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42_俺のミントで『周囲』が混乱する!

「お兄ちゃん、ここからどこに向かうの?」


 ウォール領に帰る列車の中。

 眷属であるミントゴブリンのリンが尋ねてくる。


「そうだなー」


 この一見して少女にしか見えない存在は、俺の眷属。

 つまりはミントから生えたよくわからない生き物だった。


 だったというのは本当になんでこんな進化をしたのか俺にもわからないからだ。


 新たなビジネスを予感して現地入りしていたグスタフの導きでやってきたイスマイール領。

 そこにはワイルドベリーの精霊がいて、その眷属が人のように過ごしていたのだ。


 魔族による眷属の掌握。

 人類へ反旗を翻す一歩手前で事件を解決した俺たちは、同じ精霊使い同士、これからも仲良くやっていこうと領地の問題を解決。


 ついでにうちの眷属にもそれっぽい暮らしを教えてやってくれと放流したまではよかった。


 ワイルドベリーの眷属は魔族の秘薬によって変化した。

 でもその秘薬はもうない。

 なのでうちの眷属がそこまで変化することはない。


 とか思ってたんだけど、この有様である。

 見て覚えたとかそういう問題じゃないんだわ。

 お前ら可能性の獣とかそういうやつなの?


「お兄ちゃん?」


 このどこからどう見ても女子小学生にしか見えない眷属に対し、俺はどのように接していいか心を決めかねている。


 妹? 彼女? 

 もちろんそんな感情は抱かない。

 だってこいつら、俺のミントから生まれた生命体だよ?

