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22_俺とミントは『親友』と再会する!

「今から向かう砂漠の街ってのはどういうところなんすか?」


 ミント列車に揺られながら、操縦席で運転する俺は横に座ってるアスタールさんと護衛でついてきたカインズパイセンを横目にドリンク片手に話を促した。


「我がウォール領と同様に、魔族の侵攻によって一度滅びかけた領土です。かつては辺境伯の管轄でしたが、今は違う方が拝命されたと聞いておりますが」


 うーむ。


「いきなり砂だらけの環境にされたら、俺なら引越しを検討しますけどね」


 俺のミントならどこでも咲いてくれるって信用はあるが、砂漠の上で枯れずに先切れるかはちょっと難しいもんな。

 ここの敵は水分が一切ないってところだろ。


「そうもできない事情があるんだよ」


 カインズパイセンが俺にも見えるように地図を広げる。

 そこはローズアリア国の領境。

 他国や魔国と隣接してるという環境であるがため、人がいなくなればそこが魔族の玄関口となってしまう重要拠点だと言われた。


「もしかしてウォール領も?」

「魔族からしてみたら欲しい立地だな。何よりも王都に近く、他の領地からの通用門としている。元勇者パーティの一人が守ってくれるという何よりも高い信頼がある。住民はアルハンドの親父さんの功績を信じてそこに移住してくれてるんだ」

「ほへー」

「今もそれが適用されつつあるが、半分はお前のファンだ」


 ポンと肩を叩かれ、ちょびっとだけ自信につながった。


「それで、今回スカウトしたい人材は、こちらの方になります」


 アスタールさんの説明は出発前にも聞いたけど、俺は物覚えが良くないからな。

 何度だってしてくれる。


「と、こちら側の生活区域だと似たような格好をしているので、俺でも見間違える。心配するな」


 あ、これ俺の物覚えが悪いってはなしじゃねーわ。

 カインズパイセンがわざわざそこの地域のファッションをレに見せてくれた。

 ここじゃみんなの格好が一緒すぎて区別つけられない可能性まであるんだ。


「砂漠では差し込む日差しと、照り返しによる湿気ひとつないカラッとした気温で参ってしまうため、そこに住む人々は頭からしっかり日差しを避けるように着込むスタイルになっています。我々も現地に到着するなり着替えましょうか」

「それがそこのスタイルなのね」


 納得。


「この列車から降りる前に着替えていいだろう。こんな広い生活スペースを保有している乗り物など、俺は知らん」

「あー」


 貴族用の馬車は座って手を広げることはできるけど、服を着替えるスペースまではなかったもんな。

 飯は食えたりするけど、その度にメイドさんが外から調達しに行くのだ。

 殿様用のスペースだよな、あそこは。

 ここじゃぞレが全部列車の中で完成している。

 ミント製の列車機構は直射日光を緩和し、なんなら光合成をすることによって、強度を増している。


「これ、うちの商会でミント製の布を作ってその街に用立てたらどうなりますかね?」

「お前は何を言ってるんだ?」


 カインズパイセンの疑うような視線。

 え、コンクリートや鉄骨の代わりになったんだから、布の代わりにだってなるでしょ。

 それともならない?

 アレェ?


「いや、とても面白い着眼点ですよ。ここまで一切燃え尽きず、疲弊しない乗り物を売り込む予定でしたが、服にまで反映させるとはさすがです。コウヘイ様、商売というものをわかってきましたね。その上で介入するのは布まで。現地の職人の仕事を奪わない最良のサービスです!」


 ミント列車は多くの失業者を出したもんなぁ。

 特に馬の飼育者。

 貴族御用達は軒並み追いやられたと聞く。


 そこら辺はまとめてうちの従業員として雇い入れたけど。

 アスタールさんが呼びかけて、これこれこれくらいの賃金で、ノウハウを活かした平民用馬の飼い葉のミントを使った開発などに手を貸してくれている。


 やはり持つべきは特化した職人だよって、ことでな。

 クレーム入れられる前に問題を解決してしまったアスタールさんの手腕に唸った。


 そうこうしてる間に到着。

 そこは砂の特性を利用した、積み上がった砂に囲まれた街だった。

 魔法使いの『宿命』を歩むものが複数滞在しており、地形効果をうまく使って日光を遮った街づくりになっていた。

 おぉ、と感心しながらアスタールさんが商人ライセンスを取り出して入場手続きをした。

 この中じゃ一番年長だし、何よりもこの国に伝手があるということなので全部任せた。


 特に育毛剤関連で絶対に裏切らないって信用がある。

 そして裏切れない理由もバッチリだ。


「ようこそ、砂漠の城塞都市イシュタールへ」


 俺たちは頭からすっぽりと街灯を被った装いで街に入った。

 外に比べてだいぶ熱量は落ち込んでいるが、脱げば大変なことになるっていうのを嫌ってほど理解する。

 いや、これは正直舐めてた。


 それはそれとして。


「なんかみんな似たような紙を持ってますね」

「私も知りませんな」

「俺もここには何回かきたが、そんな流行があったとは聞かないな」


 元冒険者の二人からしても知らないという。

 そこで話の聞き込みをすれば。


「ああ、ここに『聖女』シズク様がお越しいただいてな、これはその聖書の一部を書き写したものなんだよ。俺たちにもわかりやすく少し脚色してくれてな。これで一層教会への理解は深まるってわけだ」

