リリーに頼んで、こっそりとソフォーラに手紙を渡してもらった翌日。私はおばあ様の庭園にあるガゼボで、ソフィーを待っていた。
両親は私がソフィーに会うことも嫌がるから、準備してあるのはピクニックバスケットに入ったスコーンと、高温石で作られた水筒入りの紅茶だけ。お茶会の準備なんてしたらきっと、どうやっても母の耳には入ってしまうだろうし──そうなれば、母はいつも私だけを叱りつけたから。
「ソフィーが私と会ったところで、問題ないと思うのになぁ。あれだけ強い魔力を持ってるソフィーが今さら魔力を失うことなんてないでしょうに。お母様たちは私たちのことを、呪いを受けた人間だと思ってるから……」
私は夜、寝る直前に色々と考えるクセがある。
時間が巻き戻されてからここ一か月ほどは特に顕著で、布団に入ってから意識が途切れるまで、ぐるぐるといろんな疑問が浮かんでいった。
その時間のおかげで、私が神から賜わった恩寵には決まりがあることが分かってる。
私が理解できるのは、植物を使って癒やせるモノについてだけ。切断された足を繋げることはできないし、私が治せない不調も存在するということだった。
そしてそれとは別に、私たちがこれまで呪いだと言っていたものは、病というものだということも知った。これまで体に不調が出るのは、すべて呪いのせいだと教えられていたけれど、どうもそうじゃないらしい。
汚れれば見栄えが悪いから洗う、おいしそうなニオイじゃないものは口にしない、とは言われてるけど、これはある意味で間違ってはなさそうだった。
呪われた場所に遊びに行ったから、呪われた物を食べたから体に不調が出た、なんてことはなく、全部に原因がある。
「私たち、きっと魔法があるから無知でいられたのね。呪文を唱えれば簡単に不調を治すことができるから、原因を探ろうともしてこなかった。探ろうとする考えすら持たないのが普通だから、魔力を持たずに生まれた人たちも、そうやって……原因も分からないまま、死んでいくばかり」
だけどこれからは、その認識を変えられるかもしれない。植物の持つ不思議な力をソフィーに伝えて、魔力を持たない者じゃなかったとしても、治癒師や神殿を頼れないほど貧しい人たちを中心に広めていくことができれば──
「ティアナお姉さま、お待たせしました!」
「っ、ソフィー!」
耳に飛び込んできたソフィーの声に、立ち上がって出迎える。
リボンがたくさんついたクリーム色のドレスを翻して駆け寄る妹の姿は、ため息が出るほど可愛かった。
そう、私とソフィーの仲は悪くない。むしろ私はソフィーを可愛がりたいし、ソフィーも私を慕ってくれている。
ただ両親の意向で、あまり会わせてもらえないだけだ。
飛び込むように抱きついてきたソフォーラを受け止め、久し振りに正面から顔を見る。
「ごめんねソフィー、急に呼び出したりして。お母様たちに見つからなかった?」
「大丈夫よティアナお姉さま! 刺繍のモチーフを探すから庭園に行くって伝えたもの。本宅の庭園とは言っていないんだから、嘘をついてもいないわ!」
「そう。ソフォーラは賢いのね」
「そんなことより、私こそお姉さまに謝りたかったの。先日神殿に行く直前、お姉さまの体調がお悪いと聞いていたのに、お見舞いにも行けなくて……。具合は? もう大丈夫?」
「ええ! 不調どころか、元気すぎて困ってるくらいよ!」
「本当!? よかった!」
擦り寄ってくるソフィーの可愛さに、思わず頬が緩む。
私がおばあ様に預けられるまで、いつも一緒に遊んでいたソフォーラ。この子が尋常でない治癒魔法の使い手だと知ったとき、そして女神の再臨だと言われていると知ったとき、どんなに私が誇らしかったか。
前の人生、賤民として追放された私から送った手紙は届かなかったかもしれないけど、あの日泣きながら私を見つめていたソフィーは、きっと私の境遇を哀れんでいたはずだ。
「あのねソフィー。お茶をしながら聞いて欲しいことがあるの」