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第11話 第三の試練 不壊の門番

 城の地下とは思えないほどの広い空間。天井は高く、円形に整備された壁一面に城の柱で見たような精緻な彫刻が施されてあった。松明の炎が揺らめくたび、彫刻の影が不気味に踊り、冷たく湿った空気が肌にまとわりついた。静寂の中、低い唸りのような風音が微かに響き、重々しい緊張感があたりを支配している。

「おそらく、あれが『テラベストラ』に続く門だ」

 試練の最奥、静寂に包まれた広間の奥に、それは佇んでいた。

 石で築かれた巨大な門は、装飾をほとんど持たぬにもかかわらず、圧倒的な存在感を放っている。黒曜石のように深く鈍く輝くその表面には、古代語と思しき文字が刻まれ、触れずとも鼓動のような力が感じられた。

 高く伸びる柱は、重厚なアーチを形作る。まるで天空すら支える意志が込められているかのように、揺るぎない重みがあった。

 これは門であり、境界であり、選ばれし者のための通路ーーーそう直感させられるには十分だった。 

「『獣人族ブラッドロア』のクニか〜たのしみだな!」

 オージは目を輝かせている。未知のクニへの期待が彼の胸を熱くさせる。その笑顔には、冒険への純粋な喜びが溢れていた。 

「まあ、その前に最後の試練だ」

 門の脇には2人を遥かに超える大きさのいかめしい石像が立ちはだかり、2人を見下ろしている。

「わかってるっての!それで巻物にはなんて?」

 オージは門に近づきながらワカに問う。その動きに反応して石像の目が赤く光った。

「『第三の試練 戦え』」

 松明の炎が不自然に揺らぎ、微かな風が足元を抜けた瞬間、低いゴゴゴという音が地面から響き始めた。

 石像がゆっくりと低い音を響かせながら動き出す。石像が足を一歩踏み出すと、長年蓄積していたのであろう土埃がパラパラと落ち、地面を鳴らした。 

「わかりやすくていいじゃねぇか。行くぜワカ」

 オージは膝を曲げ、首をひねり、戦闘態勢を整える。彼の体から溢れ出る闘志が空気を震わせた。

 石像は一歩一歩、広間を揺らしながら2人に近づいてくる。

「もちろんだよ。オージ」

 ワカも巻物を綴じ、腰をぐっと低くおろし構えた。

 2人は石像をじっと睨みつける。

 石像は2人の前で立ち止まり右手を構えると、そのまま2人を目掛けて振り下ろした。

雷衣ライトニング!」

 石像の拳が地面に突き刺さる。後ろに飛び、回避するワカ。石像の視線がワカに奪われる。その隙にオージは石像の懐に飛び込む。そのまま地面を蹴り上げ、高く飛ぶと振り下ろされた腕に向かって回し蹴りを食らわせた。

「こいつ結構脆いぜ!」

 オージの蹴りで石像の右腕は吹き飛んでしまった。飛び散る岩の破片を見て、オージは口角をクイッとあげ余裕の表情を浮かべた。地面に着地すると、そのまま次の攻撃体勢に移る。

「このまま押し切るぞ!」

 石像は無言のまま左腕を振り上げ、オージを押し退けようと迫る。 

 ワカは、その様子を見て素早く足元に飛び込み拳を叩き込む。そのまま、オージの攻撃に合わせつつ、着実に石像を破壊していった。

「おりゃあああ!」

 オージとワカによる怒涛の猛攻を受け、石像はいとも簡単に崩れ落ちてしまった。オージは石像の残骸を見て満足げな顔をする。 

「最後の試練にしちゃ拍子抜けだったな」

 オージは石像を後にして門まで歩き出す。勝利の余韻に浸るオージだが、少し物足りなさも感じている様子だった。ワカは、もう一度巻物を広げて確認をしている。

「さて、これで門が開い……オージ危ない!」

 ワカの鋭い叫び声が響いた。ふとワカが顔を上げた先には、オージの背後には石像があった。崩れたはずの石像の残骸は不気味な軋みと共に再び動き出し、巨大な右手でオージを握り潰そうとしている。

