――酒場の前の開けた場所
フィアを模して巨大化したスライム相手に、親子の月が照らす中で、
「【パリィ】!」
俺はAランクの、
「【パリィ】!」
あらゆる攻撃を受け流し、反撃するスキルで、
「〈
スライムを斬りつけていく!
無論、相手はスライムだ、斬っても斬っても再生はする、だけど、
目に見えてその速度が落ちていく、フィアの形を保っていられなくなっていく!
「な、なんで、ダメージを与えられてるの?」
「スライム自身の力を、利用されてるからでしょうか」
理屈は解らない、だけど感覚的には解る、このままいけばこいつを、
――斬り倒せる
「う、嘘でしょ、あのアルテナッシが? 武器の訓練も、ろくにこなせなかったあいつが?」
「……あのフィア様、本当にご主人様は、”何も出来なかった”方なのですか?」
「そうよ!? 役立たずでその癖にお人好しで! む、無能な働き者とまでは言わないけど……危なっかしくて……」
戦い
横薙ぎの一撃を鞘で受け止め、体の回転と供に上へ流して、そしてそのまま袈裟切りする。
フィアの姿をしてるからって、容赦はしない、寧ろあいつを真似するなんて、フィアに対する侮辱以外の何物でもない。だからなんとしても倒してやると攻撃を繰り出してると、
「すげぇ!?」
「マジで!?」
酒場の中にいたはずの、ヤンス兄弟が外に――いや、他の客もマスターまで、外に出てる。
「ス、スライムを、しかも
「あの男、一体何者なんだ!?」
「いけ、やっちゃえ、倒せるぞぉ!」
……これって、俺、褒められてる?
ハンマーの攻撃を、ほぼ
そんなもの、一度も受けた事が無かった、今まで、
――前世だって
「――アルテナッシが」
俺と同じく、信じられないような顔で呟くフィア、だけど、
「――がんばって」
メディさんは、多分、ようやく動くようになった体を起こして、俺に、
「やっつけてください、ご主人様!」
笑顔で俺に、言葉をかけてくれた。
……ああそっかあれが、
――心からの笑顔か
……俺も、
あんな風に笑えたら、
≪何で笑うのよ≫
――声が聞こえたその瞬間
「え?」
周囲の光景が灰色になって、そして何もかもが動かなくなった。まるで時が止まったかのように、
走馬燈――それにしては、余りにもリアルで、
そして声のした方へ振り向けば、
黒いもやの影が、
≪笑うな≫
――あれは
≪笑うなぁっ!≫
母さんの、
形をした影は、
俺に飛びかかりながら、叫んだ、
――その瞬間
「女神パーンチ!」
「ええええ!?」
か、影がパンチされた!?
なんか急に横から出てきた女神様がグーパンで影をぶん殴ったぁ!?
「って!? 貴女は転生の女神様!?」
そうだ、この
か、影が、消えてく、ついで女神様も足元から消えていく、
女神様は、自分の残った上半身で、
「ここは貴方の心の中デス! 詳しい説明はまた後ほど!」
親指をグッとあげながら、
「笑顔を忘れずに!」
そう言って、消えた途端、
世界に色が戻り、全てが動き出す――そして当然ハンマーは、
――俺の体へ振り落とされる
「シュッ」
ごく自然に息を吐けば、俺の全身は脱力し、強力なハンマーの一撃を鞘を持った片手で受け止めさせた。衝撃は腕から足裏まで通り抜け、俺の足元にクレーターが出来る。
ただ、全てを受け流さない、
力の流れを刀身に伝わるように、屈みながら横に反れれば、
「【パリィ】スキル」
己に降り掛かった衝撃を刀身へ送り、くるりと身を翻しながら、
俺への一撃を、必殺の反撃に変えて――
一閃。
「〈リベ
ボロボロになっていた粘体は、この一刀で、動きを止めて、そして、
一瞬の静寂の後、
――光と供に爆発してその中で
俺は自然と、
笑顔を浮かべていた。
とはいえその笑みも――
「――うわっ!?」
「きゃあ!?」
予想もしなかった閃光の眩しさに崩れるし、俺は勿論、皆も目を閉じる。だけど、その光が納まった後に、瞼開いてみれば、
「え、ほ、本当に倒した?」
「おい見ろ、スライムが居た場所に、宝石が浮かんでいる!」
「レアドロップアイテム!?」
本当に、ダイヤモンドみたいな
強力なモンスターは、時々、アイテムを落とす事があるって聞いた事があるけど、つまりこれって、本当に俺がスライムを倒せたって事?
「ご主人様!」
「え、メディさん、わっ!」
「やった、やりました! ご主人様!」
「あ、ありがとう」
な、なんかメディさんが俺の手を握って、近い。
「――笑ってましたね」
「え?」
「……安心しました、ご主人様は」
メディさんは、言った。
「自分の為にも、笑う事が出来る方なのですね」
――自分の為に、笑う。
誰かの為じゃなくて。
……そんなの、当たり前の事じゃ。
(いや、俺にとってそれは、当たり前だったっけ)
……そうだ、スライムを倒す直前に急に時が止まったみたいになって、目の前に――消えた母さんが影になって現れて、俺に何か言って、それを女神様がパンチで殴り飛ばして、母さんが、
……そうだ、母さんには、
笑うなって、言われたんだ。
――母さんが消えたあの時から
……あの時から、いいやずっと前から、俺にとって笑う事は、当たり前じゃなかったかもしれない。
アルテナッシ!」
わ、フィアが――ハンマーを拾ってから話しかけてきた。
「その、一応、礼を言っておくわ、な、なかなかやるじゃない」
「あ、うん、ありがと」
「そ、それでも! 私の方が強いでしょうけどね、なんたってSランクのスキル【炎聖】なんだから!」
「いや~、兄貴すごいっすよ!」
「ついていかせてくだせぇ!」
「って、おおいヤンスとシタパぁ!?」
あ、なんか、兄弟も話しかけてきた。
「兄貴だったら学園にも合格間違い無しでやんすよ! そこで、【手下】スキルのあっしを是非従者に!」
「いやいや、【三下】スキルのおいらの方が、あくどい事もやっちゃえますよぉ!」
が、学園に入学って、そんな無茶な――ほら、フィアも怒って、
「――上」
「え?」
「上ぇ!」
上、って言われたから、上を見れば、
浮かんでた宝石が落ちてきた!?
咄嗟に【パリィ】を使おうとした、だけど使えない、
(また、入力しなおし!?)
俺は慌てて目の前にスキルを表示する、なんでもいいから、スキルを使わなきゃ――そして入力画面を表示したら、
【ぬ○○】
え、
文字が、既に埋まってるパターンもあるの?
ぬから始まる三文字のスキル?
ぬ、ぬ、ぬ、
――ぬ
「【ぬるぽ】……」
ボソリと、スキルを
――ガッ
「アルゥ!?」
「ご主人様ぁ!?」
【ぬるぽ】スキル Eランク
スキル解説[ぬるぽと言ったらガッされる]
頭へ衝撃を受けて、薄らぐ意識の中で思った。
――スキル無しで普通に避ければ良かったじゃん、と