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第32話 激重女VSニセモノ彼女




兄弟全員に私たちが付き合っていることを公表してから私とクラウスが付き合っているという事実は瞬く間に魔界中に広がった。


最初こそあのクラウスが?という空気だったが、ここ数日の私とクラウスの様子や兄弟たちからの証言もあり、魔界中の悪魔たちは私とクラウスが付き合っていると認知せざるを得なかった。


ああ、早く終われ、悪夢。


どこへ行っても注目の的なのは疲れるし、何よりクラウスからの甘々攻撃に私のライフはもうゼロどころかマイナスだ。


いつ恥ずかしさで死んでもおかしくない。


そしてクラウスの彼女になってもうすぐ1週間。

ついに私が待ち望んでいたその時がやってきた。




「…ねぇ、アナタ、ちょっといいかしら」




珍しくクラウスと時間が合わず、1人で人気のない学院の廊下を移動しているとある女の子に声をかけられた。


愛らしい顔立ちに薄い紫のふわふわの巻き髪の女の子がこちらを恨めしそうに見ている。

そう彼女こそがクラウスを困らせている愛の重たい女の子だ。


声をかけられてすぐにそうだと判断できたのは事前にクラウスからどの子が愛の重たい女の子なのか聞いていたからだった。




「何?」




女の子に声をかけられて私は何も知らないフリをして返事をする。


彼女が私に声をかけてきたということは、私とクラウスの関係を疑っているということだ。

つまりあと一歩なのだ。

彼女にあとは私がクラウスの本命であることを伝え、信じさせ、本命彼女の座を諦めさせればミッションコンプリートだ。


晴れて私は自由の身!

しかもクラウスと契約できる!




「クラウスとお付き合いしているのは本当かしら?」



ほら!きた!


女の子の愛らしい瞳がまっすぐ私を見つめて、真剣に私に質問する。

私はそんな女の子の質問に心の中でガッツポーズをした。




「…ええ、まあ。そうだけど」




予想通りの女の子からの質問に破顔しそうになるのを何とか堪えて不思議そうに私は答える。




「…そう」




すると女の子はひどく辛そうな表情で下を向いた。


良心は痛むがミッションコンプリートだ。

こんな可愛らしい女の子を本命になりたがるだけで重たい女認定して邪険に扱うクラウスって本当に最低。




「…でも」


「…?」


「でも!愛の大きさなら例えクラウスの彼女であるアナタにも私は負けないわ!私は誰よりもクラウスを愛している!だから死んで!」


「…はあ!?」




バッ!と顔をあげて、先程の辛そうな表情とは全く違う鬼の形相で女の子がこちらに飛びかかってくる。


前言撤回!

可哀想じゃない!愛重たい!

だから死んで!じゃない!


相手は悪魔で私はただの人間だ。

このまま襲われでもしてみろ、本当に死が私を待っているぞ。


厨二病呪文で誰か召喚しようにもそんな時間はないし、そもそも恥ずかしいあの厨二病呪文なんてきちんと覚えていない。


あ!


私はポケットに急いで右手を入れて盛り塩を引っ張り出した。




「ジャパニーズモリソルト!」




バサァァァッ!と父作の盛り塩を勢いよく女の子に投げつける。




「ぎゃあああ!」




すると女の子は苦しそうに叫びながらその場に座り込んだ。


よし!やっぱり父作の盛り塩強い!

ネットで大量購入していて正解だった!




「私だってクラウスを愛しているし、クラウスもそれは同じ!だから私を殺したってクラウスはアナタには振り向かない!」




座り込んでいる女の子に私はある意味必死で叫ぶ。

クラウスを諦めさせること半分、自分の命を守ること半分だ。




「嘘よ!私の大きな愛で包み込めばクラウスは絶対に私を好きになるわ!アナタの愛の大きさになんて負けない!愛だけ叫んでいるアナタになんて負けないのよ!私はクラウスの美しいところも誰にでも優しいところも何もかも愛しているの!アナタはクラウスのどこを愛しているのよ!愛を口にするだけなら誰にでもできるわ!」


「…っ!!!!」




何とか説得しようとした私の言葉に女の子は全く聞く耳を持たない。

むしろ私の言葉が上辺だけだと主張し、そんな私なんかに絶対に負けるはずがないとさえ思っている様子だ。


クラウスだけではなく、よく私のことも見ている。自分で愛の大きさなら私には負けないと豪語するだけある。


上辺だけの言葉では彼女には響かない。




「何も言えないのかしら!?そうよね!アナタの愛はその程度なのよ!だからさっさと死んでよ!」




苦しそうに未だに膝をついている女の子だが、威勢だけはずっといい。

私はこちらをずっと睨み続ける女の子から視線を逸らして数秒だけ考えた後、口を開いた。




「クラウスは自分が一番だし、すぐ他の女のところへ行くし、付き合う前は絶対に付き合いたくない男No. 1だったよ。


だけど付き合ってみるとクラウスは自分だけじゃなくて彼女の私のことも一番に愛してくれる最高の彼氏だったの。


いつも私が幸せに過ごせるようにいっぱい考えて、私の望むものをくれる。


クラウスは軽薄そうに見えるけど大事なところでは誠実でまっすぐなんだよ」




ここ1週間ほどのクラウスのことを思い浮かべながらゆっくりと落ち着いて女の子にクラウスへの想いを伝えていく。


すごくナルシストで自分が一番なクラウスだが、ここ1週間のクラウスは自分と同じくらい私のことも一番に扱い、大切にしてくれた。毎日私のことを想っていろいろなことをしてくれた。