 むしろ親子だろ。

 もちろん俺が父親で、母親は……


【アタシね】


 うちの精霊様がそのちんちくりんボディを逸らして意思表示をしてくるが、もちろんそんなことはない。

 まぁそれらしい存在は募集中ってことで話を戻すぞ。 


「リン様、コウヘイ様を困らせてはいけませんよ」

「だってー」

「いいよ別に。これから行く場所は俺が店を構えてる街なんだ。あちこちにミントが生えてて、リンも暮らしやすいところだと思うぞ」

「わぁ!」


 はしゃいじゃって。

 適当にリンをあしらいつつ、アスタールさんに話を聞く。

 今回俺が本店に戻る経緯。

 それはもちろんただの顔見せだけではない。


 王国貴族となったからには、何かと仕事があるそうだ。

 それが貴族同士の交友とかそういうやつ。

 俺はそういうの苦手なんだけど、向こうからしたらどうにも気に食わない。

 平民上がりだと、何かしらイベントが盛りだくさんらしい。


「今回イスマイールに向かったことを貴族の何名かに追求されています」

「カイロスさんの取引関係者か?」

「人身売買に関わっている何名かでしょう」

「それに関してなんで俺が何か言われなきゃいけないわけ?」

「仲間かどうかを調べたがっているみたいですね」

「めんどくせ」


 それ以外の何者でもない。

 俺の『宿命』によってイスマイール領は『奴隷売買』に頼らなくても生活できる基盤ができた。


 しかし王国貴族はそれをよくないとしている。


「そんなものを気にするなんて、魔族に与する裏切り者がいるのかね?」

「探りを入れますか?」

「そういうのは商会ウチの仕事じゃないでしょ」


 軽く手を振り、話を打ち切る。


「では」

「仕事が忙しいって理由で断っといて。それともアスタールさんが行く?」

「ははは、私が出向いたら相手が萎縮してしまいますよ」


 おっかね。

 笑っているのに瞳の奥が底冷えしそうなほど笑ってないの。

 貴族に対してここまで強く言える相手もなかなかいないでしょ。


「んじゃあ、今回もアルハンドさん任せで」

「コウヘイ様も坊ちゃんの扱いをわかってきましたね」

「本人が喜んで王国との仲介役を買って出てくれるからな。お言葉に甘えないと」

「ではそのように」

「なんのお話ー?」

「仕事の話だ。リンには少し難しいかもなー」


 俺もできることなら関わり合いになりたくない。


 列車は止まり、ウォール領の駅に着く。

 アスタールさんと別れ、俺は領主館へと向かう。

 そこへ、


「コウヘイさん!」

「あれ、ミリス? こんなところで珍しいな」

「実は私もお父様に呼ばれて」


 ローズアリアの城下町から戻ってきたのだそうだ。

 今はカインズパイセンとは別行動中。

 仲の良い同世代とパーティを組んで冒険しているのだそうだ。


「アルハンドさんに? 何事だろう」

「多分ですけど、婚約の話ではないかと」

「あー」


 一人娘と聞く。

 まだ16って話だけど、異世界じゃ大人扱いだもんな。


「ミリスには婚約者がいるんだっけ?」

「いますけど、まぁあの件でだいぶ減りましたからね」

「あの件?」

「マーカスの件です」

「誰?」


 本気でわからない。

 貴族の名前ってパッと聞いても思い出せないものが多いんだよな。単純に関わり合いになりたくないから名前と顔が一致しないことが多い。


「ほら、お仕事でイスマイールに向かう前にちょっかいをかけてきた」

「あー、あの廃嫡貴族」

「ですです。あれの一件でお父様の逆鱗に触れた貴族が芋蔓式に検挙されて」


 大変だーね。

 ズズッ。

 俺はミントティーを啜りながらそんなことを思った。


「それで婚約者が減ったってことは?」

「どうにも複数の人間が第二王子派閥だったことが判明して」

「なんでそんな嘘ついてまでミリスのとこに嫁ぎたいんだよ」


 伯爵家ってそんなに権力あるっけ?

 いや、平民からしてみたら絶大な権力があるって話はフレッタやシャルから聞いたけど。


「それはお父様の立ち位置が国の中枢に跨っているからでしょうね。国王様だけでなく、王妃様、第一王子のマーキス様とも親しくさせていらっしゃいます」

「ほーん」

「その凄さをあまり理解されていませんね?」


 ミリスから呆れたように失笑される。


「商人の俺がお貴族様のあれこれに詳しいわけないじゃん」

「今はロゼリア様の伴侶としてある程度の知識は有しておいた方がいいですよ?」

「そういう面倒ごとは全部アルハンドさんにお任せしてるから」

「でしたらお父様のご苦労が報われるご褒美をお持ちした方が良さそうですね」

「あー、ね」


 流石に何か一つくらい手土産を持たせるべきか。

 一応後ろ盾としてミント商会の商品は割引して購入できるようにはしてるけど、そういうのは手土産にはならないからなー。


「そういえばそちらの方は?」


 ずっと気になっていたが、あまり口にしないようにしていたミリスが、ようやくリンに対して話を振った。


「リンだよ!」

「ミントの眷属っていたろ? ほら、ミントゴブリン」

「あの、たまにミント列車の運転をしていた?」

「そう、それ!」

「いやいやいやいや、騙されませんよ! だってあれはミントでできていて、この子とはかけらも類似点は」


 なんでミリスは信じてくれないのか。

 確かに側から見ても女子小学生にしか見えないが、きちんとミント要素があるんだぞ?


「リンはねー、お兄ちゃんの子供なのー」

「子供っ!?」

「ミントから生まれて、その生みの親が俺って意味では親子になるのか?」

「誰の子供ですか? いつの間にこんな大きな!」

「だからこいつはミントの眷属だって。ほら、髪の毛のここら辺とかよく見ると葉っぱだろ?」


 抱き上げて、髪を触って掻き上げる。

 しかしそんな俺の大胆な行動に、ミリスが喰ってかかってきた。


「女の子になんてことをしてるんですか!」

「いや、だからこいつは俺の眷属で」

「お姉ちゃん、お兄ちゃんのこと好きなのー?」

「なっ」


 ミリスの顔が茹蛸みたいに真っ赤になった。

 なんなら耳まで赤い。

 おいおいまじか。

 俺ってミリスにそんなふうに思われるほどのイベントをこなしたっけか?


