「っう、ひぐ、ひぐ……、い、いってぐるからね、みんな……。
おねえちゃんのこと、っうう、わ゛す゛れ゛な゛い゛でね゛ぇ゛……!!」
当日、私は愛犬達との別れに一生分の涙を流していた。
『みんな、私と一緒に獣人さん達の国に行こうね~!』
『いや、その子達は嫁ぎ先に連れていけないだろう……』
『え?』
『え?』
そんなやり取りに、限りなくショックを受けて幾ばくか。
ついに訪れた別れの瞬間に涙するしかない。
「なんて泣き顔をしているんだお前は……」
「だ、だって、だっでえ゛え゛え゛……。お、お願いじまず、一人だけでも……一人だけでもお」
「生まれた時から四人一緒に居るのに何人かだけ引き離すのは可哀想、と言ったのを忘れたのかしら?」
「ゔああ゛あ゛ああん!!」
恥も外聞もない号泣である。
婚約破棄された時は泣きもしなかったくせにこの状態。貴族令嬢としてどうなのかと一応思う。
「クゥーン……」
「あ゛っ……」
優しい声と感触にハッとして下を見た。
心配そうな表情で鼻を擦りつけてくるのはララ。うるうると可愛らしいお目々が私を見上げていて、心を激しく揺さぶられる。
その周りではジョンとベニーが焦りながらぐるぐる回っており、ヘンリエッタもおすわりをしつつ、悲しげな目で私を見つめて鳴いていた。
愛犬達も、私の悲しみを分かってくれているのだ。
それを見たら更に涙が溢れてきて、私はぐすぐす泣きながら4人を抱き締めた。
「みんなに手紙書くからね……っ」
「この子達に字は読めないぞ」
「わだじ、向こうで動物語を学んでぐるから……。おやつも毎日送る゛ぅ゛……ッ」
「毎日……」
みんな一斉に私の顔や腕を舐めてくれて、ああ離れたくないなぁって心底思ったけれど、もう行かなくてはいけない時間だ。
向こうから送られてきた使者の人も大変困った顔をしていたし、両親に「いい加減行ってきなさい」と言われたので、溢れる涙も止めずにゆっくりと立ち上がった。
「い、いって……ぎまず……」
「はい、行ってらっしゃい。身体には気をつけて。
何かあったらすぐ連絡するのよ」
「この子達にも何かあったらすぐ連絡してくだじゃい゛!!!! お願いしま゛ず!!!!」
「分かった、分かったから」
もう最後は皆に無理矢理背中を押されながら出ていきました。
遠ざかる家を馬車越しに眺める。
愛犬達はワンワンと吠えながら私を見送ってくれ、その声と姿にまた寂しさが押し寄せてきた。ああ、私の天使たちが、どんどんとおくなる……。
あんなにジュード帝国に行くことを楽しみにしていたのに。まぁ愛犬全員を連れていけると思ってたのもあるんだけど、こんな悲しいお別れなんて……!!
週1で帰ってくるからね、みんな!!
「それはさすがに無理があるかと……」
使者さんからツッコミをいただいてしまったわ。
*
いつまで経ってもおんおん泣き続けていた私でしたが。
着いた先を見て驚愕した。
ここが楽園か。
「うわぁあ……!!」
感激の声が上がる。口元に両手を当て、はわはわと震える身体を押さえることができない。
「いかがですか、我が国の出迎えパレードは」
私の前に座っている使者の方、ジャックさんが微笑みながら言った。
それに鼻息荒くしながら答える。
「はいっ!! とっても皆さん素敵なお顔やお耳をされていて……私、本当に嬉しいです!!」
答えた後に、「パレードの感想を聞かれたんだった」と我に返ってしまった。
いえ、だって、仕方がないじゃないですか。
だって。
見る人見る人みんな、動物。
普通の4足の動物ちゃんも居れば、頭が動物で身体が人間っぽくなっている人もたくさん。あまり人間の頭は見かけなかった。
興奮しすぎて倒れるかと思ったわ、私。
「え、ええ、こんな豪華なお出迎えをしていただけるなんて思わなかったので、とっても嬉しいです……」
おほほ、と取り繕うかのようにわざとらしく笑いを漏らす。
とことん淑女らしい振る舞いが出来ない自分だと再認識いたしました。
今もほら。
「きゃあ~……!! みんなかわいい……!!」
犬やら猫やら鳥やら、そういった動物のお顔がみんな笑顔だったりしたから、私も嬉しくなって手当り次第に手を振ってしまった。
やばい令嬢が来たと思われたらどうしましょう。
「…………」
「……? ジャックさん、どうかしましたか?」
「いえ……」
何だろう、その顔は。
何故そんなに複雑そうなお顔をされているのかがよく分からなくて、思わず首を傾げてしまう。
「……あっ?! も、もしかして、パレード中は皆さんに手を振ってはいけない決まりだったりするのですか?!」
「え?」
「それとも顔すら見せてはならないとか……!」
「いやいや! そんなことはないですけど?!」
私の言葉にジャックさんは慌てた様子で答えた。それを見ていると、どうやら嘘でもないっぽかったので、ひとまず安堵の息をつく。
「……これは、なかなか」
そんなことをしていたからか、ジャックさんからぽつりと零されたそんな台詞に、私が気が付くことはなかった。