また今日も夢の中で私の意識が覚醒する。
「ルーク!」
覚醒した私は勢いよくどこかの扉をルークの名前を呼びながら開けている最中だった。
「…っ!」
とんでもないタイミングでの覚醒に私自身驚いてしまう。
私の目の前に広がっているのはこの国1番の情報量を誇る、私の宮殿の中にある図書館だ。
この図書館には王族のみが知る秘密の情報もある為、王族のみが利用を許されているのだが、例外も何人かいる。
その1人が今、図書館の中で本を読んでいたルークだった。
「エマ?どうしたの?」
「…、あ、えっと」
ルークの名前を呼ぶだけ呼んで一向に図書館に入ろうとしない私を不思議そうにルークが見つめる。
だが、私自身、今自分の身に何が起こっているのかわからないので上手く対応ができない。
私は今何をしにここへ来たのだろうか。
「もしかしてもう宝石の準備ができたの?」
「!そうよ」
どう答えるべきか困っているとそんな私にキラキラとした期待の眼差しをルークが向けてきたので私は咄嗟にそれに答えた。
そのまま私は後ろに控えているメイドをルークの死角になる場所へ呼ぶ。
「…宝石の準備は?」
そしてルークにバレないように小さな声でメイドに〝宝石の準備〟について確認した。
「もちろん整っております。エマ様のお部屋に申しつけられた通りに特別な宝石の数々をセット済みです」
「そう」
すると簡潔に私の欲しい答えがメイドから返って来た為、私は今の状況を何となく理解した。
話の流れは全くわからないが、知識大好きなルークの為にどうやら私は貴族や王族のみが扱える宝石をその辺の者に準備させていたようだ。
そしてそれをルークに見せると約束していたみたいだ。
「エマ、ありがとう!でももう少しこの本を読みたいんだ。少し待ってもらえるかな?」
ルークが首を傾げて伺うようにその大きな瞳で私を見る。
ああ、ルークは本当に愛らしい。
まるで小動物のようでずっと見ていられる。
「もちろん構わないわ」
私はルークの愛らしい姿に心穏やかになりながらも笑顔でルークの願いを許した。
メイドを図書館の外へ待機させ、私も図書館の中へ入る。
ルークは一度本を読み出すとなかなか読み終わらない。
なので私はルークを待つ間、暇を潰す為の本を選び、ルークの元へ向かった。
「…」
難しそうな本を夢中になって読むルークの目の前の椅子に私は座る。
私が座った椅子とルークが座っている椅子の間には机がある。
普段なら絶対に距離の近いルークの隣の椅子に座るのだが、この席の方がルークの顔をじっくり見ながら本も楽しめるので私はこっちの椅子を選んだ。
本を読むふりをしてルークを盗み見る。
可愛らしい顔が新しい知識を得て、歓喜に染まっているのがわかる。大きな垂れ目はずっとキラキラ輝いており、美しい。
見ていて飽きない姿だった。
「…」
バレないように邪魔にならないようにルーク鑑賞を楽しんでいた私だったが私の視線に気がついたようでルークはその愛らしい顔に不満の色を浮かべた。
「?」
何故、そのような顔をしているのだろうか?ルークならこのくらいの視線で気が散るとは思えないが。
不思議に思ってルークを見つめ続けていると、ルークは読んでいた本を閉じて私の元へやって来た。
「何でそこに座るの?側にいてよ」
甘えるような声を出して私の隣にルークが座る。
「こっち来て?一緒に座ろ?」
そして上目遣いで私を見つめながら手招きをされた。
「ふふ、可愛らしいわね、ルーク」
「一緒にいたいんだもん。エマもでしょ?」
「もちろんよ」
あまりにも可愛いらしいルークの姿にまた満たされる。
ルークはそんな私を見ていつものように愛らしい笑顔を浮かべた。
それから私はルークの足の間に移動し、そこへ腰を下ろした。
ルークはそんな私を後ろから抱きしめるように手を前に伸ばし、そこに自身が読んでいた本を置く。
私の目の前にはルークが読んでいる本、後ろにはルークで先程とは全く違う状況になる。
今の私は読書をするルークの抱き枕状態だ。
正直ルークに抱き締められているだけで先程よりもつまらない状況だが、ルークの可愛らしさに免じてこの状況を許すことにした。
*****
約1時間後、私はやっと読書を終えたルークから解放されていた。
「さあ、ルーク。これが私が用意させた宝石たちよ」
そして私とルークは約束通り私の部屋へ行き、私は机の上に置いてある宝石たちをルークに見せていた。
それをルークは興味深そうに見つめる。
「触ってもいい?」
「もちろんよ」
嬉しそうに目を輝かせて私を見つめるルークに私は優しく微笑みそれを許可する。
何て愛らしい姿なのだろう。この姿を見たくて私はこの宝石たちを用意させたのだ。
「本物の宝石を見たのは初めてかしら?」
「いや。でもこんなにも純度の高い宝石は初めてだよ」
私の質問に楽しそうに答えながらもルークは宝石から目を離さない。
「宝石には魔術を込められるわ。純度が高ければ高いほど強い魔術をね」
「…それがレオのピアスだね」
「そうよ」
未だに宝石に夢中なルークに私は宝石の説明をする。するとルークは意外な所へ目を付けた。
「ルビーを選んだ理由は?」
可愛らしい笑顔なはずなのにどこか怖い雰囲気でルークが私に聞く。
「?レオの瞳の真紅と同じ色だからよ」
何故そのようなことを聞くのか意味がわからなかった私は不思議そうにルークを見つめながらそう答えた。
「…エマからの贈り物だなんてずるいな。僕に選ぶならどの宝石を選んでくれる?」
ルークが拗ねたように私を見つめる。
そして私の腰を抱き寄せて耳元でそう囁いた。
なるほど。そうやって嫉妬しているフリをして私を嫉妬する程愛していると伝えているのね。
やるわね、ルーク。嘘でも嬉しいわ。
「そうね。私はアナタのその大きな桃色の瞳が好きよ。だからピンクダイヤモンドを選ぶわ」
拗ねているルークの頬に触れ、私は妖艶に微笑む。
するとルークは嫌な顔をする所が嬉しそうにそれを受け入れて笑った。
「そっか。僕もエマからの贈り物が欲しいな」
「ふふ。私が宝石を贈るときは魔術付きよ?私から離れられないようにするわ」
「嬉しいな。そうして欲しい」
恋焦がれるように私の瞳を見つめるルークに私は意地悪を言ってみたが、ルークはそれでも嬉しそうに笑ったまま。
まあ、そう言うしかないのだろう。
「僕をエマから離れられないようにして?そうしたらエマはずっと僕の側にいるしかないでしょ?」
未だにルークの頬にある私の手にルークが愛おしそうに擦り寄る。
何と愛おしい姿なのだろうか。
「わかったわ。アナタにピンクダイヤモンドの指輪をプレゼントしましょう」
「本当?」
「ええ」
「約束だよ?エマ」
私はルークのことを愛おしく思いながらルークに微笑んだ。するとルークは念を押すように私にそう言って愛らしく笑った。
指輪などなくてもルークは私に囚われるしかないと言うのに。
ルークは私に囚われている以上こうするしかないのだろう。