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14箇所目 観光ガイドの衛宗さん

 この日から、僕の進路は決まった。


 "観光ガイドの衛宗さん"として働くことになったんだ。


 社会性皆無では一緒に居たくないと言われたから、観光ガイドの見習いとして薩日内さんにくっつくことにした。


 僕から提案したんじゃないよ? 薩日内さんが言ってくれたんだ。ちょっと嫌そうな顔で、なんだかんだ面倒を見てくれる。年の功ってやつかな。そんなレベルの歳の取り方じゃないけど。


 狸の川内さんもいい人だし、提灯小僧もいろいろ教えてくれる。カワウソは僕の肩に乗って、僕が薩日内さんに悪さしないか監視してくるんだ。


『おめえ、また薩日内の乳見てるだろ』

「見てるよ。だって見たいんだもん」

『がぶ』

「痛ッ!」


 こんな感じで耳を噛んでくる。いつか噛みちぎられそうでおっかないよ。

 別に下心じゃないもん。薩日内さんだから見ていたいっていうか、薩日内さんっていう人が好きなんだ。


 たまたま女性で、たまたま僕好みにおっぱいが大きかっただけ。


 薩日内さんに魅せられてか、観光ガイドの仕事はとっても楽しい。


 知らないことが多いし、面白い街なんだなって思える。いろんな出会いがあって、変化も進化もある。そして時々、災害にも見舞われる。けれどそのすべてが尊く感じるんだ。


 政宗公が愛した街を任された薩日内さんの隣にいられるのは感慨深いよ。


「衛宗さん、体調は?」

「平気ですよ。薩日内さんのおかげで」

「……そうじゃなくて。病院には行ってくださいね。呪いは完全ではないと思って」

「病院って会計まで長いから面倒くさいんですよね」


 薩日内さんは不老不死の呪いを半分分けてくれた。おかげで体調は良い。けれど、薩日内さんはしつこく検診には行けって言うんだ。

 何かあったら困るからってさ。


 すっかり呪いを渡さなければ、薩日内さんは生き続ける。僕も本当に不老不死になるかはわからない。けど、薩日内さんが疲れたと言う日までは一緒に居たいかな。


 宣言通り、オカルト掲示板に薩日内さんの噂をぼかして書いて、呪われたい人も募った。冷やかしは多いけど、なかなか現れない。


 僕はまだまだやりたいことがあるから、今来られても困るんだけどさ。一応ね。口だけだと思われたくないし。


 それから僕は弓道に励んだ。薩日内さんからセンスがあるって言われちゃったし、家族からも一つくらい芸を持ちなさいって薦められた。


 自分で言うのもなんだけど、これが上手くてさぁ。カワウソに的になってもらって、動く物にも当てられるように練習中。

 いつ何があるかわからないし、ファンタジー的にも弓矢は映える。


 伊達家の子孫なら、もっと真面目にしろって思われるかもだけど。

 これはこれで、意外と受け入れられてるんだよね。


 生きたがりが生きる理由を明確に見つけたら最強なんだ。


 僕はこの街で、観光ガイドとして生きていくことにした。それがご先祖様への最大の敬意で、一族の1人として、薩日内さんへの償いだと思うから。


 そして、鍛錬と経験を積み始めて数年後――


 仙台駅の観光案内所に、とある男性が訪ねて来た。観光案内でもない、ガイド希望でもない。


 僕と薩日内さんも頭の片隅にはあるけれど、忘れかけていたソレ。


「オレを、呪ってくれませんか」


 茶色と黒のオッドアイは忘れられない。今までに来たオカルトマニアにはない、深刻さを纏った人だ。


 その人は伊東秀喜といとうしゅうき名乗った。


 23歳。僕より1歳年上、スーツが似合うまあまあイケメンだ。


 彼は誰でも知るとある企業の御曹司。そんな人が呪ってくださいなんて、富裕層の遊びも理解不能なところまで来たもんだ。


 そんで神霊庁っていう、神社とかお寺とか、もろもろ管理や統括してる組織の特別な組にいるんだとか。どんな組なんですかと聞いたら、「苗字だけで集まっている新撰組ですかね」と言う。


 嘘くさぁ……。詐欺の人かと疑いたくなる。御曹司で神霊庁の信仰じみた機関に所属してるなんて、絶対数珠売りに来たよ。


 僕は真っ当な伊達家の子孫。ごっこ遊びしている大人とは違う。世の中にはおかしな大人がたくさんいるじゃん。ちょっとホッとした。


「完全な冷やかし……って感じではなさそうですが。何故呪ってほしいのでしょう」


 薩日内さんが表情を崩さず、問いただす。誰にでも最初はこの姿勢。大抵の人はこの後、掲示板を見たので本当か知りたかったとヘラヘラするんだ。


 けれどこの人は掲示板とは口にも出さず、淡々と話し始める。


「あなたと同じく、不死の呪いにかけられた女性がいましてね。呪解は難しそうなので、オレも不死の呪いを受けて添い遂げようかと」

「え、彼女とかですか?」

「今は違いますが、ゆくゆくは」


 伊東さんはにっこり笑って答えるけど。彼女でもないのに添い遂げるってヤバい人じゃない?

 しかも聞いたら、神様に呪われてるとか。あちゃぁ、頭やられてる人だ。


「……その通りだとして、その方の同意は得られてますか?」


 薩日内さんも同じことを思ったみたいで、すかさず質問した。


「同意も何も、確かであると証明しなければ信じてもらえませんからね。一方的な想いではないのでご安心を。一緒に住んだこともありますから」

「じゃあちゅーもしたんですね!?」

「はい。してますよ」

「おっぱいは揉みました?」

「おだずな!」


 話の流れ的に聞いても大丈夫だと思ったのに! 薩日内さんたら容赦なく顔面パンチしてくるんだもん。

 どのくらいの距離感なのか知りたかっただけなのに。


『バカだなぁ』

「うるさいっ」


 カワウソが呆れてくる。

 その間に薩日内さんは、伊東さんの経歴や生活環境、人間関係など細かく聞き取りをした。


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