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第3話 侯爵家の変人

 あの転生の日から、早いもので17年の月日が経った。その中で色々と分かった事がある。


 まず、ここが地球ではない事。


 簡潔に言えば、魔法と剣が支配する異世界。


 空には大小2つの太陽と外輪を持つ青い月が輝き、鮮やかな鳥が群れを成して海を渡り、地には巨大な蟻が巣を掘り、美しい漆黒の毛並みを持つウサギが野を駆ける。


 私が今いるヴィスハイム王国は、水の都と呼ばれるほど豊潤な土地だ。王都ノイゼルの至る所に水路が伸び、ゴンドラが行きかっていて、どこかヴェネツィアを彷彿とさせる。煉瓦で作られた家並みは、夕日を浴びて黄金に輝き、透明度の高い湖と相まって観光名所としても名高い。


 人種も多種多様だ。映画などでも馴染みのエルフやドワーフをはじめ、爬虫類系、哺乳類系、鳥類系など、多岐に渡る獣人が共存している。みんな髪や肌の色、鱗や毛並みなどが多彩で、煉瓦の街並みによく映えた。


 その中でも、私のお気に入りは猫族の方々。イシェルアという一族は小柄で、陽気だ。始めてお会いした時は興奮したっけ。ふさふさと揺れる尻尾に思わず飛びついてしまって、お母様にめちゃくちゃ怒られた。そうだよね、猫にとって尻尾って大事な部分だし、ましてや獣人相手。場合によっては猥褻わいせつ罪になってしまう。あれは私が全面的に悪かった。


 そんな風に、人種の坩堝るつぼとも言えるこの国が穏やかな社会を保っていられるのは、ひとえに王家の方々のお陰だ。周囲の国とも争わず、和平の道を選んでいる。国民にも優しく、善政を敷いていた。時折、国王陛下御自おんみずから兵を率いて、街の視察にお出でになる。そんな事ができるのも、平和だからこそだろう。


 その視察には、いつもお父様が付き添っていた。私の実家は、代々王家に仕えている侯爵家だ。歴代のご先祖様は文官だったらしく、騎士団長をしているお父様は異例と言っていい。パレードの先頭を白馬に跨り、凛々しい表情で闊歩する姿は格好良くて、私はいつも見に行っていた。こんなの、映画や漫画でしか見ないからワクワクするのも仕方ないでしょ?


 私はそんなバーティア侯爵家の嫡男、ファルス・バーティアとして産まれてしまった。


 そう、男なのだ。


 この17年で、これが一番つらかった。


 よくラノベでTSと呼ばれる状態だけど、あんな簡単に受け入れられるものじゃない事を痛感している。心は女のままだから、自分の体が気持ち悪くて直視できない。お風呂に入るのもひとりではままならず、いつもメイドの手を借りていた。


 目隠しをして体を洗ってもらい、せめて女らしくと伸ばした髪の手入れをしてくれるメイド達には、頭が上がらない。


「ごねんね、いつも迷惑をかけて……私のせいで、あなた達まで悪く言われていると聞いたの。無理をしないで、お父様に言えば配置換えをしてくれるから……」


 そう言った事があるけど、みんなは首を横に振る。


「何を仰います。わたくし共はファルス様にお仕えできて、とても光栄にございます。だって、他のメイド達がご子息かご令嬢のどちらにしかお仕えできないのに、私共は正に一挙両得。お召し物もドレスから燕尾服まで選び放題なのですよ? 外野の言葉など、無視すればよいのです」


 メイド長が得意満面に胸を張ると、他のメイド達も頷いた。それがどれほど嬉しかったか。彼女の勧めもあって、自室では女装で過ごした。ドレスは布の量やレースなどがふんだんに使われているから、男装よりも服飾費はかさんでしまう。申し訳ないと謝る私に、両親は笑って許してくれた。


 でも、人前に出る時はそうもいかない。どうしても目立ってしまう喉仏を隠すために、ハイネックが手放せなかった。この世界にはボクサーパンツなんて無いから、ぶらぶらするモノを布で押さえつけたている。時折具合が悪くなる事もあったけど、それ以上に嫌悪感が上回った。仕草や言葉使いも自然と女っぽくなるから、一部の人には変人だと思われている。


所謂いわゆるオネェとして。

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