわ。

 アルハンドさんには感謝しなきゃ。


「それに、お話を聞く限りではコウヘイ様のミントを国の至る所に伸ばすのは【信仰】を伸ばすのに最も最適な手段。しかし一度ミントで痛い目を見ている国はそれを快く思っていませんでしょう?」

「あー」


 だからそこに黙認するだけで料金が発生する仕組みを作ったのか。恩を売るってそういう。


「ミントに利益を出せる力があれば、重い腰もあげやすくなる。今までは全て後出しジャンケンで負債を被るだけでしたが」

「今後はミントを生やし放題ってこと?」

「これが商売の面白いところですな。無価値なものに価値を与える。皆が欲しがるものなら尚更。そうですね、一度国に掛け合ってミント線路の長さによってどれくらいの支払い義務が発生するかの洗い出しをしましょうか。最初は赤字が続くと思いますが、すぐに利益は取り戻せると思いますよ」

「赤字?」

「商売とは、すぐに利益が出るものではございません。いくら元手が0であっても、信用がないうちは利益がない場所に投資をせざるを得ないと言うことです」

「あんまり難しいことはよく分なんないな。手短に」

「ものを売りつけるには買う必要があります。その買う時のお金はどこから発生するのか? と言うことです。特に賃金の支払いをする時に、懐にお金がない場合など目も当てられません」

「あー」


 中間業者になると言うことは、商会側の支払いと、こっちが国に支払うタイミングが必ずしも一致しないってことを言ってるのか。


 そこで一時的に赤字になると。

 国には他の商店に睨みを聞かせてもらうためにも支払いの義務があり、商会側もこっちに支払う期日がまちまちになる。


「一定期間使ったら、支払い義務が生じると言うのは?」

「良い着眼点です。しかしそれではまだ弱い」


 この人、一つの商品を通じて俺に教育を施してくれてるのかな?

 何にせよありがたい。

 俺はミントで商売をしたいが、商売のことは何もわからなかったし。


「私なら、線路そのものを売りつける時に距離で一月にあたりこれぐらいのお値段を提示します」

「走行システムは?」

「線路に付随するものです。線路を買えば、走行システムが一つついてくる」

「なるほど。でも一つの商会に一つの走行システムのみ?」

「あとは別途買い付け願う。我々はそこで利益を出していきましょう」


 あとは黙ってるだけでお金が転がり込んでくるらしい。

 頭のいい人ってどこの世界にでもいるんだな。

 俺は純粋にそのシステムで金儲けできればなって思ってた。


 頭がいい人はその段階から違う。

 何かのシステムに乗るんじゃなく、システムそのものを構築してしまうんだ。

 凡人じゃ太刀打ちできない頭の良さを披露されてぐうの音も出なかった。


「とはいえ、ここまでは机上の空論。国が首を縦に振ってくれなければ意味がありません」


 それはそう。


「何にせよ、どこまで妄想を膨らませ、それを実現させる能力が要求されます。我々は後者を乗り越えられる力を持っています。あとはそれをどこへ売りつけるか。それを一緒に考えていきましょう」

「あざます」


 褒められた。

 純粋に嬉しい。

 ちょっと自慢がてらに自分のアイディみたいにアルハンドさんに売り込むと。


「アスタールの入れ知恵だな?」


 速攻でバレた。


「わかります?」

「そりゃお前、この前列車で輸送革命だーとかキャッキャしてたやつが、翌日脳みそを交換したのかってくらい知的なこと言い出したら誰でも疑うだろ」


 ひでぇ言われよう。

 けど、まぁ実際合ってる。


「輸送革命だーって言い出したのはカインズパイセンっすけど」


 俺はそんなこと言ってないぞ? みたいな目で睨まれる。

 カインズパイセンはアルハンドさんの名目上の護衛だからな。


 一応はうちの商会の従業員という枠組みだが、そんなことを言ったらアルハンドさんもうちの広報だったりするので、なんだかんだで派遣組か。

 領主に派遣させてるって何だよ。

 恐れ多いわ!


「まぁ冒険者やってりゃ乗合馬車には世話になるからな。あんなの俺の時代にも欲しかったぞ?」

「そればかりは国に言ってやってくださいよ。その時に召喚してくださいと」


 アルハンドさんには俺が勇者の一人だと伝えてある。

 ユウキやシズクお姉ちゃんとは別れて行動することを余儀なくされたが、こっちでビッグになってやると誓ったばかりだ。


「そんなポンポン召喚できるほど国力が整うはずもないんだわ。魔族もそれを狙って襲ってくるからな。特に俺の時代は魔王が討伐されて30年後、節目だったんだ」


 へー、勇者召喚ってそんなポンポンできないのか。

 だから俺に向ける目が、ちょっと居た堪れなかったのかな?

