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第14話 賭け事の女神様




私とエドガーは怒声集団に連れられてとある賭場にやってきた。

そこは外装も内装も無駄にギラついており、まさに欲望が形になったような場所だった。


そして今私は私を担保に渡された1億8千万と所持金20万のチップを握ってルーレットの前にいる。




「おいおいおい。お前考え直せ?本当に大丈夫なのかよ?」




私の横で終始心配そうにそう私に声をかけ続けているのはエドガーだ。

私はそんなエドガーを無視し続けて今ここにいる。




「お嬢ちゃん、ギャンブル…ルーレットの経験は?」


「多少は」


「そうかい」




エドガーとは反対側の私の隣にいる先程の怒声集団を代表して私についてきた男、名前はわからないので見た目からスキンヘッドさんと私に今命名されたスキンヘッドさんがニヤニヤ笑いながら私を見ている。




「赤か黒か。あと数字。それを当てたらいいんでしょ?」


「ああ、そうだ」




私とスキンヘッドさんの会話を聞いて「そうだけどそんな単純なもんじゃねぇー!」とエドガーが叫んでいたが引き続き無視した。




「お嬢さん。どうするか決められましたか?」




スキンヘッドさん、あと一応無視しているがエドガーと話しているとこのルーレットの卓のディーラーの人が私に丁寧に話しかけてくる。




「はい。赤の19に全額…1億8千20万ベットで」


「はぁ!?」




そして私は笑顔でディーラーにそう答えた。

隣でエドガーがありえないとまたまた叫んでいる。




「おいおいおい!やめろ!お前ギャンブルやったことねぇだろ!生き地獄確定じゃねぇか!」


「失礼な!ちゃんとやったことあるから!」


「いーや!ねぇな!死ぬぞ!」




私の手に不満しかないエドガーがずっと私の横で叫んでいるが私は終始笑顔だ。


ただでさえお騒がせエドガーの連れ、しかも人間が自分の体も賭けてギャンブルをしているだけでも注目を集めているのに、エドガーがさらに騒ぐので賭場中の注目が私たちの卓に集まる。


いや、きっと私の手の無謀さにだろうが。


スキンヘッドさんも賭場内の声を代表するように「あははは!お嬢ちゃん面白れぇ!」とバカにしたように笑っていた。


全員が無謀だと騒つく中で私だけは自分の手に自信があった。




「…本当によろしいのですね?」




ディーラーがおかしそうにだが丁寧に私にそう聞く。




「はい」




私はそんなディーラーに右手を握り締めながらも笑顔で答えた。




「それでは」




ディーラーの言葉を合図にルーレット内をボールが回る。




「くそぅ。来い、来い、来い」


「…」




私もエドガーもルーレット内のボールの動きに釘付けだ。

いや賭場中の全員が。


賭場中全員の視線を受けながらボールの速度が落ちていく。


そしてついにカランっとボールはある数字の元へと落ちた。




「…赤の19」




エドガーがポツリと信じられないと言った様子で呟く。




「…36倍、6億越え」




スキンヘッドさんもエドガーと同じようなリアクションだ。




「…っしゃあ!咲良!やったじゃねぇか!」




少し間を開けて状況をやっと飲み込んだエドガーが嬉しそうにそう叫び私に抱きついてきた。




「…しゃあ」




私は安堵の息を漏らして小さくガッツポーズをした。


よかった。本当によかった。

ずっとここまで自信があると言っていたがそれは自分自身を奮い立たせるために言っていた言葉に過ぎなかった。


本当は半々くらいの自信しかなかった。


逆に何故半分は自信があったのか。

それは短大の卒業旅行で行った海外でのカジノの経験があったからだ。


私はそこで少ない金額からスタートさせ全てのゲームに勝ち、とんでもない額を手にしたことがあった。

何故かあの時の私は一度も負けなかった。

だからその強運を信じた。


ここで負けてしまえば私の生き地獄は確定だったので負けたことがないとはいえ尋常じゃないプレッシャーはあった。


だがそれももうおしまいだ。

金ならある。




「エドガー!この調子で残り4億勝つよ!」


「おう!勝利の女神様咲良様ならいけるぜ!」




そしてこの後もルーレットで1億をベットして勝ち、私は無事エドガーの負け額を返すことに成功したのであった。





*****





あの後、負け額を返済し終えた私とエドガーはそれでもギャンブルを辞めなかった。

…いや主にエドガーがだけど。


返済しても余りまくった金をエドガーがギャンブルに使い、勝ったり、負けたりする。

そして途中で底をつきそうになったら私がその小さな額でギャンブルをする。


もちろん私は勝つのでそれで永遠に終わらないギャンブルをしていた。


最初こそ「イカサマか?」とか「一発屋」とかいろいろな主に疑いの目で周りから見られていた私たちだったが、最終的には特に私は「勝利の女神」と呼ばれ賭場内で崇められる存在になっていた。




