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第12話 乗り越えろ試練 旅の始まり

 石像は門の前に佇み、こちらの様子を伺っているようだった。こちらが動かない限りは攻撃を仕掛けてくる気配がない。門を護る門番としての役割をひたすらに全うしているのだ。

 オージはワカに説明し終えると、肩を回し、腕を鳴らした。闘志の宿った眼は石像を捉えている。

 ワカもオージの作戦に深く頷くと、石像に標準を合わせた。2人の視線が重なる。広間に流れる一瞬の静寂が緊張感を漂わせる。

雷衣ライトニング

 雷がオージの体を包み、稲妻のような光が広間を照らした。彼の動きが一瞬で加速し、まるで雷そのものとなって石像に迫る。突き出した拳が石像に伸びる。だが、石像には当たらない。それでもめげずに、オージは次の攻撃を繰り出す。石像は軽い身のこなしで、オージの攻撃をヒラリヒラリと躱す。

「くっ!また速くなったか!」

 反撃の隙をみせないよう攻撃の手を緩めないオージであったが、その拳は石像には届かない。オージに疲れが見え始めたその瞬間、石像はオージの手を弾いた。一瞬狼狽えるオージ。石像はその隙を見逃さず、すぐさまオージの背後を取った。そして両の手を合わせて拳を握り込むと、オージの頭上をめがけて振りかざした。オージは背後の気配を察知し、身を屈め、手を両側に広げた。

放雷パラヴォルト!」

 オージが唱えた瞬間、全身に纏った雷が激しい雷鳴とともに、四方に飛び散った。それと同時に動き出すワカ。飛び散った雷が石像を麻痺させ、動きを止めている。

「後は任せたぜ」

 オージは、まだ動けない石像から距離を取り、ワカにその場を託した。 

「うぉおおぉ」

 両手を脇に構え、唸り声をあげながら、ワカが石像に襲いかかる。そして、全身に力を込め、拳を突き出した。

王家の乱撃ロイヤル・バラージ!」

 一撃目が石像の胸に命中すると、鈍い衝撃音が広間を揺らし、表面に無数のひびが入る。だが、ワカは止まらない。二撃目、三撃目と、拳が連続で叩き込まれ、そのたびに岩の破片が飛び散り、まるで砕けた星屑のように光を反射した。 