 泣けるぜ。


「まぁ、でも俺が生きてる間に出会えたことを喜ぼうか。コウヘイ、そのアイディアはなかなかグッドだ。国にも恩が売れて他の商人も目くじら立てない。新規参入する商会ってのはどうしても目立つからな。ここで恩を売れるだけ売って、どこかで返してもらうのは賢いやり方だ」

「問題がないわけではないがな」

「というのは?」

「今まで労働力として働かせていた馬の行き場がなくなる」

「食べるとか?」

「それを専門にしている飼育員にそんな言葉をかけられるのか? 今日から飼育は必要なくなった、残りは全部食べることになったって言葉を?」

「あー」


 誰が声をかけられるかという話だ。

 俺なら無理だわ。


「まぁ、当分は民間にまでは行き渡らないだろうから、貴族間でのやり取りにのみ限定されるだろうがな」

「山賊や魔族がそこに介入してこないとも限らないが」

「あーそこ。うちは線路とシステムの販売のみで、そのルート内でのトラブルには一切責任を負わないものとするってアスタールさんが契約書に小さく書き込んでおけって」

「あいつらしい抜け目のなさだ」

「小さくってところがポイントだな」

「いっそ拡大の魔道具を使用しないと見抜けない大きさにしてきそうだな」

「あいつはそういう姑息なのが得意なんだ」


 アルハンドさんの恨み節の炸裂っぷりよ。

 過去に何をされたのか非常に気になるところだが。


「で、どんな感じっすかね?」

「まぁアスタールが介入してきたんなら国もそこまで強くは咎めないだろう」

「え、あの人そんなに王国に名前が売れてる人なんですか?」

「ああ、今の世代は知らないか。アスタール殿はな、元勇者メンバーの一員だ。現地組では合ったがな」

「は?」


 なにそれ。だからやたらと現代知識に詳しいの?

 でも現地組って。

 いや、その時に勇者から知恵を授けてもらった?

 可能性はあるけど……

 というか勇者が魔王を討伐したのって何年前だっけ?


「その顔は元勇者の年齢を気にしてるようだな」

「俺の頭の中身を覗けるんすか?」

「お前は顔に出るからわかりやすいんだ。そうだな、今ご存命なら67歳くらいか。アスタールは61だ。魔族に滅ぼされた村の子供だったらしい」


 親父が言うにはな、とアルハンドさんが言葉を結ぶ。

 待って、それは一体。

 言葉を出すか迷っていると。


「ああ、俺の親父は先代勇者だ。と、言ってもそのうちの一人で、活躍を果たしたのは王妃の方でな」


 族に言う女勇者だったのだそうだ。

 歴代勇者時はずっと女性だったらしい。

 けど今回の勇者は男だったのでそこはかとない不安が囁かれているとか何とか。


「あれ、ユウキは自分を男って言ってるんすか?」

「違うのか?」

「ユウキは女っすよ?」

「嘘だろ? 俺は一眼見たがあれは男の仕草だったぞ?」


 みたいなやり取りがあった。

 まぁあいつは俺と『漢気勝負』と言う謎の儀式で俺に勝ち越す猛者だし、仕草が男でも全然説得力がある。


「あいつは俺と漢気を競い合う仲で、いつしかそう言う仕草を身につけたんだと思うんすよ」

「何でそんな勝負してるんだお前たちは?」


 心底不思議そうな目で見られた。

 俺だってしたくてしてるわけじゃないんすわ。


 それはさておき、俺はアルハンドさんにこの話を王宮に持って行かせる。国は快く了承。

 非常時の運搬作業としての販売が開始された。


 レールの距離に応じてマージンが発生することを話すと、国の代理人は売り込む距離を一律にしようだの、少しでも多くのマージンを取ることを要求してきたが、全部が全部貴族の手に渡るものではないと一蹴。

 まずは商会側で運用し、安全性を確認してから貴族値段で卸すことを話たら不承不承での許諾と相なった。


 許可がで次第運行開始。

 早速目をつけた商人が駆けつける頃には法整備は整っており、俺たちは線路を売りつけるビジネスを開始させた。


 線路は飛ぶように売れて、国にその一部を献上するとシステムが周知された。


 瞬く間に忙しくなったミント運送事業。

 もしこれを側まで俺たちが用意していたらと思うときっと嫌になっていただろう。アスタールさんの先見の明に感謝しながらも、俺たちはミント線路で稼ぎに稼いだ。


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