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第4話 ご兄弟とご対面




エドガーと特に何か話す訳でもなくやってきたのは家の中にある食堂だ。

そこにはすでに他の兄弟たちも来ており、私たちが着いた時には席に座って私たちを待っている状態だった。




「咲良、おはよう。昨日はよく眠れたか?」




まず私にそう声をかけてきたのは長兄、ヘンリーだ。

相変わらず何を考えているわからない笑顔で私を見つめるヘンリーにもうすでに思うところがあるがぐっとそれを堪える。


ほぼ小屋のような埃っぽい場所によく客人を招いたな、と言葉が出そうになるが我慢だ。




「おかげさまで。昨日はありがとう」


「それはよかった。昨日と少々顔が違うから何かあったのかと思ったよ。昨日はもう少し落ち着いた雰囲気に見えたからな」


「ふふふ、ご心配どうも。何もなかったですよー」




にっこりと笑う私に少しだけ安心したように笑うヘンリーに殺意が湧く。


顔が違うって化粧のこと言ってるよね?

化粧詐欺師で悪かったな!おい!




「それでは食事の前に自己紹介といこうか」




ヘンリーに挨拶をした後、私が席についたタイミングを見てヘンリーが兄弟たちにそう声をかける。

そしてヘンリーを含む兄弟たちの自己紹介が始まった。




「まずは俺だな。昨日も言ったがもう一度。俺の名前はヘンリー・ハワード。ハワード家の長男だ」




最初に口を開いたのはヘンリーだ。にっこりと笑っているが腹では何を考えているかわからない、何なら目までは笑っていないところが怖い。




「俺は次男のエドガー・ハワードだ。お前の不本意だが世話係にされた哀れな男だよ」




次に口を開いたのはエドガーだった。本当に嫌そうな顔で天を仰ぐ姿は美しいし絵になるが普通に腹が立つ。


こちらもこんな男では哀れである。

被害者面すんな!




「…三男のギャレット・ハワード。話しかけてくるなよな、人間」




エドガーの次に口を開いたのは暗そうな印象のあるギャレットと名乗る男だった。ギャレットはこちらをチラリと見て、すぐに視線を逸らす。


深緑色の真っ直ぐな髪と灰色の瞳。おまけに顔も綺麗で見た目は暗さを吹き飛ばす勢いで派手で明るい。


悪魔はカラフルな瞳だけではなく綺麗なことも条件なのだろうか。




「はいはーい。次僕ね!四男のクラウス・ハワードだよ!いろいろ仲良くやっていこーね!夜とか特に!」




次に口を開いたのは明るい笑顔が印象的なクラウスと名乗る男だった。

妖艶に微笑み私にウインク&投げキスをする姿にどんなに美しくても思わず鳥肌が立つ。


ふわふわの柔らかいゆるくセットされた金髪にローズピンクの瞳。すごく甘いマスクでこの顔なら女の子はみんな落とされるだろうが遊び人オーラがすごい。


近寄りたくないタイプだ。




「…五男のバッカス・ハワードだ。よろしく」




最後に口を開いたのはバッカスと名乗る男だった。必要最低限のことしか口にせずさらには無表情な彼は正直ヘンリー並みに何を考えているのかよくわからない。


赤茶色の短髪に深い紺色の瞳。その瞳にはあまり感情を感じられない。

他の兄弟と同じように整った顔立ちをしている。


ギャレット、クラウス、バッカス、共に大学生から高校生に見える見てくれで私やヘンリーより年下に見えた。


つまり私がこれから〝良好な関係を築かなければならない特級悪魔の兄弟〟とはこの5人の美形のことである。

挨拶だけでも癖しか感じないのだが。

不安しかない。




「これからこちらでお世話になります。桐堂咲良と申します。どうぞよろしくお願いします」




不安な気持ちを抑えながらも私はヘンリーとした挨拶のように機械的に笑顔で挨拶をした。




「では自己紹介も済んだことだし朝食としよう」




私の挨拶も終わりヘンリーがそう言うと何人もの使用人さんらしき人が現れてどんどんテーブルの上に一人一人のご飯が運ばれ始める。


ヘンリー、エドガー、ギャレット、クラウス、バッカスと順に少しずつ違う豪華な料理が並ぶ。


あれは兄弟一人一人の好みによって違う内容なのだろうか?


ヘンリー、クラウス、ギャレットは割と朝食っぽい軽い感じのメニューに見えるが、エドガーはまるでお子様ランチのようなラインナップのプレートだし、バッカスに至ってはそれを本当に一人で食べるのか、と疑問に思う量が置かれている。



私にはどんなメニューが来るのだろう。


少しワクワクした思いで朝食を待っているとついに私の前に朝食の皿が置かれた。




「…っ!」




こ、これは!



衝撃の朝食内容に思わず固まってしまう。


お皿の上には見たくもないほどの量の虫と何だがよくわからない野菜。

いわゆるゲテモノ料理だった。


どこの国の料理だか知らないがこれは食べられない!

虫が虫の姿のまま料理されているのはキツい!




「…咲良?食べないのか?」




ゲテモノ料理の前で固まっていると不思議そうにだがどこか楽しそうにヘンリーが私に問う。

よく見ると他の兄弟たちもどこか意地悪そうな顔をして私を見ている。


え?これまさか悪意?




「…今日はあまり体調が優れないのでご飯を食べられないんです」




食べられないわ!と強く言ってやりたかったがそう言う訳にもいかないので私は何とか誤魔化すように笑ってヘンリーに答える。


ちゃんと笑えている自信はないが。




「そうか。咲良が我が家に来ることを聞いて人間界の料理について調べ、作ってもらった料理だったのだが、残念だ。ふるさとの味が恋しいだろう?」




残念そうに笑うヘンリーを見て心の中で叫ぶ。

一体人間界のどこの地域のふるさとの味なのだ!と。間違いなく日本ではない。

どこかの部族のふるさとの味だ!




「…恋しいですね。日本料理ですが」




ここはサラリと訂正しておこう。

笑顔のヘンリーにこちらも笑顔で対応する。


2人とも笑顔だが流れる空気はあまりよくない。

間違いなくヘンリーも人間である私が嫌いなのだ。


こんな兄弟と一体どうやって良好な関係を築けというのだ。


私たちのやり取りを聞きながらエドガーは大笑いし、ギャレット、クラウスはクスクスと笑っていた。

バッカスは特に気にすることなくご飯を平らげているようだった。



昨日の夜から今朝まででわかったことが一つある。


この兄弟は癖が強すぎる上に間違いなく性格が歪んでいる!


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