「改めまして、私の名前はメディクメディです、どうかメディとお呼び下さい」
俺達が今いるのは、あの森からそこそこに歩いた場所にあった、一階が酒場で二階が宿屋の、典型的な冒険者の為の店だ。
多くの剣士や魔法使い達が、素焼きのジョッキに入ったエールをがぶがぶと飲む中で、奥のテーブルに座った俺達の前には、レモンバターのチキンステーキと、ドラゴンミルクのシチューが並ぶ。
今更だけどこの異世界は、ファンタジーだけど、現実の物や言葉が多く存在する――というか、言葉はまるっとそのままだ。
(文字のデザインは前世のものとズレてるけど、ほぼほぼカタカナひらがなABCだし、スキルはまんま”漢字”だもんな)
余りにも当たり前になりすぎて、違和感を覚える事もなかった事を思い出していると、メディさんはテーブルに身を乗り出すようにして、笑った。
「あの、本当にありがとうございました! ご主人様は命の恩人です!」
う、かわいい。
正直、メイドさんにご主人様って言われるだけで、顔が赤くなる。……前世で35年生きてるのに、全く、異性への耐性が無い。
「い、いや、助けてもらったのはこっちの方で、メディさんが俺をかばってくれなかったら」
「いえ、どう考えても、ご主人様が来なければ、私はスライムにやられてしまっていました」
「俺が来なくても逃げれたんじゃないかな、俺を突き飛ばす時、凄い
「あ、あれは、超短距離を移動出来る変わり、体が動かなくなる自爆技です、逃走には使えません」
「そ、そっか」
確かに、俺はスキル【最強】で彼女を助けた。
だけど今の俺のスキルは、
【○○。】
(こうなってるんだよな、なんだろこの小さな○?)
○にしては小さい、でも句読点にしては大きいくらいのサイズ。
何か意味があるのかな?
「あの、ご主人様」
「え、ああはい」
「スキル養成施設を、追放された理由は、ここに来るまでにお聞きしました」
「ああ、うん」
「だけど、本当にお戻りになられるのですか?」
「――そうだね、恩返しをしなきゃいけないから」
「でも、施設長はあなたを追放した、それに、他の人達からも心無い言葉をかけられていたのでしょう?」
「それは俺に
「ご主人様」
「あの、アルテナッシ、それか、アルでいいよ」
「……アル様は」
そこでメディさんは、
「施設の皆様に、
そう言ってきたけど、
「え、なんで?」
俺はそう返事する。
「な、なんでって」
「だって、人間って助け合いだろ? 誰かの役に立てないなら、そこに生きる居場所はない、だから追い出された」
「……ですが」
「バカにされたのも、けなされたのも、……ちょっと
そうだ、どんな願いを持ってても、力が無ければ意味が無い。
前世でもそうだった。
――誰かの願いに応えられないのなら
「だから、今の俺は嬉しいんだ、産まれて初めて、誰かの役に立てて、そしてこれからも、助けてあげる事が出来そうだから」
うん、嬉しい。
正直、SSSランクのスキルなんて現実感がないけど、これで施設の皆の力になれるなら――
「ならどうして、笑ってないのですか?」
「……え?」
笑ってない?
