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20_俺はミントで『渋滞』を解消する!

「コーヘイ、線路が増えすぎて渋滞してるぞ」

「あちゃー」


 あれから飛ぶように線路は売れた、のはいいものの。

 どうしたって行き先が被るなどのトラブルが絶えない。

 こちらは線路を打っているだけで、そこで起きるトラブルでは責任を負わないものとするという注意書きを書いてなかったら存在額がやばいところだった。

 アスタールさんナイス! と思いつつ、情報を持ってきたカインズパイセンに「どしたん、話聞こか?」と切り出した。


「こっちは線路を売ってるだけ。あとは買い取った商会側の問題じゃないんすか?」

「それなんだがな、ミントって同色じゃないか」

「ええ、それで?」

「二つの商会が、ここの線路はうちのだとお互いに譲らない状況に陥っているんだ」

「あー」


 なんとなくわかる。

 遠目で見るとどれが線路か、区別つかないもんな。

 金を稼ぐとかじゃなかったら、たいして気にしなかったけど、これはこれで問題点が浮き出てきたぞ。

 そんな話をしていたところに、お茶菓子を持ったアスタールさんが会頭室にやってきた。

 どこぞの商会が手土産に持ってきた茶菓子に合うお茶を見繕ってきてくれたのだ。

 ここ最近の楽しみなんだよね。


「何やらビジネスの匂いがしました。何か問題が?」

「それがさー」


 さっきカインズパイセンの持ってきた話を、まるで先に気がついてたけど放置してた風に話を持っていくと、アスタールさんは顎に手を添えて何やら考え始めた。


「なるほど。色が同色であるが故に区別がつかないと。コウヘイ様。何か妙案はございますか?」

「ミントに色をつけるとか?」

「可能なのですか? この手のやり取りは言ったもん勝ち。自分の商会のトレードカラーを持ち出してまで相手をやり込める歴戦の猛者が集いますよ?」

「要点だけ教えて」

「要は商会ごとにカラーを持ってますので、染色のカラーバリエーションは多ければ多い方がいい。単色8つじゃお話にならないという事です」

「あー」


 単純に赤・青・黄・緑・紫・白・黒・茶で行こうと思ってたんだけど、普通に突っ込まれて終わった。

 これくらいは即座に考えつくかー。


「そもそも、契約していただいてる商会は細かく見積もって30ほど。それを8色でどう賄うおつもりで?」


 土台無理な話だった。

 ならいっそ、模様を埋め込むか?


