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1-5 誰が為の笑顔

 ――酒場の前の開けた場所

 フィアを模して巨大化したスライム相手に、親子の月が照らす中で、


「【パリィ】!」


 俺はAランクの、


「【パリィ】!」


 あらゆる攻撃を受け流し、反撃するスキルで、


「〈パリィズパーリィ反逆者の舞踏会!〉」


 スライムを斬りつけていく!

 無論、相手はスライムだ、斬っても斬っても再生はする、だけど、

 目に見えてその速度が落ちていく、フィアの形を保っていられなくなっていく!


「な、なんで、ダメージを与えられてるの?」

「スライム自身の力を、利用されてるからでしょうか」


 理屈は解らない、だけど感覚的には解る、このままいけばこいつを、

 ――斬り倒せる


「う、嘘でしょ、あのアルテナッシが? 武器の訓練も、ろくにこなせなかったあいつが?」

「……あのフィア様、本当にご主人様は、”何も出来なかった”方なのですか?」

「そうよ!? 役立たずでその癖にお人好しで! む、無能な働き者とまでは言わないけど……危なっかしくて……」


 戦いながらも聞こえて余裕があるくる、フィアの驚きは全くだ、刀なんて触った事の無い武器すら、俺は完璧につかいこなしてる、

 横薙ぎの一撃を鞘で受け止め、体の回転と供に上へ流して、そしてそのまま袈裟切りする。

 フィアの姿をしてるからって、容赦はしない、寧ろあいつを真似するなんて、フィアに対する侮辱以外の何物でもない。だからなんとしても倒してやると攻撃を繰り出してると、


「すげぇ!?」

「マジで!?」


 酒場の中にいたはずの、ヤンス兄弟が外に――いや、他の客もマスターまで、外に出てる。


「ス、スライムを、しかもネームド名前付きを圧倒してるなんて!」

「あの男、一体何者なんだ!?」

「いけ、やっちゃえ、倒せるぞぉ!」


 ……これって、俺、褒められてる?

 ハンマーの攻撃を、ほぼ自動的に反撃するオートカウンター俺にとって、心が戸惑う理由は周囲からの声援だった。

 そんなもの、一度も受けた事が無かった、今まで、

 ――前世だって


「――アルテナッシが」


 俺と同じく、信じられないような顔で呟くフィア、だけど、


「――がんばって」


 メディさんは、多分、ようやく動くようになった体を起こして、俺に、


「やっつけてください、ご主人様!」


 笑顔で俺に、言葉をかけてくれた。

 ……ああそっかあれが、

 ――心からの笑顔か

 ……俺も、

 あんな風に笑えたら、


≪何で笑うのよ≫


 ――声が聞こえたその瞬間


「え?」


 周囲の光景が灰色になって、そして何もかもが動かなくなった。まるで時が止まったかのように、

 走馬燈――それにしては、余りにもリアルで、

 そして声のした方へ振り向けば、

 黒いもやの影が、


≪笑うな≫


 ――あれは


≪笑うなぁっ!≫


 母さんの、

 形をした影は、

 俺に飛びかかりながら、叫んだ、

 ――その瞬間


「女神パーンチ!」

「ええええ!?」


 か、影がパンチされた!?

 なんか急に横から出てきた女神様がグーパンで影をぶん殴ったぁ!?


「って!? 貴女は転生の女神様!?」


 そうだ、この虹色プリズムロングヘアーでギリシャ風衣裳を着たこの神様は、俺を異世界転生させてくれた、16歳まで生きなさいって言った、女神様だ!

