――ガタンゴトン、ガタンゴトン
……使い古された
ここは電車で、俺は、
終電の車内で、座席に唯一人座り、スマホを死んだような目でみつめている。
(……久しぶりに、家に、帰れるなぁ)
会社の給湯室や近くのネカフェで寝るのにも慣れたし、戻る必要もないのだけど、何か手紙とか来てたら、それを返さないと迷惑がかかるから――
……ああ。
(今日も、役立たずって、言われたな)
駄目な人間だから人の何倍も働かなきゃいけなくて、それでも役に立てなくて、
誰かの役に立てなきゃ、居場所なんてないのに。
だから、母さんも、俺を残して消えたのに。
(……ああ)
WeTubeのショート動画を、無音量でみつめる。
昔はなんとか、
でも、楽しまなきゃ、
……あ、
花火だ。
下からあがった光の軌跡が、夜空に大輪の華を咲かせる、
そんな、スマホの縦長の画面に映る、花火の光景、
(……いいなぁ)
なんだろう、ただ花火があがっているだけなのに、字幕も何も無いのに、
ひどく、とても、胸に染みる。
(何時か、見れるかなぁ)
そんな事を思いながら――俺の命は、
(本物の花火……)
虚しい侭に終わる、ここで、
――死ぬ
「死んじゃ駄目デース!」
「うわぁ!?」
わ、な、なに、大きな声、ビックリ!?
……って、このプリズムロングヘアーな人は、
「て、転生の女神様?」
と、驚く俺に、
「いきなり何バッド入っちゃってるデスか、冗談抜きで死んじゃいマスよ!」
と、詰め寄ってきた。
「あ、えっと、ごめんなさい」
「……はぁ、抜け出せたならもういいデス、ここは貴方の夢、つまり心の中デス」
そう言った途端、電車は消え失せて、俺も死ぬ前――
そして電車が消えた後には――何も無い、真っ白だ。
「これが貴方の心の中、ご覧の通りからっぽデス」
「は、はぁ」
「貴方は余りにも、多くを”奪われ”ましたカラね」
「奪われた?」
「……それに気付けない、いえ、”気付く事を許されない前世”でしたカラね、貴方は」
何故か寂しげに笑う女神様、なんでだろ? なんて不思議に思ってると、
もっと気になる事に気付く――女神様の足に、真っ白な髪をして、女神様と同じような服を着た、ちっちゃな女の子が寄り添っている。
「えっと、お子さんですか?」
「この世界の神様、スキルの女神様デス」
「え?」
「この世界初のスキル持ちであり、今やこの世界の神となった、セイントセイラちゃん1059歳です」
「ええ!?」
セ、セイントセイラって、この世界の教会に、必ず祀られている女神様!
1000年以上前に、世界が滅びかけた時、自分の命を引換にして、皆にスキルを与えたっていう聖人。というか、俺にさっき神託をくれた
こんな女の子が、セイントセイラ様? 全く信じられない。
「あそぼ、テンラちゃん、あそぼ」
「あ、いや、これから彼と大事な話があるので後にして欲しいデスが」
「やだやだ、はいかんこうカートするの! うしさんつかうの!」
「ちょっとだけ! ちょっとだけお待ち下サイ!」
はぁ、と、そこで溜息を一つして、転生の女神様、
「そちらも大変だったでしょうケド、私も大変だったのデスよこの16年。貴方の心と供にこの世界に来た後、人間を辞めて
「コミュニケーション、ですか」
「ええ、どんだけ呼びかけても
「は、はぁ」
「――でもおかげで交渉の結果、なんとか貴方に相応しいスキルを、与えてもらう事が出来ましたデス」
「……【○○】スキル」
使い勝手がいいとは言えない、だけど、確かに強力なスキル。
とんでもない力なのは確か、でも、
それを交渉で手に入れたという事は――
「俺は、何をすればいいんですか?」
そうだ、取引の為に必要なのは、見返り。大いなる力には大いなるなんとかって奴だ。
そう聞く俺に転生の女神様は、スキルの女神様をあやしながら、
「幸せになってくだサイ」
笑ってそう言った。
「え?」
余りにも抽象的で、漠然とした願い、だけど、
「貴方は貴方の母親から、幸せになる為のことごとくを奪われまシタ」
女神様は、語る、
「自責と他責のバランスが崩れて、貴方は極端に自責に振ってマス」
語る、
「貴方はこの世界で、幸せになる為に――からっぽの心を埋める物を取り戻さなければならない」
語り、
「それが、結果的にこの世界と、貴方の心を救う事にナル」
終える。
……い、言われてもピンと来ない、自責と他責のバランスって何?
「あの、もうちょっと具体的に」
「つまりデスネー、貴方が幸せにならないと、貴方が爆発しちゃうのデス」
「爆発!?」
「ええ、ばら
いやいやいや、なんでそんな俺が爆弾みたいに!? 比喩的な意味!? それとも本当に!?
「戸惑うのも無理もないデスね、なので、これから詳しく説明を」
「――ねぇ」
「あ、ごめんなさいデス、セイラちゃん、もうちょっとだけこのお兄ちゃんとお話を」
「 あ そ ぼ 」
「へ?」
スキルの女神様がそう言った途端――何かピカァって光った!?
え、女神様達の後ろに、何か光の渦が出来て、それに二人が吸い込まれてく!? お、俺には影響が無いみたいだけど。
「ちょっと待ってデース!?」
「あそぼ! はいかんこうカート、しよ!」
「いやいやPREP法で
ああもう、渦に下半身が飲み込まれている! それでも、なんとか踏ん張ってる!
「セ、セイラちゃん、アレ! 頼んでたアレ、お兄ちゃんにやってください!」
「あ、はーい」
と言ったスキルの女神様から、何か光が放たれて、
ステータス欄が自動的に立ち上がり、そして、スキルの下に新たな項目が追加され、オープンする。
アルズハート
[【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】]
な、なんだこの項目?
説明欄の中に、【○○】が、七つ並んでる?
「それが貴方の今の心のステータス、ご覧の通りからっぽデス!」
あ、転生の女神様、首と右手だけしか出ていない!?
「あなたはその
ああとうとう右手だけに――あっ、その手を、
「ともかく目覚めテモ!」
――サムズアップして
「”笑顔”を忘れずにデス!」
その言葉と一緒に、転生の女神様は、スキルの女神様と供に消えていった。
親指を
――夢が覚める
俺の意識は、覚醒する。