「オッケー。色々研究してみる。それが商品になりそうだったらあとはアスタールさんに任せて大丈夫そ?」

「そこから先はお任せください。ではせっかく茶葉を仕入れましたのでお先にいかがでしょう」

「いただこうかな。パイセンもどう?」

「ならご相伴に預かろう」


 そのままパイセンと一緒にお茶した。

 そしてパイセンを連れてそのままローズアリアの城下町へ。

 商会で持ってる専用列車で城下町まではひとっ飛びなのだ。

 住民からめっちゃみられるのが玉に瑕だけどな。


「たのもー」

「どうしたんだい、坊や」

「実はかくかくしかじかでして」

「まーた、誰かを巻き込む事業に身を乗り出したのかい?」

「そんなとこ」

「まぁいいさね。あたしに聞きにきたってことは魔道具関連だろ? 用件だけ伺おうか。費用は商会に請求すればいいかい?」

「それで」


 このスムーズなやり取りができるからこそ、エマール姐さんは俺の来訪をそこまで疎ましく思わなくなっているのだ。

 さすがアスタールさん。サスアス。


「ふぅん、染色剤ね」

「とりあえず、単色染だとバリエーションが少ないから、模様が浮き出るような仕掛けとかできたらなって」

「素材にもよるね。坊やのことだからミントなんだろう?」

「そっすね」

「少しまちな。アイディアはある。けど定着するかは運が絡む。代金は……」

「逐一請求でいいっすよ。これが物になればライセンス料だけで食っていける金のなる木になるんで」

「ライセンス料はうちも噛ませてもらうよ?」

「もちろん!」


 今までは手取りが減るとかケチくさいことを考えていたが。

 俺個人のアイディアじゃとっくに策は尽きていた。

 こういう熟練の職人からのアイディアは値千金。

 美味しい思いをして貰えば、次のアイディアをいただく投資にもなる。


 まぁ、この店自体がうちの紹介の一部になってるんだけどね。

 それはそれ、俺はかった金魚に餌をやらない男ではないのだ。

 いらないと言っても、押し付けてでもやりがいを与えてやるもんね。

 搾取は今んところする必要あるか? って感じ。

 金はあるだけあればいいけど、目的はそこじゃなくてミントの低すぎる価値を上げるための物だからな。

 でも損失を出すのは嫌なので、こうやってみんなに美味しい思いをしてもらうよう心がけてるのだ。


「と、いうことでこんなものができましたね」

「こちらは?」

「列車に取り付けると、専用レールが光り出すって代物で」

「ふむ」


 アスタールさんの顔色はまだパッとしない。

 むしろこの程度で出してきたかと少し残念そうな顔である。

 もちろん、これで終わりじゃない。

 俺もレベルアップしているってことを見せつけてやんなきゃなぁ!


「あ、ひかるって別に街灯とかの規模じゃなくて。今準備するから見ててくれ」


 俺はその懐中時計をミントレールに近づける。

 するとそれは星空のように輝きだし、線路上にその商会の看板商品が並ぶという仕掛けが列車を運行中、ずっと光出すという仕組みを説明する。


 アスタールさんは食い気味に身を乗り出した。


「面白い! 単価はいかほどですか? いや、宣伝できる枠に対して追加料金を取りましょう!」


 想像以上の食いつきっぷりに俺も気圧されるほどだった。


「そのアイディアはなかった。じゃあ、エマールさんに掛け合って、枠がどれほど取れるかも打ち合わせしてみるよ」

「良いですな。それと枠は更新制にしましょう。追加料金でいつでも乗り換え可能。そうなりましたら、皆がこぞって買い付けに参りますよ」


 非常にワクワクとした顔。


「どうして?」

「商品の価値は水物でございます。一ヶ月前までに大流行したからと、二ヶ月後もその価値が維持できている、というのはそうそう聞きません」


 俺のミントが特別なだけで、普通は流行など一過性。

 すぐに飽きて、次の流行に飛びつく。

 商人はそれを見極め、飽きが来る前に新作を打ち出したい生き物なのだと。

 だから更新することで、他商会の情報の遅さを嘲笑うことができるのだと。

 意地悪すぎない?


「その上で、ここから先は情報戦になります。先に宣伝を打ち出した商会をこぞって真似する商会が続く」

「そうするとどうなるんだ?」

「市場は大混乱に陥るでしょうね。だからこそ、皆がアンテナを張るんです。次に流行を作るのはうちの商会だ! それを虎視眈々と狙う商会が鎬を削りあいます」

「こえー」

「我々は、その様子を高みの見物を決め込みながら次なる新商品を打ち出し、大儲けした大商会の勝馬に乗ります」

「ずりー」

「これも商売ですよ。我々ミント商会は競合相手の少なさでシェアのトップを取れている。誰も真似ができないからこその価値です。しかし、同時に敵も多い。だからこそ、今ここで横のつながりを潤沢にする必要があるのです。人は皆、一度あげた生活水準を下げられない生き物ですからね。ミント商会を敵に回すということは、ローズアリア国の商会全てを敵に回すことだと、そう思われるくらいには成長していきたいですね」


 ニコニコ笑いながら語るアスタールさんだが、その背後に虎がこちらに向けて威圧を放つオーラを纏ってるのは気のせいだろうか?

 俺はそんなアスタールさんに対して「そっすね」ぐらいしか返せないでいた。


 結果、宣伝効果付きのレール染色システムは引く手数多の大儲けとなった。

 そこから先はアスタールさんの予想通りの展開になったのを見て笑ってしまう。


 世界はこういう頭のいい人たちが裏で支配しているんだろうなーなんて、ぼんやり思う俺だった。


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