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1-2 俺のスキルは最強でした

 ――施設を出てから数時間後

 殆ど、着の身着のまま施設を出て行った俺は、森の中にあるうら寂しい道を、うつむきながとぼとぼと歩く。

 行くあてなんてどこにも無い。


(この世界で16年、生きてきたのに、これが俺の誕生日プレゼント?)


 意識も体もふらふらだ、空は青いのに、目の前が灰色に濁る。

 それに、

 声が、する。

 前世の記憶が――


 ≪不合格って、嘘でしょ≫


「あっ」


 ≪普通は受かるでしょ、なんで普通の事も出来ないのよ≫


 思い出されるフラッシュバック


 ≪貴方にかけた私の時間を返してよ≫

 ≪どうせ私の事が嫌いなんでしょ、私も貴方が嫌いよ≫

 ≪どうして私の言うとおりに生きられないのよ≫


 頭の中で響くエコー、前世の、


 ≪貴方なんて、産むんじゃなかった≫


 記憶。


「――ああ」


 ……トラウマの残響に、つい、立ち止まってしまう。そりゃそうだ、前の世界で出来なかった事を、せめてこの世界でって願ったのに。

 辛く重く悲しい、こんな時、”普通”なら泣くんだろうけど、

 涙は出ない。

 ずしんと、暗くて重くて冷たい気分だけが、俺の体を支配する。強い感情は覚えられず、心は虚しくて、

 ――からっぽだ

 体が、生まれ変わったって、心は、前世から、変わらない、変われない。


「……16歳まで生きてって、女神様の言葉、俺の都合のいい妄想幻聴だったのかな」


 それとも、この異世界での生き方が、間違ってたのかな。

 普通に足りなくても、誰かの役に立てるように、がんばってきたつもりなんだけどな。

 ……それで、役立たずのアルテナッシって呼ばれてたんだから、意味が無いか。

 そうだ、もう俺に意味なんて無いんだ。


「――だったらもう、死のうかな」


 そうだ、もう、それがいい。

 異世界にすら必要とされてない俺は、このまま消えるのが一番だ。


「……死ぬなら人が通る道じゃなくて、森の中がいいよな」


 それが迷惑がかからない方法――そう思って、森の方へ視線を向けた、

 その瞬間、


「キャアァッ!」

「え!?」


 お、女の子の悲鳴!? 何が――そう思った時には俺は駆け出していた、木々の間をすり抜けてみれば、すぐに開けた場所があって、

 そこにいたのは、


(メイドと、スライム!?)


 淡い紫色の髪を片方だけくくったルーズサイドテールメイドさんが、ヤマトブレード日本刀をもってモンスター相手に戦ってる。

 よ、よりにもよって、スライムと!

 ――助けなきゃ!

 そう思う、でも、


無能何も無しアルテナッシに何が出来る)


 その思いが、一瞬俺の体を止めたけど、

 直ぐに、


「うわぁぁぁ!」


 大声と一緒に、足元の石を投げていた。


「えっ!?」


 メイドが振り返ると供に、スライムもその体を――石をなんなく受け止める、半透明の体をこちらに向けた。

 注意をこっちに向けてくれた途端、スライムの二つ名が浮かぶ、

 ――{ノーフェイス顔無き悪意}


(確かに、スライムに顔はないものな)


 そんな事を思ってると、スライムは俺に飛びかかる、その身の丈を俺よりも膨張させて、

 殺される恐ろしさより、俺は、


(よかった、役立たずでも最後に誰かの役に立てた)


 その事に、安心していた。

 ――だけど

 空気に”パチッ”て、静電気みたいなものが走った後、

 ――俺は紫色の電気を纏ったメイドに吹き飛ばされてた


「へ?」


 突き飛ばし――それが俺を庇う行為だと気付いた時には、彼女は、俺の代わりにスライムに飲み込まれ、仰向けに倒れる――

 その光景に、一瞬固まったけど、その意味が

 ――助けようとした人に助けられたと知って

 なんで、


「なんで!?」


 俺は慌てて、スライムの体の中に飲み込まれたメイドに駆け寄った。そして、スライムの体の中で溺れ、苦しそうに藻掻くメイドの顔のあたりを、必死に掻き出そうとする!


「うわ、うわ、うわぁぁぁっ!」


 彼女の顔の周りにあるスライムの体を、なんとか引き剥がそうとするけど無理だ! スライムは、自分の粘状の体でメイドを窒息死させようとする!

 それどころか、俺の腕も包み込んできて、俺も取り込もうと――


「――げて」

「え」


 微かに、声が聞こえる。

 声は振動、だから、肺の中の空気を搾り出すように、水中でも喋れば、少しは伝わる、

 息も吸えない状況で、メイドは、確かに俺に言った。


「に、げ、て」


 って。

 ――いやだ


「あぁぁぁぁぁっ!」


 こんなの、おかしい!

 死ぬべき俺が救われて、見知らぬ俺を助けようとしたこの人が、死んでいいはずがない!

 必死で粘る体をかきわける、でも体がどんどんスライムに取り込まれてく、このままじゃ二人とも無駄死にだ、逃げる、という考えが頭に過ぎる、


「神様」


 でもそれ以上に俺は、


「神様!」


 助ける役立つ事を、願う。


「お願いだから! この一瞬だけでいいから!」


 ――俺は死んだって構わないから


「この人を助けるスキルをくれよ!」


 その願った瞬間、

 ドクン! っと、


「え?」


 ……俺の心臓が、ドクンドクンって弾んで、それどころか胸の辺りが光り出して、

 ポコォン! って、


「うわ!?」


 お、俺の胸から何かが飛び出した!? まるい何かが浮かんで、


 【○○】

 [スキルを入力してください]


 え?