「い、いや、ほら、笑ってるよ」
俺は戸惑いながら、目を開いて、口角をあげて、笑顔を作る。
――母親が俺に教えてくれたものだ
高校受験の、面接対策に。
あの頃は毎日、スマホのアプリでも練習してた。
「その、見た目は確かに笑ってるけど……」
なのに、メディさんはこう言った。
「――心からはそうじゃないような」
「心から、って」
そんな事、言われても、解らない。
本当は笑ってないって、それはちょっと、言いがかりというか、イメージの問題というか……。
メディさんの指摘に、胸がもやっとしてると、
「……メイド長から教わりました」
メディさんは、
「自分の幸せを、他人の幸せに全て委ねる人は、怪物になってしまうと」
更に、心をかき混ぜるような事を言う。
「――怪物?」
そう、オウム返しに俺が聞いたその時、
ドッカーン! と、
「うわ!?」
「え!?」
なんか爆発する勢いで酒場の扉が開いた!? ていうか実際に
爆炎で出来たシルエットで浮かぶのは、
「ここが
「へい、フィアの姉貴ぃ!」
「間違いないでやんすよぉ!」
〔猛る聖炎のフィアルダ〕が、施設でも有名な、【手下】スキルと【三下】スキルをもった兄弟、ヤンスとシタパと供に現れた。ハンマー担いだ彼女、すぐさま俺を見つけて、
「あらあら、
これ見よがしに自分の二つ名を頭上に掲げて、酒場の客に、嘘!? マジで!? という
なんかまくしたててきた。
「全く、追放されてやけ酒なんていい身分ねぇ、あ、あなたはまだお酒も飲めないかぁ! 全く惨めよねぇ誕生日なのに女神様から何ももらえないなんて泣けてくるわ、余りにもかわいそうだから、しょうがないけど、仕方無いけど、あんたを私の荷物持ちに雇っていいわよ? というのも帝国学園に入学する生徒は、特別に一人だけ従者を連れて行く事が許可されるのよ! どう、Sランクの私が、最低ランクのあんたを
フィアは、やっとメディさんの存在に気付き、
こう言った。
「誰よその
驚きながらツインテールを燃やすフィアの前でも、全く動じないメディさん。すっと立ち上がり、エレガントにお辞儀。
「メイドの里から来たメイド、〔癒やし手のメディクメディ〕と申します」
「え、メ、メイドの里のメイドぉ!?」
あれ、”メイドの里のメイド”っていう、”
「メイドの里って、あの最強のメイドを育てる隠れ里!?」
「礼儀作法美味しいお茶の入れ方武器の扱いなんでもござれ!」
「確か里を作ったメイド長は、先々代皇帝に仕え、先代皇帝を育てあげたと!」
「てっきりそこの兄ちゃんの趣味で、店の女をコスプレさせてるだけと思った!」
……そんなに凄い人だったの、メディさん?
いや、確かに、
「――貴方が、フィアルダ様ですか」
「え、ええ、そうよ」
「……私の本当の目的は、”聖”のスキルに覚醒されたと
「え?」
フィアは一瞬驚くが、
「うおお、それって、姉貴をご主人様にするって事でやんすか!」
「すげぇよ姉貴、メイドの里のメイドに選ばれた奴は、立身出世間違い無しだぜぇ!」
「え、ええ、そうね」
そ、そっか、それはフィアにとっては、嬉しい事だよな。
なんか困ってるようにも見えるけど、話が急過ぎて頭が追いつかないとかか。
「――そのつもりだったのですが、申し訳ありません」
「え?」
「私は既に、アルテナッシ様を、ご主人様と見定めています」
「はぁぁぁぁぁ!?」
うわ、フィアが怒った。
「な、なんで、アルテナッシを!? あんた、こいつが役立たずなのを知らないの!?」
「いえ――アル様は、私をスライムから助けてくれました」
「はぁ!?」
フィア、びっくり仰天。
「う、嘘でしょ、スライム相手に!?」
「あの最強のモンスターの!?」
……そっか、そうだよな、この異世界って、
スライムが最強なんだよな。
一方ドラゴンは、逆に雑魚、というか家畜、人間と
まぁ所変われば品変わる、ましてや世界そのものが変わってるんだから、疑問に思う方がおかしいんだろうけど。
「いや、アル、あんたのスキルはなんにも無いんでしょ!? どうやって!」
「あ、姉貴あれじゃないっすか、”最弱だと思ってた俺のスキル、実は世界最強でした!”みたいな!」
「一見弱く見えたけど、実は工夫次第でめちゃ強だったとか!」
いや、工夫どころか【○○】を
「な、納得いく訳がないでしょ」
当然、フィアはこの反応、うん、俺もフィアの立場だったらそう思ってるし。
「あ、あのフィアルダ、俺も自分のスキルはまだよく解って無くて」
「アル!」
うわ、でっかい声。
「表に出なさい! 私が直接このハンマーで、確かめてあげるから」
「いや、そんなので叩かれたら、俺、死んじゃうよ!」
「問答無用!」
わ、わぁ、【炎聖】スキルの所為なのか、髪もなんか燃えて舞い上がってる。怖い。
「だ、大丈夫です、アル様のスキルがあれば、例え聖なるスキル持ちであろうと」
「い、いやでも、力加減が出来ないのも怖いというか」
メディさんがそんな事を言ってる間に、フィアが取り巻き二人と外に出たものだから、俺もメディさんも追った、だが、
――酒場から出る直前
「……あんた、スライム、倒したって言ったわよね」
「え、ああ、うん」
「――それじゃあさぁ」
酒場を出ると、そこには、
「なんでスライムが、
二つ名、〔
その身の丈を、