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28_俺はミントで『親友』を激励する!

 分断作戦が功を奏し、勇者ユウキら一行の快進撃が続く。

 盗賊たちは以下に数を揃えようと、足並みが揃わなければそこいらのモンスター以下の練度しか持たない。


 数が揃い、街に攻め入ってきたらそれなりに厄介ではあるが、勇者が出張るほどの相手ではないのである。


「ふぅ、これである程度は気絶させられたか」

「お疲れ、ユウキ」

「耕平か。助かる」


 俺は労いの『ミント水』と『ミント手拭い』を勇気に手渡した。開発中のミント大福(中にはミントを練り込んだ餡子が入っている)を茶請けに、一服するって算段だ。


「口の中がスースーする」

「うまいだろ? 俺はこれを食べた時に革命が起こるぞって思った!」

「耕平、前までミント好きだったっけ?」

「チョコミントも受け入れられなかった」

「やっぱり宿命によって味覚が変化した感じ?」

「それもあるかもなぁ。というか、俺がミントを信用してやらないでどうするんだよっていう」

「色々あったもんな」

「まぁ、そんな感じだな」


 軽く雑談を打ち切り、俺はユウキの不安を取り除くべく話を続ける。


「なんか悩みありますって顔してるぞ」

「えっ、そんな顔してたか?」

「めっちゃしてた」

「ははは、耕平にはバレるか」

「シズクお姉ちゃんにもきっとバレてる」

「そうか。実はな、最近自分のやっていることが本当に正しいかどうかの判別がつかなくてな」

「勇者のやってることだからって、全てが許されるわけじゃないと?」

「そうだ、命を奪うまでもないんじゃないかって脳裏にちらついてる」

「ふむ」


 なぜユウキがそんなことで悩んでいるのか。

 俺にはさっぱりわからなかった。


「ちなみにだ、俺はうちの店に盗みに来た泥棒をどうしたと思う?」

「え? 耕平のことだから適度に痛めつけて野放しにしたとか?」

「それで反省してくれるんならそうするさ。でも向こうは全くの悪気なく、なんならそれが正当だとまで抜かしてきた。俺たちは不利益を一方的に被ったのさ」

「それは相当に煮湯を飲まされたな」

「その頃からかな、言って聞かない相手に理解してもらおうとしてもらうって考えが甘いってことに気がついた」

「まさか、殺し?」

「ないない。俺は商売人だ。そしてミント商品は飛ぶように売れる。盗人の手も借りたいほどに忙しくてな。だから盗賊の一人をうちで雇って他の連中にこれでもかと見せつけた」


 それでどうなったのか?

 ユウキはそこを聞きたそうにしている。

 俺は得意げになって答えた。


「一週間と経たずに盗みに入った全員が従業員になりにきたよ。どう考えても前の依頼人より金払いがよく、三食昼寝付き。人に自慢できる仕事内容。週に2日休みの日もある。給与を使って豪遊するもよし、実家に仕送りするもよし。うちの従業員はなぜか休日返上してまで働きたがるブラック気質のやつばっかなんだけどさ。どうにもそれが生きがいになってしまってるらしい」


 ユウキは目を見開いて、そのまま沈黙してしまった。

 俺のミントが非殺傷武器だなんてのは誰が見ても明らかだろうに。何をそんなに驚いているのかね。


「そっか。耕平らしいな」

「俺らしいってなんだよ。ユウキだって特別なパワーを手に入れたところで、根っこの部分はなんも変わってねぇだろ?」


 俺だって、正直異世界と言われてもピンとこなかった。

 ユウキは俺に比べて社交性があるし、顔がいいので人付き合いで困らない。

 が、馬鹿正直すぎるのが玉に瑕。

 学生同士のノリでなら受け流すことも容易だけど、大人の取り決めをやんわり受け流す技術はない。

 だから言われるがままに流されちゃったんだなー。


「……うん。自分ではそう思ってるつもりだけど、みんながオレを肩書きで呼ぶだろ?」

「ああ、勇者様ーって? 普通に女だって明かせばいいじゃんかよ。男だからってなんでも仕事任せられてるやつじゃね?」

「それなんだけど……」


 ユウキが何かを言おうとして口籠もる。


「なんだよ」

「女であることが確定すると王族に輿入れすることが確定する」

「うーん」


 確定ときた。


「魔王の復活、それの阻止。ゴールが王族への輿入れ? 誰が書いた筋書きだ?」

「王妃様がな、代々勇者は女性で、王族はそれを迎え入れる準備ができてると。そうなるとオレはさ」


 俺と一緒にいられる時間が本当になくなると。


「だから男のまま押し通したのか」

「シズク姉ちゃんがその方がいいって」

「あんまりあの人の思想に染まらない方がいいぞ?」


 あまりにも手遅れなほど腐ってるし。

 なんならユウキを男として俺とカップリングする腐りっぷりだ。聖女の人選間違えてねぇ?