悔しいけどクラウスは完璧な彼氏だった。




「私はちゃんとそんなクラウスが好きなの」


「…」




私の話が終わる頃には女の子から鬼の形相が消えていた。

私をじっと見つめるその目にはメラメラと燃え盛る闘志が見える。


あれ?




「…アナタの想い、感動したわ。アナタの想いは本物よ。私のライバルと認めましょう」




ゆらりとその場からまだおぼつかない足取りで女の子が立つ。




「今日はこのくらいにしておきましょう。出直してくるわ」




そして女の子はそう言って微笑むと私に背を向けてふらふらと歩き始めた。


えっと…。

これでいいのかな?




「あははははっ!咲良!最高!」




放心状態で立ち尽くしていると突然おかしそうに笑いながらクラウスが現れた。




「…いつからいたの」


「ん?最初から?」


「なら助けてよ!こっちは人間なんですけど!?死にますが!?」


「あははっ、ごめんごめん」




おかしそうに笑い続けるクラウスに怒りがどんどん込み上げてくる。


何コイツ!

お前のせいで襲われたんだぞ!




「咲良の気持ち嬉しかったよ。1週間とか言わずにさ、僕たちこれからも付き合わない?」


「丁重にお断りいたします」




甘いマスクで微笑むクラウスに丁寧に頭を下げる。


これ以上の苦労はたくさんだ。




「それより!あの子にちゃんと私が本命だって信じさせたよ!契約してよ!」


「えー。諦めさせるまでだったよね?」


「あの子一生諦めないと思うけど!?本命の座が空いていないって思わせるまでが限界!」


「じゃあ一生付き合お?」


「嫌だ!」




クスクスとどこか楽しそうなクラウスに嫌気がさす。

何を言っても望んだ答えが返ってこない。


さっきの「クラウスは私の望むものをくれる」発言は気の迷いだった!




「咲良になら僕の全部をあげてもいいよ。だから咲良の全部も頂戴」


「いりません!」




人類皆きっと性別が女であるならば落ちてしまいそうなクラウスのセリフを私はバッサリと切り捨てた。


甘い笑顔を浮かべても、甘い言葉を囁いても、いらないものはいらない!


そんな私を見てクラウスは「えー。僕が手に入るだなんてこの世の誰よりも幸せで贅沢なことなのに」と残念そうにしていた。




「まあ、いっか。とりあえず契約だね」




頑な私の態度に諦めたようにクラウスが笑う。




「じゃあ契約するから空き教室にでも入ろうか」




そしてクラウスはそう言うと近くにあった教室を適当に選んで、人がいないことを確認した後、私を教室の中へ招いた。




「座って」




黙ったままクラウスについて来た私はクラウスに言われるがままクラウスが引く椅子に座る。


何故座らせるのか疑問だが、契約さえしてもらえるのならあまりそこは気にしない。




「我が名は特級悪魔クラウス・ハワード。今人間桐堂咲良と契約を結ぶ」




私が座ったことを確認するとクラウスはお決まりの呪文を口にし、クラウスと私の足元に淡い紫色に光る魔法陣のようなものが現れた。




「代償は僕の彼女になってくれたこと…と、これから先彼女役が必要な時に彼女になってくれること」



は?


思いもしなかった契約の代償に文句が出そうになるが契約の最中なのでそれをグッと堪える。


クラウスはそんな私の目の前に跪き、私の太ももの下に手を滑らせると、太ももを軽くあげ、太ももの内側に噛み付いた。




「…っ!!!!!」




私は思わず声にならない悲鳴をあげてしまう。


恥ずかしいどころでない!

死ぬ!


恥ずかしすぎて軽くパニックになっている私なんてお構いなしにクラウスはそこから血を吸い取るように口付けをした。


恥ずかしさで死にそうになりながらも何とか私はその行為に耐えている。


そして数秒後、クラウスの唇がやっと私の太ももから離れ、私たちの足元にあった光り輝く魔法陣が姿を消した。




「な!な!な!どこ!から!血を!」


「ふふ、咲良、耳まで真っ赤。かーわい」


「う、うるさい!」




やっと契約が終わりクラウスに抗議をする私をクラウスは楽しそうに見つめる。


私は何も楽しくないけど!




「今日から僕は咲良の契約悪魔だから。よろしくね」


「…よろしく!」




美しくクラウスが私に微笑む。

いろいろ言いたいこともあったが、とりあえず私はこちらのペースを乱しまくるクラウスに半ばヤケクソになりながらもそう叫んた。


人間界へ帰れるまで残す契約はあと一つ。



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