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46_俺はミントに『家族』を認定する!

 グスタフの一件を皮切りに、今度はアキがベリーと組んで冒険者をするという話が持ち上がった。


 人の営みを勉強するため、という目的こそあるが。

 本質はこっちの指示を聞かずにダラダラ過ごしたいというものだろう。


「ということでご主人様、あたしたちは冒険者になるよ」

「申し訳ありません、マスター。この子言い出したら聞かなくて」

「あー、はいはい。俺もそうなってくれたらいいなとは思ってたので引き留めはしない」

「おっ」

「許可をくれるとは思ってもみませんでした」


 向こうとしてはもっと反対されるもんだと思っていたらしい。

 いや、お前らが非常に優秀だったら引き留めてた。

 けど実際は浪費家。


 働かないくせに金の催促ばかり達者な引きこもり。

 自ら率先して働くって言ってるんだ。

 引き留める道理はない。


 そもそも俺と違ってミントの成長分の強さを持ってるからな、こいつら。俺が引き留める心配がないくらいに強いんだよ。


「ただし、冒険者としてやっていくんなら、金は自分で稼げよ? あとそれとなくミント商会の宣伝も頼む」

「そこはお給料を発生させてくれても」

「月々10万までは見てやる。それ以上の嗜好品の購入に関しては自分で稼いでみるんだな」


 実際、樹人はそこまで食事に金をかけない。

 しかし俺が普通に家族として生活させてやったおかげですっかりグルメになっちまいやがった。


 ベリーも食事はしてこなかったが、イスマイールで贅沢を覚えてからはそれじゃないと満足できない体になってしまったとか。

 まぁこれから人間の中に入って生活していくんだ。

 それくらいはできないと不審がられてしまうからな。

 だからって浪費までは認めないぞ、ということである。


「はーい」

「助かります。正直この子だけでそれを食い潰される心配がありましたので」

「ちょっとベリー、ソレはあたしを甘く見過ぎよ?」

「あなたはまず最初に節制を覚えるべきだわ!」

「むきー」


 だなんて会話を遠巻きに見ながら、アキとベリーの冒険者としての旅立ちを見送った。

 いっぱい人間のこと勉強してこいよー。

 だなんて思い描いていたら。


「コウヘイ様はミント姉妹に対して甘すぎます」

「そうかな?」

「ええ、実際にご姉妹の人格を影響させているからでしょう。甘さが滲み出ていますよ?」

「あー、そこはちょっとあるかも」


 俺は女ばかりの姉弟妹きょうだいの真ん中として生を受けた。


 長女:志乃

 次女:亜紀

 長男:耕平(俺)

 三女:詩織

 四女:凛


 つまり今回の眷属の性格は実在した俺の姉妹に倣ってつけたものだった。

 全くの無自覚で、元の世界の姉弟の名前をつけるあたり、望郷の念が強まってきているのかもな。


 ユウキと離れて暮らしているというのもあるが、本当にこればかりは無意識なんだよな。

 いまだに姉ちゃんたちから『ご主人様』呼びされるのに抵抗がある。


 なので身近に置いておきたくないので旅立ってくれるんなら大助かりだった。


「ご家族が愛しいが故に、側において自分色に染まる姿を見たくないと?」

「どうだろね。家族を近くに置くことで心の安寧を図っているのかもしれないぞ?」

「もしそれが叶うのであれば、そうしたいと思われる方は多くいられるでしょう」


 自身もそうだ、と訴えるアスタールさん。

 先立たれて、取り残された従者筆頭である彼の心労を慮ることは俺にはできない。

 だからと言ってそれをしたところで心の傷は開くばかりだ。

 過去は過去だと認めないと立ち上がることも前に進むこともできなくなっちまう。

 そういう商売はあまりしたくないな。


「流石にそれを商売にはしないよ。まやかしはまやかしだ。そこに救いを求めるようになっちゃおしまいだよ」

「お強くあらせられますね」

「別に、こんなのはただの強がりさ」

「本音は?」

「うちの家族ならユウキも知ってるから、俺の近くにいても嫉妬しないかなって」

「打算100%じゃないですか」

「そうだよ」


 俺はユウキ以外の女子と仲良くやっていくつもりはないんだ。

 何かにつけてすぐ結婚とか口にするからな。

 男女に友情は成立するかどうかは俺はユウキで証明済みなんだよなぁ!


 王女様?

 向こうは俺を利用する気満々だろ?

