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第8話 

 それから城砦はもの凄いスピードで脚本を執筆し、脱稿した。

 遅れ気味だった舞台練習は再開され、三カ月というタイトスケジュールでの練習を終え、舞台が開かれた。


 白石が夕食にオムライスを食べていると電話が掛かってきた。それに出ると、城砦からだった。

「あっ、城砦さんこんばんは。どうかしたんですか?」

「いま手元にチケットがあるんだが、君も一緒に見に行かないか?」

「わっ、分かりました」

 白石は慌ててジャケットを羽織り電子カードを持って外に出た。

 駅へと着いたら周囲を見渡す。そしたら渋い顔をしている城砦がいた。

「こっちだ」

「はいっ」

「これチケット」

 渡されたチケットをポケットに入れ込んで、城砦と共に改札を通り電車の車両に乗り込む。

「舞台を見るとびっくりしますよ。演者の気合の入った姿を見ているとほんとね」

 白石は横から城砦の顔を見る。不愛想な表情はまるでブルドックみたいだが、犬のような愛くるしさはこの男にはない。

 天王洲アイル駅で降りるとその街の銀河劇場へと足を運ぶ。

 三日月が白石と城砦を見下ろす。横断歩道の信号で歩を止めて、「アニー」と呟くと城砦が眉をひそめた。

「どうした急に?」

「二十歳のころにたまたま見に行ったのがアニーの劇だったんだよ」

「ほうそれで?」

「とても良かった。役者の熱気? というのが伝わってきたから」

 信号が青に変わり、小鳥のちゅんちゅんという音が鳴る。

「あんたの舞台は、アニーを超えるものになるのか?」

 城砦は笑って、「そのつもりだ」と言った。

 銀河劇場に着いた。観客たちがぞろぞろと中に吸い込まれるように入っていく。

 上階段のエリアの席に着く。そこは全体が一望できるポジションだ。

 そしたらブザーが鳴った。幕が開きナレーションが聞こえだす。


 そこからの舞台は流石だった。途中に差し込まれる舞台演出や役者の気迫。そのどれもが胸に訴えかけるメッセージ性がある。そんなものだった。

 役者の声が、SEや音楽が。どれも魅力的で、でもどこか稀薄性を有する。一度しか見れない旅の思い出のような感情だ。

 夕暮れに差し掛かった演出。見事に寂寥感を演出しながら劇を終わらせた。

インパクトな言葉を残して――                    

「さようなら。亡君――」

 白石はたまらず涙を流してしまっていた。声を出さず、涙を噛み締めながら。

 フラッシュバックしていた。素人時代から田畑と切磋琢磨しながら漫画を作り、だが二年間一度も連載会議を通らなかったことを。そのせいで居酒屋で長年仕事をしていたこと。漫画家を諦めようかとも何度も思った。だけど夢にかけた時間が、その分の努力が水の泡になることが堪らず嫌だったこと。

 それが、少しでも報われたような気がした。

 最後に演者たちが舞台に集合して手を挙げる。観客たちの拍手。

「良い仕事だよな。作家って」

 白石の言葉で彼を見遣った城砦は、笑みを零して、

「そうだな」

 そうつぶやいた。






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