天空テンクウ!」

 オージはワカの声に反応し、咄嗟に宙に舞い上がる。間一髪石像の攻撃を回避した。 

「ふぅ……危なかったぜ」

 汗を拭いながら、石像を見下ろすオージ。先ほどまで石像とはやや違うことを察知する。

「形が変わったね。そう簡単には行かなさそうだ」

 石像の大きさは先ほどから一回り小さくなったが、大きな両腕は健在でやや寸胴な形に変わっていた。赤く輝く目は鋭さを増し、まるで二人の動きを見透かすようだった。

「最後の試練だ。そうこなくっちゃな」

 そういうとオージは天空テンクウを解き、そのまま石像めがけて足を振り下ろした。しかし、オージの動きに反応して石像は攻撃をいなす。地面に着地して、攻撃を続けるオージ。ワカも応戦するが繰り出す攻撃は、ことごとく石像に防御されてしまう。硬質な感触が拳に伝わり、2人の表情からは先ほどまでの余裕が奪われていた。 

「動きが読まれてる!」

 石像は両腕を上手く使い、2人の攻撃にあわせる。石像は体を小さくすることにより俊敏性と防御力を手に入れ、なおかつ2人の動きを学習していた。少しずつ石像を削る2人だが、決め手にかける。

 次第にオージの動きが鈍くなりだす。石像はその隙を見逃さなかった。 

「うわっ!!」

 石像はオージの足を掴み、投げ飛ばす。鈍い衝撃音が広間に響きわたり、オージの体は壁にめりこむ。石像を睨みつけながらも、全身を襲う痛みで息を詰まらせるオージ。体を壁から引き剥がすが、そのまま地面に落ちてしまう。

「オージ!!っな!!」

 一瞬オージに気を取られるワカ。石像の無慈悲な拳がワカを襲う。何とか身をかわすが、冷や汗がワカの背筋を伝う。地面に這いつくばるオージはその様子を見守るしかなかった。体勢を整え、再度構えるワカ。拳を握り込み、力をぐっと溜め込む。

王家の剛拳ロイヤル・スラッグ!

 石像の腹をめがけて放ったワカの渾身の一撃は、石像が構えた両腕もろとも体を貫き、石像を粉々に砕いた。

 が、一息つく間もなく、石像は再び体を組み替え立ち上がる。先ほどよりもさらに体を小さくし2人と同じくらいの大きさになった石像だったが、むしろ威圧感は増していた。自らの残骸の上からワカを見据える姿は、ワカに恐怖感を覚えさせた。

「くっ!どうすれば……」

  ワカは一旦、石像と距離をとると、オージのもとに駆け寄り手をさしのべた。オージはその手を受け取り、何とか立ち上がる。

「このまま闇雲に向かっても仕方がないね。」

 息も絶え絶えになり、このままでは時間の問題だと悟るワカ。 

「スピードもどんどん速くなってるな」

 節々の痛みで体を抑えながら立つオージだが、何故か不敵な笑みを浮かべている。

「また形も変わっている。おそらくだが一度見られた技や動きは門番には通用しないぞ」

 ワカは冷静に戦況を分析し、状況を打破する糸口を見つけようと頭をフル回転させる。石像は形を変えるごとに戦闘スタイルを変え、2人を攻略していた。ただ破壊しても、石像の体は再生し、さらに手強くなる。ワカの焦りが顔に出始める。

 ふと、オージはワカの肩に手を置いた。

「あぁそうだな。でも……」

 声に反応してワカが振り向くと、彼の心がフッと軽くなる。そこにはボロボロになりながらも、目に闘志を宿したオージの姿があった。その闘志は広間に新たな火を灯すかのように燃え上がる。

「見えたぜ。この試練の攻略法がな」


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