「それに関しては、オレ公認だから」


 許可していると。

 なるほど、これはわかんなくなってきたな。


「あとあの時庇ってやれなかったほとんどの理由は……その」

「これか?」


 俺はイスタールで配布されてる『聖書』を取り出した。

 ユウキは顔を真っ赤にしてアウアウし始める。

 どうやらシズクお姉ちゃんに丸め込まれたみたいだ。

 あの人、布教に関しては口が回るからな。

 普段は深窓の令嬢って感じなのに、心の奥底までは誰にも読ませない凄みがある。


「知ってたのか? それを知られたくなくて半ば距離を置いたのに」

「お前はこういうのを気にするだろうから、知ってて知らないふりをしてたんだよ」

「言ってくれよ。オレは」


 だなんて些細なやり取りをしつつ確認をする。

 ゆうきにはさっきまでの迷いはもう見られないようだ。

 ずっと一人で抱え込んでたんだろうな。

 シズクお姉ちゃんはいざってときに頼りにならないし。


「緊張は解けたか?」

「ああ、おかげさまで元気出た。オレはずっと迷ってたんだ。分不相応の力を得て、自分が変わっていくんじゃないかって」

「俺は変わらなかったぞ? これからも変わるつもりはない。お前もそうだろ。あとのことは全部俺に任せろ、お前の後始末は俺が全部拭ってやるよ」

「まさかあの日見送った耕平がこんなに大きくなるだなんてね」

「お前に負けてらんねーと色々頑張ってんだよ。あとのことは任せとけ。俺とミントがなんとかしてやる」

「うん、じゃあ、行ってくる」


 ユウキは盗賊の親分を討伐しに行った。

 入れ替わるようにカインズパイセンがやってくる。


「よぉ、分断作戦はうまく行ったな」

「つって、後方支援だけっすけどね。ミントのやらかしの贖罪っつーか」

「まぁな。ここでミント商会が大金星を上げるのは国にとってもよろしくない」

「勇者様に活躍してくれることも含めて政治なのか」

「そういうことだ。よくわかってるじゃないか。ローズアリアってのはそうやって魔族を取り除いてきた。いわば伝統なんだよ」

「だからって、やりたくもないことをやらせるのは違うと思うんすけど?」

「そうだな。平和な世の中ならそもそも勇者なんて現れない。あれはこの地に脅威が迫った時のカウンターとして現れる」

「ミント栽培は?」

「さぁな」


 カインズパイセンは肩をすくめる。

 その上で。


「本格的に魔族が暴れて勇者でも手に負えなくなったときに現れる希望じゃないかって、俺は思ってるよ」

「なんすかそれ」

「大したことじゃないさ。俺が勝手に救われた気になってるだけだよ」


 ポンと肩を叩かれ、俺はパイセンと別れる。

 俺のミントが役に立ってくれたんならよかった。




 そして戦場では……


『ぐぅるるる……』

「かわいそうに。そこまで獣化が進行していては元には戻れないだろうに」


 ユウキがキメラのデイビットと対峙していた。

 その傍に、魔族の姿は確認できず。

 カインズからの助言でバックには魔族の影があると聞いている。

 油断はしてない。

 けど、途中で出てこられたら困るなという顔で剣を振るう。


「オレが救ってやる。全ては救えなくとも。ひとかけらでもお前を救う。それがオレの宿命だ」


 剣気を解放する。

 砂漠の砂粒が舞い上がり、魔族の契約が鑑賞できないフィールドが張られる。

 勇者はこれがあるから魔族から嫌われている。

 これによって魔王は封印されて。


 だからこそ向こうも警戒している。

 距離がつまる。

 駆け出したのはデイビットからだった。

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