 次から次に繰り出されるワカの拳は、残像で幾重にも重なっているかのように見えた。響く破壊音が戦場の鼓動となり、ワカの力強い一撃ごとに石像の体が揺らぐ。  

 爆発のような衝撃波が広間を駆け抜け、石像は無数の細かな破片となって宙に舞った。

 しかし、石像の破片はまたしてもひとつに集まりだす。 

「今だ!オージ!」

 ワカが叫び、オージは破片の中心に狙いを定めた。オージの瞳に石像の核が映る。

イカヅチ!」

 オージが突き立てた指先から雷撃が放たれる。轟く迅雷とともに眩い光が炸裂し、核を貫いた。


――数分前――

「攻略法?」

 ワカがオージの言葉に反応し、彼の目を見つめた。

 オージは肩で息をしながら答える。

「あぁ、あいつ体を再生させるとき魔力が集中してる核みたいなのがあんだよ。」

 オージは壁に打ち付けられボロボロになりながらも、しっかりと石像を観察していたのだ。 

「それが弱点か……」

 ワカは顎に手を当てて、オージの分析を熱心に聞き入った。そのままオージが話を続ける。

「多分あれで石像が動いてんだよ。普段は石に覆われてて魔力が感じづらいけど、再生するときはその核を中心に再生してる」

「さすが魔法使いだね」

 ワカは頷きながら感心するようにいった。   

「だからあいつをもう一度粉々にできればイカヅチで……」

 目を細め、無意識に顔をしかめるオージにワカが提案する。

「それじゃあ私が破壊しよう」

 オージはワカの言葉を一旦は飲み込み、無言で考えを巡らせた後、口を開いた。 

「いや、いきなりはダメだ。これが失敗しちまったら、また学習されて、次こそ打つ手無しだぜ。まずは俺が足止めする。それから確実に破壊してくれ」 

「それで勝てるか?」

 言葉にやや不安が混じるワカ。

「やるしかねぇ」

 オージは自分の作戦に100%の自信があったわけではなかったが、それでもこの場を乗り切るしかないと強い意志を持って、揺るがぬ声で言い放った。 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 粉々になった石像はついに再生することはなかった。オージの読み通り、核の破壊が石像の弱点だったのだ。

「素晴らしい作戦だったね!」

 ワカはオージを賞賛し、笑顔を見せた。

「試練だからよかったんだ。実戦なら観察する時間も作戦を伝える時間も与えられてねぇ」

 オージは石像を破壊できたことに安堵しつつも、意外にも冷静に自己を省みる。村が襲撃された時のことが頭によぎり、こんなところでは足踏みしてはいけないとオージの気を引き締めさせた。

ゴゴゴゴゴゴ

 突然、地面が揺れ始め、重厚な音が広間には響き渡る。 

「なんだ!?また試練か!?」

 オージが身構え、緊張が再び彼を包んだ。彼の手が無意識に拳を握り、警戒心が全身を走る。 

「どうやら試練はクリアだね」

 2人が振り返った先には、ゆっくりと音を立てながら開く門があった。門の隙間からは吸い込まれるような眩い光が漏れ出し、新たな旅を予感させた。

「試練を突破したんだな……」

 オージは感嘆の声を漏らした。

 2人の頬が思わず緩む。これまでの不安や疲れを吹き飛ばすほど2人の気分は高揚し、期待で胸の奥がざわついた。心地の良い沈黙が2人の間を抜けた。少し間が空いてワカがオージに言葉を向けた。

「なぁオージ、君は君の道を進めよ」

 ワカは静かに目を合わせた。それはこれからはじまる旅とオージの夢に対するエールでもあった。 

「あぁ、分かってる」

 オージは多くは語らなかったが、噛みしめるように頷いた。それだけで彼の覚悟は、ひしひしと伝わってきた。 

「改めて、これからよろしく頼む」

 ワカが手を差し出す。その瞳にはオージへの信頼が垣間見える。 

「お前に改められるとなんか気持ちわりぃな……」

 オージは、照れくさそうに笑いながらも、ワカの手を強く握り返した。 

「これは俺が王様になるための旅でもあるんだ。お互い様だぜ」

 ワカもオージの言葉に優しい笑顔で頷く。

 それから2人は門の前まで歩き、立ち止まり、背筋を正した。門の向こうから吹いてくる風が2人の衣を揺らす。

 その背中には不安も期待も全てを飲み込んだ「覚悟」が宿っていた。 

「よし、行こう」

 静かに、そして確かに歩き出し門をくぐる2人。静寂の中に響く足音と胸の鼓動が2人の旅の始まりを告げた。


――――――――――――――――――――――――――――――――

 そこは見渡す限り果てしなく続く密林。その深緑の海は地平線の彼方まで途切れることなく続いている。太古の息吹を感じさせる巨大樹、空まで続くようなねじれた幹を持つ樹木、そして鋭い棘を持つ低木が混在し、まるで自然そのものが生きて脈動しているかのようだ。葉擦れの音が絶え間なく響き合い、時折、何処からか猛々しい遠吠えのようなものが密林に響き、空気を震わせる。


 そんな密林の奥、木々の陰でかすかに蠢く怪しい2つの影 。

「さてと仕事をはじめましょう」

 闇の奥で蠢く影が低く呟いた。声は密林に溶け込み、気配を察知させない。 

「早く帰りたいわ〜」

 もう一つの声は気怠そうに発せられる。まだ見ぬ密林には不穏な空気が漂っていた。

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