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32_俺はミントで『思考』を伝達する!

 宿の一角、人払いを済ませた室内で。

 俺はユウキと別れの挨拶をしていた。


 勇者にはやるべきことが多すぎる。

 そして俺もまた、商人として道半ば。

 ついていくには知名度も能力も低すぎる。

 俺としては足を引っ張ってまでついていきたいわけじゃないからな。

 だから、ここは潔く見送るのだ。


「またな。次会うときまでにもっと漢気を磨いておくからよ。お前ももっと磨いとけよ?」

「言ってくれるね。その漢気で勇者の横に並び立てると?」

「そうなれたらいいなってことだよ。あ、そうだこれ」


 俺はユウキに手製の魔道具を渡す。

 それはネックレス。

 指輪やイヤリングは女性的すぎるかなって意味合いで、男でもつけておかしくない質素なデザインにした。


「これは?」

「ミントで編んだネックレスだ」

「ありがとう」


 ユウキには必要ないと思うが、俺のミントを肌で感じれる場所に置いておきたいと思ってな。

 それと今回手に入れた賢者の石の使い道でもあった。


『聞こえるか、ユウキ』

「!」


 これはミントを使った通信機能を備えている。

 どんな技術か俺にもはっきりわからないが、イスタールのミント信仰がⅥを超えた時に芽生えたもので、俺のミントを媒介に『通信』が可能になっていた。


 用途が用途なだけにあまり大っぴらにできないとアスタールさんから釘を刺されている。

 じゃあどこで使用するかとなって、寂しがり屋のユウキとのおしゃべり専用魔道具としたらどうかと提案。

 アスタールさんは満面の笑みで「それがよろしいかと」と背中を押してくれたのだ。


『これは、心で念じるだけで声が届く?』


 早速操作性をものにしたユウキが心で念じてくる。


『そうみたいだな』

『なんで耕平が知らないの?』


 曖昧な返事をした俺に、責めるような語気。


『俺がミントの全てを理解してると思ったら大間違いよ。正直、俺本人はなんもわからんからな?』

『威張ることじゃなくない?』


 確かにな。

 だがそれは他のやつにも言えることだ。


『じゃあお前は勇者のことを100%理解できてるのか?』

『それは確かに、説明が難しいね』


 人から伝え聞いたことがほとんどで、なんとなく理解したつもりになってるだけなんだよな。

 結局伝承がほとんどで、自分でどういうものか説明できないんだ。


『ほら、説明できないだろ? 俺が知ってるのは植物としてのポテンシャルだけで、それ以外は全部後付けだ』

『普通はそう思わないもんね、ごめん。私も無責任なことを言った』


 分かればよろしい。

 あと口調が普段の素に戻ってるな。

 普段は男装してるけど、こう言う時くらいはってことか?

 まぁ問題ない。


『で、さ。お話ならこうして毎日できるようになったからさ。当分はこれで我慢してくれない?』

『我慢?』


 ユウキは俺をじっと見てくる。

 まるで「我慢なんてしてませんけど?」と言いたげだ。


『ほらお前、俺を連れて行きたがってたじゃんか』

『ああ、あれね』


 何事かと察して、頷く。

 なんだ、そんなことかと言わんばかりだ。


『実際に耕平が便利だからだよ。ミント列車にミント建築。あれが身近にあれば旅は随分と楽になるなって』


 特に建築関連が軒並みもてはやされていた。

 こういう砂漠地帯じゃ特に、シャワーなんかがもてはやされるのだとか。

 汗をかきすぎて体調が悪くなるなんてのもザラだしな。

 女の子はそこを気にしちゃうか。


 男の野営なんて雑魚寝がデフォだかんな。

 聖女であるシズクお姉ちゃんもいるならば、そう出来ない事情があるのかもだけど。


『そこら辺はなんとかしたいよな。わかった、簡易テントみたいな魔道具の開発も進めておくよ。視点も増やすし、暇を見つけて覗きに来てくれ』

『やった。言ってみるもんだね』


 ダメで元々。

 言ったもんがち。

 商売いかに客の要望を叶えるかにかかっている。

 アスタールさんもそう言う場所に商材が転がってると言ってたしな。


『あと何か伝えることは?』

『シズクお姉ちゃん用にもこれを作ってもらえないかな?』


 ユウキがネックレスを摘み上げる。


『ああ、内緒話用にか』

『うん、ダメ?』


 一応素材は余ってるので、急遽その場で製作。

 ほとんどミントの加工と同じなので、手間はかからない。

 お揃いにしても目くじらを立てられそうなので、こっちはイヤリングにした。


『ありがとう、耕平』

『指輪とどっちにしようか迷ったけど、耳の方が無難かなと』

『一応私に気を遣ってくれたんだ?』


 なんの話だ?