 だから俺も利用する。

 ただそれだけの関係。

 プレゼントも気に入ってくれたみたいだし、当分はこの肩書きに乗っかれるな! ぐらいなもんである。


「それでしたら、今後の姉妹の活動範囲を増やしてみてはいかがでしょうか?」

「活動範囲?」

「コウヘイ様は人が優しくていらっしゃる。ですが中にはその優しさに付け込んで取り入ってくる輩もいることでしょう」

「ふむ。続けて?」

「それを選定するために、ご姉妹を野に放って情報収集をさせるというのは」

「たとえば?」

「リン様はその活動範囲の狭さと、子ども特有の好奇心旺盛さで街の子どもの情報網に入り込むことは容易かと思われます」

「そうだな。リンは元気っ子だ」

「ですので街の子供達の困っている情報を集めさせて、商会で痒い所に手が届く商売を始める、とか」

「子どもに金を払わせるのか?」

「もちろん違います。子供が困るほどの危機となれば、それは家族を巻き込んでのこと。なので原因は親にあることはすぐにわかることでしょう」

「なるほどなぁ」


 元の世界も、異世界も子どもの悩みの根幹は親にあるものだ。

 そこをうまく商売に繋げるってわけね。


「とりあえず、リンにおやつをダシに提案してみるよ」

「コウヘイ様の命令ならおやつなどなくても聞いてくれるのではないですか?」

「あいつのわがままっぷりを舐めちゃいけねぇよ。なんせ俺の命令を跳ね除けるところがあるからな」

「制御できていないじゃないですか!」

「する必要あるか? あれでも我慢はしてる方だ。実際、貴族みたいに身の丈に余る貴金属の要求はしてこない。おやつや珍しいおもちゃの要求ぐらいだ。そこら辺は俺でも作れるしな」


 アキに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいだ。


「なるほど。度を超えたわがままをしてこないので扱いやすいと」

「あんまりリンの前で言うなよ?」


 どこまで限界か見極めるのが得意なやつだ。

 今の状態を限界と思わせて成立しているところもあるからな。


「ではシオリ様はどうでしょう?」

「シオリかー。どこ行ってもやっていけそうな気がするな」

「知識の探究者であられますな」

「ただしうるさいところはNG。静かで落ち着いた作業場に限る」

「ならばエマール魔法具店などはどうでしょう?」

「錬金術かぁ。エマールの姐さんには世話になったからな。アルバイトとして組み込んでみよう。シオリも俺と同じミント抽出はできるし、錬金術の発展に役立てると思う」

「決まりですな」


 優秀な奴は就職先も早くて助かる。


「アキ様は冒険者。それ以外に適任な就職場所はありますかな?」

「飲み食いと着飾るのが得意だから、酒場かブティックなんかに配属する方が無難かな? 酒場ってのは情報が集まるところだろ? あいつがそこに聞き耳立ててるかは怪しいが、入ってきた情報は精霊のもとに集まって、俺の耳にも入る。いるだけいてもらうだけでも役には立つ」

「シオリ様と扱いの違いが顕著ですね」

「いや、アキも優秀ではあるんだよ。ちょっとストレスを溜め込みやすくて癇癪を起こしやすいだけで」

「難儀でございますな」

「給料をはずめばいうことは聞いてくれるからさ。そこはおいおい判断していくとして」


「最後にシノ様でございますな」


 問題児きちゃった。

 うちの長女、志乃は俗にいうニートだ。

 小学校中学年まではテレビに引っ張りだこの読者モデルだったのに、ある日を境に人前に出るのが怖くなったとかで一日中家の中で暮らしている。


 しかしこっちのシノは昔の姉さんみたいに明るく、大雑把で明け透けだ。もし引きこもらないで成長していたら、こうなっていたんじゃないかという成長を見せるが、肝心なところが姉さんなんだよな。


 それが一人では何もできないところにあった。

 劇的にアルバイトに向かないのだ。

 今回はグスタフのサポート役として地方に栄転したが、これが他のシノにいい影響を与えてくれればいいなとは思っている。


「まだシノに仕事は早い。グスタフと一緒に行動をさせて、成長を促してからでも遅くはないだろう」

「なかなかうまくはいかないもんですな」

「シノは人の恐ろしさをこれでもかと経験している慎重派だ」

「一眼見ただけではわかりませんな」

「それだけ周囲に気を遣えてるってことだな。だが同時に極度の人見知りでもある」

「見えません」

「家族にはある程度普通に振る舞えるんだよ。だからグスタフに懐いた時、少し成長を喜んだものさ」

「任せてみようと思えたのですね?」

「ああ」


 俺の眷属は無個性な奴らだった。

 しかし俺のイメージを反映させてから急に人間らしく振る舞い始めた。

 いい面もあるけど悪い面まで引き継いで。

 はてさて、これが世界にどんな影響を与えることやら。


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