「ダミアン、お前を廃嫡とする」
玉座に座る王が静かにそう告げた。
それを聞いたダミアンの顔が真っ青になり、慌てて叫ぶ。
「な……何故ですか父上っ?! どうして私が……!!」
「黙れ!! この愚か者が!!」
父王に鋭い声で怒鳴られ、より一層その表情を呆然とさせるダミアン。
横でそれを聞いているシンディーも苦い顔になる。
「かのジュード帝国の皇弟殿下から直々に、貴様らの愚行を教えられたのだぞ!! なんと恐ろしいことをしてくれたのだ!!」
「わ、私は何もしていません! あれは全部シンディーが……!!」
「そのシンディーの愚行を止められなかったのは貴様の責任であろう!!」
「そんな……ッ、私は止めようとして……」
必死に言い訳をするダミアンだが、生憎とその思いは王に届かない。
それにしても、こんなにも怒りを顕にされたのは初めてかもしれない、とダミアンは背筋が寒くなった。
「……かわいい息子だからと甘やかしてきたのが間違いだった」
王は自らの頭に手を当て、苦しげに思い詰めた表情をする。
「王族としての能力のなさに加え、国庫の無駄遣いもしていたそうだな? 報告が上がっているぞ。大方、何も考えずそこの女に貢ぎまくっていたのだろう」
「そ、それは……っ!」
「ダミアンよ、お前は平民となり、金や物の大切さを知るといい」
平民、の一言を聞いたダミアンの身体から力が抜け、その場に膝を落とした。「そんな、私は、私がなぜ、」とうわ言のように繰り返している。
そんな彼を嫌そうな目で見つめていたシンディーに王が言葉を紡ぐ。
「そして……シンディー。そなたは牢獄行きだ」
「はっ?」
目を見開くシンディー。自分には火の粉が降り掛からないと、何故か何の根拠もなく、完全にそう思っていた顔だ。
そんな彼女にも王はまた重苦しい表情で言う。
「そなたのやったことは、友好国であるジュード帝国への宣戦布告と取られても仕方のない行為なのだ……! 国交問題に関わるような行動を取ったそなたを、王として見過ごすわけにはいかない」
「はぁ?! わ、私がいつそんなことをやったっていうのよ?! 意味分かんないっ」
「皇弟妃であるエリン嬢に襲いかかり、ドレスを破ろうとしたのだろう?!」
「は……」
王の叫びにシンディーは一瞬言葉を無くした。
それは、した。確かに。美しい姿をしたエリンが憎くて憎くて、あいつの服を剥ぎ取ってやろうとしたことは、事実だ。
だが、それだけで宣戦布告になる? 牢獄行き? 冗談じゃない!!
そうシンディーは考え、抗議の声を上げようとした。
「王様!! 王様は何か誤解してらっしゃいます、私の話をどうか聞いて……!」
が、その瞬間両脇を兵達に抱えられる。突然のことに悲鳴を上げるシンディー。
「ちょっ?! な、何すんのよ?! 離しなさいよ、この無礼者共!!」
「大人しくしてください。あなたを速やかに牢へと入れるよう、王から仰せつかっております」
「そんなっ?! ……だ、ダミアン様!! ダミアン様?! お助けください、あなたのシンディーが牢屋に入れられてしまいますよ?!」
必死になりながらダミアンを呼ぶ。
だが、ダミアンはどこか冷めきった、沈んだ表情のままシンディーに告げた。
「……『あんたなんてもう要らないわ』」
「はっ?」
「『第三王子なんて微妙な立ち位置の男、私には見合わない』……君は私にそう言ったね? ああそうだ、あれは酷い衝撃だった……」
「あ、あ、あれは……」
「……君のような女に騙された私が馬鹿だったんだ。あの時、あの美しいエリンと一緒になっていれば……」
ぶつぶつとそう呟くダミアンに対し、シンディーは怒りのままに「……は、はぁあッ?!」と叫んだ。
「この私よりもエリンを選んでおけばよかったって言いたいの?! ふざけないでよ!! 私を選んだのは紛れもないアンタでしょう?!」
「…………」
「っちょっと!! 離しなさいよ、離して!! 私が牢獄行きだなんて嘘よね?! このっ……、離せぇぇーーーーッ!!」
一心不乱に叫びながら暴れるシンディーの姿が消えていく。
それを、どのような感情で見つめているのだろうか、そんな目をしたダミアンもまた、兵に連れられ王宮を後にするのであった。
二人とも、もうここへ戻ってくることはないだろう。
玉座の間には静寂が訪れ、王がふぅ……、と深いため息を漏らす。
「儂があの時、あやつらの婚約を許さなければ……」
後悔の念が、王を果てしなく襲い続けていた。