 か、影が、消えてく、ついで女神様も足元から消えていく、

 女神様は、自分の残った上半身で、


「ここは貴方の心の中デス! 詳しい説明はまた後ほど!」


 親指をグッとあげながら、


「笑顔を忘れずに!」


 そう言って、消えた途端、

 世界に色が戻り、全てが動き出す――そして当然ハンマーは、

 ――俺の体へ振り落とされる


「シュッ」


 ごく自然に息を吐けば、俺の全身は脱力し、強力なハンマーの一撃を鞘を持った片手で受け止めさせた。衝撃は腕から足裏まで通り抜け、俺の足元にクレーターが出来る。

 ただ、全てを受け流さない、

 力の流れを刀身に伝わるように、屈みながら横に反れれば、


「【パリィ】スキル」


 己に降り掛かった衝撃を刀身へ送り、くるりと身を翻しながら、

 俺への一撃を、必殺の反撃に変えて――

 一閃。


「〈リベンジャーズエンドゲ復讐者の黄昏時ーム〉!」


 ボロボロになっていた粘体は、この一刀で、動きを止めて、そして、

 一瞬の静寂の後、

 ――光と供に爆発してその中で

 俺は自然と、

 笑顔を浮かべていた。

 とはいえその笑みも――


「――うわっ!?」

「きゃあ!?」


 予想もしなかった閃光の眩しさに崩れるし、俺は勿論、皆も目を閉じる。だけど、その光が納まった後に、瞼開いてみれば、


「え、ほ、本当に倒した?」

「おい見ろ、スライムが居た場所に、宝石が浮かんでいる!」

「レアドロップアイテム!?」


 本当に、ダイヤモンドみたいなでっかい宝石握り拳大が、頭上3メートルくらいの場所で輝いてる。

 強力なモンスターは、時々、アイテムを落とす事があるって聞いた事があるけど、つまりこれって、本当に俺がスライムを倒せたって事?


「ご主人様!」

「え、メディさん、わっ!」

「やった、やりました! ご主人様!」

「あ、ありがとう」


 な、なんかメディさんが俺の手を握って、近い。


「――笑ってましたね」

「え?」

「……安心しました、ご主人様は」


 メディさんは、言った。


「自分の為にも、笑う事が出来る方なのですね」


 ――自分の為に、笑う。

 誰かの為じゃなくて。

 ……そんなの、当たり前の事じゃ。


(いや、俺にとってそれは、当たり前だったっけ)


 ……そうだ、スライムを倒す直前に急に時が止まったみたいになって、目の前に――消えた母さんが影になって現れて、俺に何か言って、それを女神様がパンチで殴り飛ばして、母さんが、

 ……そうだ、母さんには、

 笑うなって、言われたんだ。

 ――母さんが消えたあの時から

 ……あの時から、いいやずっと前から、俺にとって笑う事は、当たり前じゃなかったかもしれない。


アルテナッシ!」


 わ、フィアが――ハンマーを拾ってから話しかけてきた。


「その、一応、礼を言っておくわ、な、なかなかやるじゃない」

「あ、うん、ありがと」

「そ、それでも! 私の方が強いでしょうけどね、なんたってSランクのスキル【炎聖】なんだから!」

「いや~、兄貴すごいっすよ!」

「ついていかせてくだせぇ!」

「って、おおいヤンスとシタパぁ!?」


 あ、なんか、兄弟も話しかけてきた。


「兄貴だったら学園にも合格間違い無しでやんすよ! そこで、【手下】スキルのあっしを是非従者に!」

「いやいや、【三下】スキルのおいらの方が、あくどい事もやっちゃえますよぉ!」


 が、学園に入学って、そんな無茶な――ほら、フィアも怒って、


「――上」

「え?」

「上ぇ!」


 上、って言われたから、上を見れば、

 浮かんでた宝石が落ちてきた!?

 咄嗟に【パリィ】を使おうとした、だけど使えない、


(また、入力しなおし!?)


 俺は慌てて目の前にスキルを表示する、なんでもいいから、スキルを使わなきゃ――そして入力画面を表示したら、


【ぬ○○】


 え、

 文字が、既に埋まってるパターンもあるの?

 ぬから始まる三文字のスキル?

 ぬ、ぬ、ぬ、

 ――ぬ


「【ぬるぽ】……」


 ボソリと、スキルを発動し呟いた瞬間、

 ――ガッ


「アルゥ!?」

「ご主人様ぁ!?」


 【ぬるぽ】スキル Eランク

 スキル解説[ぬるぽと言ったらガッされる]


 頭へ衝撃を受けて、薄らぐ意識の中で思った。

 ――スキル無しで普通に避ければ良かったじゃん、と


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