「へぇ。今代の聖女様はそんなこともしてるわけか。おい、コーヘイどうした?」

「いやー、ちょっと嫌な予感が」


 シズクお姉ちゃんの趣味は男同士の熱愛だ。

 俗にいうBL。

 執筆が趣味だという話はユウキ伝で聞いていたが、それを聖書に宛てた書物を住民に配っていると聞いて、汗とは別の汗が出てきた。

 とてもバチ当たりなことしでかしてそうで。


 いや、少しはまともになってくれているはず。

 そうだよな、今のシズクお姉ちゃんは聖女なんだし。そんな趣味全開のわけないもんな。


「ともあれ、ここに『勇者』様が来ているというなら前回の謝礼を持っていくのにちょうどいい。一度街を離れてからの行方がわからなかったところだ」


 カインズパイセンはウォール領を襲撃された際にも同行してるので、話を持って行きやすいと感謝を示す。


「勇者ってどこどこ行きますって書置きは国に残さないの?」

「残すが、人の救助を最優先にするからな。民の助けを求める声があれば、書置きそっちのけで行動するものだ」


 それが『勇者』の宿命なんだそうな。

 ユウキにピッタリだ。

 俺にゃ真似できない。

 だからこそ心配でもあった。


「教会からの新しい書物の配布でーす」

「これはどうも」


 シズクお姉ちゃん著の出版物は教会で大々的に配られている。

 ちょっと意味深な流し目、何かをいい含めるような呟き。

 やたらと強調される『硬く握られた拳』。


 そして決まって二人は『ガゼボ(休憩スペース)』に向い、上半身裸で汗をかいて出てくるそうだ。

 そこで何をしたか、されたかの描写は一切されていないが、何かがあったのだろうということは明白。


 その後にやたら悟ったような会話で締めくくる。

 タイトルは『老兵と駆け出し騎士』


 これを受け取った人々は砂漠の街以外の騎士たちの行いをここで知って自分の所感を言い合っている。


 ここの老兵の立ち振る舞いは、かつて戦場でミスをした自分の失敗談を若い騎士に言いふくめているのだ。


 それを体にわからせた(意味深)

 みたいなニュアンスで皆が語る。


 絶対違う意味があるだろ、これ。


 けど俺は特に追求せず、当たり障りなく「そっすねー」で乗り切った。


「すいませーん、ここで何泊かしたいんですけど」

「あら、ようこそいらっしゃいませ。アイさん、こちらの方々をお部屋へお連れして」

「はーい」


 表通りに構えてる大きな宿屋で、俺たちはチェックインする。

 そこで案内役に抜擢された従業員は。


「ユウキ?」

「え、耕平?」


 勇者として旅だったはずのユウキだった。

 しかもアイだなんて偽名を……偽名じゃねーな、本名だわ。

 結城愛。

 でも自分の名前がそんなに好きじゃないから、苗字で呼ぶようになった。

 そっちの方がまだ安心するってことらしい。


「すいません、俺ちょっとこの子借りていいっすか」

「おいおい、一目惚れか?」

「そんなとこっす」

「後の手続きは私たちがやっておきましょう。ここの宿には何度か来ていますからね。確かこちらの部屋は、やはりこちらでしたか。カインズ様、こちらへ」

「ああ」


 アスタールさんは何かを察して俺たちに気を遣ってくれたようだ。カインズパイセンはユウキを見たことあるのに、目の前にいる女の子をユウキだと知覚できなかったらしい。

 まぁ無理もない。こっちの気の弱そうな女の子がユウキの素だからな。


「そっか、耕平もこっちに来たんだ。長くいるの?」

「ぼちぼちだな。そういうそっちこそ、旅は慣れたか?」

「慣れるとかそういうのじゃないかな?」


 勇者だから、そんなことで苦しいとか言ってられないそうな。


「お前さ、勇者だからあれもこれも全部自分一人でやるつもりでいるだろ?」

「仕方ないじゃん。わた……オレは」

「いつも通りでいいよ。どうせここにはオレとお前しかいない」

「うん、ありがと」


 それからユウキは俺が追放された王宮で切った張ったの大立ち回りをしたという。

 俺という存在の重要性を説いたが、結局は被害のデカさの方が上回り、どうしようもできないままに旅立ちの日が来てしまったそう。


「そういえば、耕平。私と同じ職人の手がけた武器を手に入れたって聞いたけど」

「これか?」


 俺はルーン文字が入った包丁を見せびらかす。

 ユウキは最初こそその異様な性能に驚いたが、なんだかんだと最後には俺らしいと話を締め括った。


「アルバイトは息抜きか?」

「うん。自分がこの平穏を守るんだって意思表示。戦いに明け暮れてるとね、自分は何のために戦ってるんだろうってわからなくなるから」

「あー」


 俺も思うところがある。

 戦いではなく商売のことだ。

 ユウキの心境まではわかりかねるが、俺はライバル心剥き出しにしながら追放生活をこれでもかと語り、ユウキとのわずかな時間を過ごした。


「じゃあ私は仕事あるからこれで」

「また会えるか?」

「問題が解決するまではいるよ」

「そっか」


 そんな話だけをして別れた。


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