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第4話 ダイゴくん空を飛ぶ

ダイゴくんは、すくすくと成長しております。

最近では、つかまり立ちも、板についてきました。

小さな足で立ち上がる姿は、

大地をしっかり踏みしめているようです。

時々、お尻からぺたんと座ってしまうこともありますけれど、

ダイゴくんは着実に成長をしています。

この健やかな成長を続けていけば、

やがて、皆に愛される勇者になるでしょう。

ダイゴくんは愛されることを疑っておりません。

それは幼いからではありません。

愛されることを自然と受け入れているのです。

愛され、大切にされること以外のことを知りません。

排泄で気持ち悪くて泣くこともあります。

構ってほしいと泣くこともあります。

しかし、それは、愛されている故です。

ダイゴくんはまだ意思を伝える言葉を持っていないので、

何かしてほしい時には泣くしかありません。

そして、泣けばなんとかしてくれると信じ切っているのです。

裏切られることを全く思っていません。

愛されることしか感じていないダイゴくんは、

なんと素晴らしいことでしょう。

まだダイゴくんの意識には、明確な言葉はありません。

しかし、私アイリスが受けてきたようなひどいことは、

ダイゴくんのイメージの中にひとつもありません。

このまま、曇りなく純粋でいてほしいと願うのは、

悪とされてきてしまった私のエゴです。

エゴではあるのですが、

願うだけならばいいでしょうか。

ダイゴくんは今日もキラキラと笑っています。

まるで小さな太陽のようですね。


さて、お父様とお母様がお話をされています。

ダイゴくんとともに、どこかにお出掛けのようですが、

車というものでのお出掛けよりも、

もっと遠くのお出掛けであるようです。

お父様はダイゴくんを高く抱っこしますと、

ダイゴくんは空を飛ぶんだと言いました。

ダイゴくんも理解できなければ、

ダイゴくんの身体にいる私も訳が分かりません。

空を飛ぶとはどういったことなのでしょうか。


この世界にやってきてから、

私は魔法のようなものをいろいろと目にしてきました。

しかし、お父様もお母様も、おばあ様に至りましても、

魔法というものだと説明を受けたことはありません。

だとしたら、そのような技術なのだと思うのが筋なのでしょう。

なおかつ、魔法の力で何かするようなことのない世界と思うのが、

一応の理にかなっているのかもしれません。

魔法は存在しないようですが、

魔法と遜色ないほどの技術のある世界。

私はそのように大体理解しました。

ダイゴくんの身体の中で、私なりに理解をしたのですが、

ダイゴくんといえばいつものように天真爛漫ですので、

私がこの世界のことを考えている間に、

意識の中は楽しいイメージで満ちています。

ダイゴくんには将来の不安というものは欠片ほどもありません。

私は、空を飛ぶということについて、不安ばかり思い浮かびます。

お父様は明るく言われたのですが、

魔法のないであろう世界において、空を飛ぶということ。

それが一体どんなことなのか想像もできない怖さです。

暦にはお出掛けの日に印がついております。

もうまもなくのようです。


空を飛ぶ日になりました。

いつものようにダイゴくんは安全な椅子に座って車に乗ります。

お父様とお母様も一緒に、

車はいつもより遠くに向かいます。

お父様とお母様のお話を聞いていますと、

どうやらお父様の故郷の、オキナワというところに、

空を飛んで向かうようです。

空を飛ぶにはヒコウキというものに乗るらしいのと、

クウコウというところに行くらしいと分かりました。

ダイゴくんの読み聞かせの本には、それらの文字がありませんので、

何を表したものかはわかりません。

私は不安になりながらダイゴくんとともにクウコウに向かいます。


やがて、見たことのない施設に私たちはやってきました。

ここがどうやらクウコウと言うそうです。

大きな窓から外を見ますと、

伝説の怪鳥を思わせるような翼のあるものが見えます。

翼が動かないところから察するに、

この世界の技術で作られたものかもしれません。

お父様とお母様は、ダイゴくんに向けて、

あれに乗って空を飛ぶんだよと言われます。

ダイゴくんはといいますと、

見たことのないものに囲まれて、すべてに関して興味津々です。

ダイゴくんの意識は、すべてが面白いものに映っています。

私の言葉に直すと、

あれに触ったらどんな感じだろうか、

あれをもっと見たいとか、

そんな、興味と面白さに満ちています。

ダイゴくんの周りには、不安をかきたてるようなものは存在しません。

今までダイゴくんがひどい目に遭ったことなどありませんから、

ダイゴくんの周りには、安全で面白いものしか存在しない、

ダイゴくんは心からそう思っています。

はたして、空を飛んでもその心でいてくれるだろうか。

空を飛ぶことへの未知の不安と、

ダイゴくんの心を守れるかの不安に、

私は押しつぶされそうでした。

これは、私がどうこうなってしまうのでなく、

ダイゴくんを守ってあげたいことから来る不安。

私の魂がどうなってもいいから、

ダイゴくんは守ってあげたい。

私は祈るような気持ちでいました。


ダイゴくんとお父様お母様は、

ヒコウキに乗ります。

怪鳥のようなヒコウキの、中に乗るとは思いませんでした。

安全であろう椅子に座り、

周りにもたくさんの人が乗っています。

こんなに重い物が魔法無しで飛ぶものでしょうか。

私は不安しかありません。

やがて、ヒコウキが動き出します。

走るように速度を上げていき、

かなり走った後、ふわりとした感覚を持ちました。

飛んだのです。

本当に飛んだのです。

飛んだら落ちてはしまわないだろうか。

私はハラハラしていました。

どうか、落ちないで、落ちないでと念じ続けました。

ですから、ダイゴくんが飛行機の中でどんな意識を持っていたのか、

私は上手く共有することができませんでした。

私はただただダイゴくんやヒコウキに乗ったみんなの無事を念じ続けました。

やがて私は疲れてしまって、

魂だけの存在だというのに意識を手放してしまいました。

ヒコウキはそのままオキナワまで飛んだようでした。


私の意識が戻ってきたのは、

オキナワについてからでした。

オキナワはあたたかい場所のようでした。

ここがお父様の故郷のようです。

ダイゴくんは空を飛んでしまいました。

空を飛んで遠い場所まで来てしまいました。

こんなに幼いダイゴくんが、空を飛んでしまうなんて。

ダイゴくんは、伝説の怪鳥を従える素質もあるのかもしれません。

勇者は愛されることも必要ですが、

勇者を勇者たらしめる、

素晴らしい力も必要です。

そのひとつが、ダイゴくんが空を飛ぶことなのかもしれません。

ダイゴくんはやはり勇者になる素質があります。

ダイゴくんはこれからたくさんの存在に愛されて、

歴史に残る伝説の勇者になるに違いありません。

私はそれまでダイゴくんを導き続け、

ダイゴくんは太陽のように輝いていてほしいと思います。

この、オキナワの太陽のようにキラキラと。


ダイゴくんの勇者への道は、まだまだ続きます。

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