『なんでもないよ。じゃあね』

「おう、また何か困ったことがあったなら言えよな?」


 俺はネックレスを持ち上げて言った。

 ユウキは何も語らず、目を伏せて部屋を去った。

 傍聴系の魔道具もそこら辺にあるかもしれないとカインズパイセンが心配してたもんな。


 下手に返事をすることでどこかの誰かと付き合いをばらされても困るか。

 そして十数分もしないうちに、シズクお姉ちゃんから連絡が入る。


『植野さん』

『ああ、シズクお姉ちゃん』

『グッジョブです。ユウキさんはここ最近極度の植野さん不足で塞ぎ込んでいたんですが、植野さんのお土産(お揃い)のおかげで気分が持ち直してきましたよ。でもお土産なら指輪が定番ですが、どうしてそれを選ばなかったんですか?』


 初手早口。詰めるような勢いで感情が流れてくる。


『だってあいつ戦闘するだろ? その時に壊した、壊れたとなったら気落ちするじゃん。あと肌に密着した状態だと、汗や体臭、疲労を抑制する効果もあるから、あいつにはうってつけかなって』

『そこまで考えてのネックレスであったと?』

『そうだけど?』

『わかりました。ユウキさんには私からそう伝えておきます。何はともあれ、ありがとうございます』


 会話は一方的に切れる。

 相変わらず自分勝手な人だな。

 なれたもんだけど。


『耕平様、少しよろしいですか?』


 アスタールさんから連絡が入る。

 そう、この魔道具。すでに主要人物への手配済みだった。


 カインズパイセン、ハウゼンパイセン、アスタールさん、アルハンドさん、あとはエマール姐さん。ちょっと相談に乗って欲しい時すぐに連絡を取れるようにしてあるのだ。


『どしたん?』

『領主様が少しお話があるようで』

『わかった、すぐいく』


 そこで俺は今後量をどのように発展させるかの相談を受けた。

 なんでわざわざ商会を話に絡めるのかといえば、単純に俺にしかあのミントを有効活用できないからである。


 伐採は誰でもできる。

 しかし、切っても切ってもすぐ生えてくる厄介さを持つミント。

 その上でミントを直接加工できる俺がいなくては話にならないのだ。

 ミントが増えすぎてもそれはそれで弊害があるのはどこまで行っても害悪な一面を持つミントらしいよなーってね。


「なるほど、民が増えたことによる宿の混雑の緩和をしたいと」

「ですが、いたずらに宿を増やせばいいと言うものではありません。ここはこれをこうして」


 今直面している議題は宿不足による休憩場所の少なさ。

 元々観光を主としてないのもあり、それぞれの家屋に無理やり押し込んでいる。


 主に元盗賊上がりのうちの従業員がね、住み込みだから。

 うちは仕事を教え込んだ後は独立を推奨している。

 独立って言ってもうちの従業員に変わりはないが、どんどん従業員が増えていくとね。

 商会で抱えるのにも限界が出てくるのだ。


 言うなればうちの問題で領主様が頭を抱えていた。

 だが切って捨てるにはミント商会の恩恵がデカすぎる。

 今イスタール領復興に一番貢献しているのがうちの紹介だからな。なので責任者の俺もその場に呼ばれたのである。


「なるほど、働き先で一定数賄う様に休ませると」


 アスタールさんの指摘は、従業員の勤務時間をシフト制にし、朝と夕方で交代制にして宿を借りる人員を組み替えることで緩和しようと策を練る。


「ずっと遊ばせておくわけにも行けないから、たまに遠征に行ってもらうと言うのは?」


 逆に俺はこの領地で全部を賄うのではなく、地方巡業に行かせて数を調整してみたらと提案。


「距離によっては渋るでしょう」

「ここで生まれ、育ったものは離れたがらないでしょうな」

「ミント列車の手配ぐらいするぜ?」

「しかし巡業先もそう多くありますまい」

「だが、方針は見えてきたな。今日はありがとう。少し頭が軽くなった。また困ったときに知恵を貸してくれるか?」

「こっちこそ従業員の問題を押し付けちゃってすいませんね」

「何、こっちで引き入れると約束したからな。それにミント商会に出て行かれたら私はこの地位を下ろされてしまうよ」


 それこそありえない、と領主様。


「なんかあれだな、規模のでかい話になってきちゃったね」

「いつの世も、運命は決まっているのです」

「グスタフのおっちゃんのヘッドハンティングをしにきただけなのになー」

「そう言えばそうでしたな」


 忘れてて草。

 まぁ色々なイベントがあったしな。

 ユウキとの再会。

 魔族の襲撃。

 バタバタしてて、本来の目的をすっかり忘れてた。


 だから目的を達成したからもうウォール領に戻ってもいいのだけど。

 アスタールさんはまだこの地で何かをしたいようだった。

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