「あー!くっそ楽しかったなー!こんなに楽しい夜は久しぶりだったぜ!」




私の横でエドガーが満足げにそう言って笑う。


ただいま朝の5時。空の色は太陽が昇らずいつまでも変わらないが、それでも街の様子から早朝の気配を感じる。

私とエドガーは賭場から出て、帰路についていた。


まあ、いろいろあって大変だったが、私もすごく楽しかった。


ここへ来てずっと働くか学院へ行くか家のことをしていた私にとって初めての娯楽だった。

初めてが賭場ってどうなの、とも思うけどさ。




「それにしても女神様は本当すげぇよな!よく負けねぇな!」


「女神様って。エドガーまでやめてよ」




興奮気味で私に話しかけるエドガーに私は苦笑いを浮かべる。

女神なんて呼ばれると正直むず痒い。

性に合わなすぎている。


破壊神とかの方がいい。


そのことをエドガーに伝えるとエドガーは「あはははっ!それも間違ってねぇんじゃねぇの!?」と馬鹿笑いしていた。




「今日はありがとな、咲良」


「別に。私も楽しめたし。でももうあんな無茶な負け額作らないでよ?次は勝てるか分からないんだから」




今日がたまたま勝てた日で次は勝てる保証なんてどこにもない。


だから頼むからあんな心臓が飛び出る数字の負け額を作らないで欲しい。




「…まぁ努力しまーす」




へへ、と笑って私に適当に答えるエドガーを見て私は思った。


コイツ反省してない上にまたやるぞ。




「なぁ咲良」




はぁとエドガーの素行の悪さにため息をついているとエドガーがいきなり真剣な表情で足を止めた。


一体どうしたのだろうか?




「今日のお礼だ。この特級悪魔エドガー様がお前と契約してやる」


「…契約?」




何のことだろうかと一瞬思ったがそういえば随分前にミアから契約について話されたことを思い出す。


そしてミアと契約していたことも。


確か契約したら契約した悪魔をどこへでも召喚できるとかだったっけ?


エドガーを召喚?




「いや、遠慮しとくわ」


「何でだよ!」




特に必要性を感じなかったのでお断りをするとエドガーはすごい勢いで私に叫んだ。




「俺は魔界で50もいない特級悪魔だぞ!?俺と契約したくてもできない人間がどれほどいると思っているんだ!」


「いやー。でも必要ないし。特級とかよくわからないし」


「いいからするんだよ!」




何故が必死になって自分を売り込むエドガーに私は遠慮して笑う。

だがエドガーは私の言葉に聞く耳など持たなかった。

押し売りにあった気分だ。




「我が名は特級悪魔エドガー・ハワード。今人間桐堂咲良と契約を結ぶ」




私の許可もなく、ブツブツと呪文のようなものを呟き出したエドガーと私の足元に淡い紫色に光る魔法陣のようなものが現れる。


もうこれは契約をするしかないらしい。




「今回は特別だ。咲良は俺を助けてくれた。それが代償でいいぜ」


「え」




エドガーがニヤリと私に笑う。

そしてエドガーは私の右腕を引き、私の二の腕に噛み付いた。




「~っ!!!」




突然のことに驚きすぎて声が出ない。


何故噛んだ!エドガーよ!


プツリとエドガーの歯が私の二の腕を刺す感覚があったのと同時にエドガーはそこからまるで血を吸うように口付けをした。




「い、命の恩人に何すんの!」




恥ずかしさのあまりにそう叫ぶが、エドガーから逃れることは力の差がありできない。


顔を真っ赤にしてエドガーに抗議をしていると、エドガーの口が私の二の腕から離れ、私たちの足元にあった光り輝く魔法陣が姿を消した。




「…契約成立したの?そもそも何故二の腕を噛んだ?」




おそらく契約を結ぶ作業が終わったらしいエドガーに私は羞恥心でいっぱいの中、問う。


確かミアにも首筋を噛まれたがどんな意味があるんだ。

心臓に悪いし、痛いし、何もいいことがないのだが。




「ああ。これで契約成立だ。二の腕を噛んだのは柔らかそうだったからな」


「はぁ!?変態!」


「うわっ!イッテ!」




ニヤっと笑うエドガーに腹が立ってグーで肩を思いっきり叩く。


最低である。




「お前召喚学の話聞いてねぇな!もうすぐテストなのに!」


「はぁ!?聞いてませんけど!何か!」




だって人間界に帰りますから!勉強の意味ありませんから!




「悪魔は人間と契約する時に体内にその契約者の血液を取り込むんだよ!それくらい覚えとけ!」


「…な!」




マジですか!?


じゃあミアが首筋を噛んだのも契約の為だったのか。


つまり契約の為に私を噛んだだけなのに何故か私にグーで殴られたエドガー。

もちろん彼は少しだけ怒っていた。


ちょっと悪いことをしたかも。

無知って怖い。




「…ごめん」


「お前その調子だと召喚方法とかも知らねぇんじゃねぇの?」


「…うん」


「マジか」




私の様子を見て呆れたように、またバカにしたように笑うエドガーだが私の答えを聞いてその表情から笑顔が消える。


終いには「お前何で魔界に留学に来てんの?」と聞かれる始末だ。


いや、好きで来ている訳ではないのよ。


そう言ってやりたかったが、全てをうまく語り、説明できる労力も自信もないので適当に笑った。




「いいか。契約者が契約した悪魔を呼ぶ時は絶対に呪文が必要だ。その呪文は咲良なら、『我が名は特級悪魔エドガーと契約を結ぶ者、咲良。我とエドガーの契約の元、ここにエドガーを召喚する。出でよ!特級悪魔!エドガー!』だ」


「ええー。厨二病。絶対呼べない」




恥ずかしすぎる。

それを声高らかに叫ぶなんて。


真剣に説明してくれたエドガーには悪いが若干引きながら私はエドガーを見た。




「いーや!呼べよ!せっかく契約したんだぞ!おいちょっと今から召喚の練習だ!」


「えー!嫌だー!絶対嫌ー!24歳なんだよ私!14歳じゃないんだよ!」


「うるせぇ!俺と契約してんだぞ!」


「勝手に契約したのはエドガーじゃん!」




エドガーと言い合いながら薄暗い街を2人でまた歩き始める。


この出来事のお陰で少しだけエドガーと距離が縮まった気がした。


人間界へ一歩近づけたのかもしれない。


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