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第4話 異世界の現実

 私はどこへ行っても腫れもの扱いされる。特に子供時代が最も顕著けんちょだった。


 貴族の子供は、ほとんどが家庭教師を雇って教育される。私も例に漏れず、教科毎に教師が呼ばれていた。授業は私室で行われ、周囲の目が届きにくい。そんな環境だから、なよなよした私を気に入らない先生に鞭で打たれた事もある。


 前世の記憶を持っている私にとって、この世界の学業は小中学校程度だ。歴史や政治学は例外として、勉強がそれなりにできるのも気に喰わなかったのかもしれない。


 でも私室とはいえ、どこにでもメイドは控えている。先生も貴族の人が多いから、あまり気にしないんだろうけど、ちゃんと見ていてくれて、すぐさま両親に報告して辞めさせていた。それが申し訳なくて、憤慨ふんがいしながら去っていく先生にいつも謝っていたな。


 そしてもうひとつ。お茶会が最悪だった。


 貴族の繋がりとして、令息令嬢とのお茶会に誘われるのは避けられない。私は次期侯爵だ。おこぼれに預かろうと、親の進言で取り入ってくる奴も大勢いた。そんな子達も、女のような私を気味悪がって、罵倒してくるのである。


 なんといってもまだ子供だもの。普段は自分の館でやりたい放題の子供が、侯爵家に招待されたからといって大人しくできるはずもない。交流が始まったのは5歳の頃だ。貴族としての教育も始まったばかりで、自分の地位を疑いもしない。


 しかも、お茶会に来るのは嫡男や、私との婚姻を狙う令嬢。そんな子達は大抵が甘やかされて育っている。侯爵家に招待されるほどの家格となれば、将来は王宮でも重要視されるだろう。たぶん私の部下になる子もいるはず。


 そんな事にも構わず、ひとりの少年が声高に叫んだ。


「ボク知ってる! お前みたいなの『だんしょう』って言うんだ! ボクが囲ってやるよ!」


 ニヤニヤとわらう少年は、きっと意味も分かってないんだろうな。小学生が『おかま』と騒ぎ立てるのと一緒だ。そこに変な知識が入ってるせいで、口に出すのは下品とされている男妾を持ち出していた。お付きのメイドがいさめるのも聞かず、ギャーギャーと騒ぎ立てている。


 この世界には男色の文化もあるにはあるけど、でもそれは公然の秘密というか、戦場での性処理に近いものだ。何故そんな事を知っているかというと、男子だけのお茶会で、猥談よろしくベラベラとしゃべる奴がいたから。


 男妾も妾も、囲うにはお金がかかる。もうひとつ家庭を持っているようなものだ。その数を競い合うのは、どれだけ金銭的に裕福か、そして自分の権力が如何程のものかを見せつける絶好の口実として、ある種のステータスとなっていた。


 王都の一角には花街もあり、娼館の影にはひっそりと男妾の店があるらしい。娼館もそうだけど、男妾は俳優の卵が多い。有体に言えば、枕営業を大っぴらにやっているようなものだ。そこでパトロンを見つけ、後ろ盾を得られるかどうかが成功への分かれ道だという。


 そんな前提があるのに、中には私を誘ってくる馬鹿までいる始末。家格が下の奴に囲われる訳ないのにね。


 それに私は女だ。男を求められても困ってしまう。好きになるのも、もちろん男性。でも例え告白して受け入れてもらえても、男の体からは逃れられない。


 できるなら、脳味噌を女性の体に入れ替えたいと考えてしまう。一時期は異世界なんだから、変身の魔法でもないかと図書館に通い詰めていた。読めない文字も四苦八苦しながら読み解き、賢者が巡礼で訪れると聞いては足を運ぶ。


 けれど、どれも空振りに終わった。


(……女に戻りたい……いっそ、死ねたらいいのに……)


 まだ転生したての幼い頃は、気が狂うようだった。記憶を持ったまま産まれてしまった弊害へいがいだろう。時には男性の象徴に刃を突き立てたほど。そこから凶状持ちの変人と言われ続けている。


 それでも、新しい両親を思えば自ら命を絶つ事もできない。そうして、なんとか17年を生き抜いてきた。男妾と罵倒されようと、変人と言われようと、私は女であり続けるのだ。

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