 ○○って、丸二つの空欄からっぽが浮かんでて、それにスキル説明が追加されてて、スキルを、入力?

 訳が解らないけど、

 スライムの中で、彼女メイドは意識を失いかけてる。

 迷ってる暇なんかないから俺は、

 【○○】に向かって手を伸ばし、


「【最強】」


 そう、呟いた。

 ――瞬間、俺の全身に力が漲って

 体が黄金色に輝いて、そして、

 スライムが爆発四散した。


「え?」

「……えっ」


 俺はもちろん、メイドさんも、


「「えええええ!?」」


 驚愕の声をあげた。


「え、あの、一体何が?」

「い、いや、俺も訳がわかんなくて――あっ」


 そしてこの時俺は、メイドさんに馬乗りになってる事に気付く。ごめん! と慌てて謝ってから降りて周囲を見渡せば、爆発四散したスライムが、そこら中に散らばっていた。


「これ、俺がやったのか?」


 慌ててスキルをチェックすれば、


 【最強】スキル SSSランク

 スキル解説[最強、ともかく最強]


 ス、スキル解説まで脳筋過ぎる――ていうかSSSランクって何!? そんなランク、聞いた事もない!

 と、とりあえず、助けられたしいいのかな、そう思ってメイドの方を見たら、


「危ない!」

「え?」


 メイドが指差した方向へ振り返る、すると、

 ――ドカバキベキバキボキバキベキバキィ!

 って、なんか木が一直線にドミノ倒しみたく倒れていって、10メートル先の所にスライムの塊のようなものがうずくまっていた。

 ……。


「俺なんかやっちゃいました!?」


 と叫んだら、


「バラバラに散らばったスライムが合体して襲いかかってきたのに振り返った時の風圧だけで木をなぎ倒すまで吹っ飛ばした!?」


 やっちゃった事をメイドが解説してくれたけど、全く自覚が無い!?

 だけど、スライムは吹っ飛ばされた先で、焼かれた餅みたいにどんどん膨らんでく、木の高さも超えて、ボーリング玉みたいにこっちへ突っ込んでくる! そして途中で跳ね上がって、

 俺と彼女を、圧しつぶして取り込もうとしたけど、

 ――その時には


「ごめん!」

「――えっ」


 俺は、メイドさんをお姫様抱っこして、


 そのまま、一気に100メートルまで飛び上がって、

 森の中のスライムを、メイドさんと一緒に見下ろしながら、

 そのまま、スライムに向かって落下して、


(ああ、これが)


 体の中から生じる謎の推進力最強で、重力をぶっちぎるくらいに加速して、


「――【最強】スキル」


 踵を落とした。


「〈メテオフォールインパク究極物理の衝撃をト!〉」


 ――爆発四散

 スライムが千切れ、細切れになり、散り散りに、

 最早目視が出来ぬ程にバラバラになって消え失せていく。

 ……後に出来たのはクレーター、その中心で俺は立っていた。


「す、凄い」


 【○○】だと思ったら、【最強】。

 からっぽ無能だったはずの俺のスキルが、実は最強でした的な?

 まさか、こんな事になるなんて。


「あ、あの」

「え? ……あっ!?」


 や、やばい、お姫様抱っこしてたの忘れてた、顔赤くしてる、降ろさなきゃ!


「ご、ごめん! つい!」

「い、いえ、こちらこそ、助けてくれてありがとうございました!」


 俺の腕から離れた後、そう言って、直角で正しいお辞儀をするメイドさんは、

 わたわたしながら――二つ名を掲げた。


「私の名は、〔癒やし手のメディクメディ〕、メディとお呼びください」

「――メディ」

「あの、いきなりですが」


 そこでメディは、


「メ、メイドはご入り用じゃないでしょうか、ご主人様」

「え、ええ!?」


 ほ、本当にいきなりすぎる。

 動揺する俺に、更に慌てたわたわた様子で、メディさん、


「あの、訳あって、私はご主人様探しの旅のためメイドの里を出て」

「いやあの、いきなりそんな事を言われても、……メイドの里?」


 混乱する俺であったが、次の瞬間、

 ――体の黄金色の発光が消え失せて

 同時に、体の力も抜けていった。


「うわっ――」


 体の力が抜ける、虚脱感が凄い、ふらふらになる俺にメディさんが声かける。


「ご、ご主人様!? 大丈夫でしょうか?」

「ご、ご主人様って……俺はアルテナッシ、〔何も無しのアルテナッシ〕」

「え、そのような二つ名? あんなにお強かったのに」

「いやこのスキルも、さっき急に使えて、あれ?」


 スキル一覧を見ると、最強の字が消え失せてる。


(いや、もしかして俺のスキル【○○】って、どんなスキルでも使い放題って事? 最強はもちろん、フィアの炎聖とかも?)


 もしそうならチートってレベルじゃない。ぶっ壊れの無双スキルだ――その事に心臓がドキドキ、した、けど、


「……あれ?」


 よくよくスキルメニューに目を凝らせば、

 【○○。】と、

 ○○の後に更に小さな○、それこそ、句読点に見間違えちゃいそうな空白からっぽがついてきてた。


「何これ!?」

「ご主人様!?」


 助けたメイドのご主人様になりかけている事より、俺はその事に衝撃を受けていた。


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