 商人としてミントを販売した程度の仲でしかないと思ってたんだが。


「ミリス、お前……」

「違っ! 違いますったら! 確かに婚約するなら一番丸いなーと思ってたりはしますし、実際にお父様もコウヘイさんなら気に入ってくれてるから結びつけやすいと乗り気で……って何を言わせるんですか!」


 俺は何も聞いてないんだけどなぁ。

 しかしそうか。

 昔と違って今の俺には権力がある。

 特に誰ともイベントを重ねてないからそこまで興味を持たれることはないと思ってたけど、まさか権力に擦り寄ってくる相手がいるとはなぁ。

 それも身内から。

 ショックがでかいぜ。


「ちなみに俺を狙ってるやつって意外と多いのか?」


 なんとなく聞いてみる。

 そんなに知り合いは多くないけど、それなりに女子はいる。


「シャルやフレッタなども何気に狙っていると思いますよ。趣味に理解があって、自由にさせてくれて、その上でお金に困らない相手となれば、引く手数多かと」

「なんかそれ、俺の肩書きに乗っかるだけで特に俺のことを好きとかそういうのじゃなくない?」

「貴族の婚約ってそういうものですよ?」


 まいったぜ、異世界。

 その上でハーレムも容認。

 けど俺のことを好きとかではないと。

 すげー納得いかないのは俺が現代日本人だからか?


「そういうのは世界が平和になってからするもんじゃね? 勇者様が一生懸命戦ってくれてる時にする話じゃないでしょ」

「確かにそうですね。ですがそれはそれとして、狙っている子はどんどん増えそうです」

「お兄ちゃん、モテモテー」

「はいはいそうですね」


 リンの戯言を聞き流し、肩車しながらウォール領を練り歩く。

 周囲の視線がやたらと痛いのはきっと気のせいだな。

 そして領主館にて、アルハンドさんは開口一番リンの存在に切り込んできた。


「コウヘイ、その子供はなんだ?」

「あー、俺のミントっす」

「熱はないようだな」


 額を触診されて、一言。

 なんでみんな俺の言うことを聞いてくれないんだろう。

 あー、そうか。

 眷属と言って信じてくれないのはその扱いを子供のようにしてるからか。


「悪いがリン、戻ってくれ」

「えー」

「後でパン買ってきてやるから」

「それならいいよ! 絶対だよ?」


 そう言って、リンはその場で消えた。

 その場所にはミントが少量残されるばかり。


「消えた?」

「だから眷属なんですって。来い、ミントシャーマン」

「呼んだ、坊や?」


 現れたのは随分と大人のお姉さんであるミントシャーマンのシノだ。

 イスマイール領のベリーと同様に随分と小洒落た格好を好む傾向にある。なんで使役する種族ごとに性格がこうも変わってしまうのか。これがわからない。


「その坊やっていうのやめろって。お前が俺の眷属であることをみんなに証明してやってくれ」

「あら、あたしにあの醜い姿を晒せというの?」

「命令だ。聞けないならイスマイール領に出入りする権限を取り上げるぞ?」

「それは飲めない相談だわ。仕方ないわね」


 シノは諦めたかのようにその髪に手を伸ばし、解く。

 すると人の姿がみるみるとミントに戻っていった。

 でもその状態でも普通に喋るから脳がバグるんだよな。


「コウヘイ、イスマイールあの地で何があった?」

「その話をすると長くなりますが、先に人払いをしてもらっていいですか?」

「表に出せない話か?」

「あまり表沙汰にはできませんね。王国に対する貴族の忠誠が失墜しかねない」

「そこまでか」


 アルハンドさんは重々しく頷き、人払いを徹底させた。

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