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1-6 ええっ女神様っ!?

 ――ガタンゴトン、ガタンゴトン

 ……使い古されたオノマトペ擬音擬態語、だけど俺はこの音を、そう表現する事しか知らない。

 ここは電車で、俺は、

 終電の車内で、座席に唯一人座り、スマホを死んだような目でみつめている。


(……久しぶりに、家に、帰れるなぁ)


 会社の給湯室や近くのネカフェで寝るのにも慣れたし、戻る必要もないのだけど、何か手紙とか来てたら、それを返さないと迷惑がかかるから――

 ……ああ。


(今日も、役立たずって、言われたな)


 駄目な人間だから人の何倍も働かなきゃいけなくて、それでも役に立てなくて、

 誰かの役に立てなきゃ、居場所なんてないのに。

 だから、母さんも、俺を残して消えたのに。


(……ああ)


 WeTubeのショート動画を、無音量でみつめる。

 昔はなんとか、長い動画8分も見れたけど、今じゃ脳が追いつかない。

 でも、楽しまなきゃ、趣味動画鑑賞を、作らなきゃ、

 楽しい事趣味が無いと、働けなくなるって言うから、自分を楽しくして、働かなきゃ、

 仕事誰かの為に、趣味楽しみを作らなきゃ。

 ……あ、

 花火だ。

 下からあがった光の軌跡が、夜空に大輪の華を咲かせる、

 そんな、スマホの縦長の画面に映る、花火の光景、


(……いいなぁ)


 なんだろう、ただ花火があがっているだけなのに、字幕も何も無いのに、

 ひどく、とても、胸に染みる。


(何時か、見れるかなぁ)


 そんな事を思いながら――俺の命は、


(本物の花火……)


 虚しい侭に終わる、ここで、

 ――死ぬ


「死んじゃ駄目デース!」

「うわぁ!?」


 わ、な、なに、大きな声、ビックリ!?

 ……って、このプリズムロングヘアーな人は、


「て、転生の女神様?」


 と、驚く俺に、


「いきなり何バッド入っちゃってるデスか、冗談抜きで死んじゃいマスよ!」


 と、詰め寄ってきた。


「あ、えっと、ごめんなさい」

「……はぁ、抜け出せたならもういいデス、ここは貴方の夢、つまり心の中デス」


 そう言った途端、電車は消え失せて、俺も死ぬ前――35歳の姿有田梨央から、16歳の姿アルテナッシに戻る。

 そして電車が消えた後には――何も無い、真っ白だ。


「これが貴方の心の中、ご覧の通りからっぽデス」

「は、はぁ」

「貴方は余りにも、多くを”奪われ”ましたカラね」

「奪われた?」

「……それに気付けない、いえ、”気付く事を許されない前世”でしたカラね、貴方は」


 何故か寂しげに笑う女神様、なんでだろ? なんて不思議に思ってると、

 もっと気になる事に気付く――女神様の足に、真っ白な髪をして、女神様と同じような服を着た、ちっちゃな女の子が寄り添っている。


「えっと、お子さんですか?」

「この世界の神様、スキルの女神様デス」

「え?」

「この世界初のスキル持ちであり、今やこの世界の神となった、セイントセイラちゃん1059歳です」

「ええ!?」


 セ、セイントセイラって、この世界の教会に、必ず祀られている女神様!

 1000年以上前に、世界が滅びかけた時、自分の命を引換にして、皆にスキルを与えたっていう聖人。というか、俺にさっき神託をくれた

 こんな女の子が、セイントセイラ様? 全く信じられない。


「あそぼ、テンラちゃん、あそぼ」

「あ、いや、これから彼と大事な話があるので後にして欲しいデスが」

「やだやだ、はいかんこうカートするの! うしさんつかうの!」

「ちょっとだけ! ちょっとだけお待ち下サイ!」


 はぁ、と、そこで溜息を一つして、転生の女神様、


「そちらも大変だったでしょうケド、私も大変だったのデスよこの16年。貴方の心と供にこの世界に来た後、人間を辞めて高次の存在話通じね~になったセイラ様と、コミュニケーションをとるの」

「コミュニケーション、ですか」

「ええ、どんだけ呼びかけても沈黙だんまりしてばかりで、ゲームというコミュニケーションツールが無ければ、どうなってた事か」

「は、はぁ」

「――でもおかげで交渉の結果、なんとか貴方に相応しいスキルを、与えてもらう事が出来ましたデス」

「……【○○】スキル」


 使い勝手がいいとは言えない、だけど、確かに強力なスキル。

 とんでもない力なのは確か、でも、

 それを交渉で手に入れたという事は――


「俺は、何をすればいいんですか?」


 そうだ、取引の為に必要なのは、見返り。大いなる力には大いなるなんとかって奴だ。

 そう聞く俺に転生の女神様は、スキルの女神様をあやしながら、


「幸せになってくだサイ」


 笑ってそう言った。


「え?」


 余りにも抽象的で、漠然とした願い、だけど、


「貴方は貴方の母親から、幸せになる為のことごとくを奪われまシタ」


 女神様は、語る、


「自責と他責のバランスが崩れて、貴方は極端に自責に振ってマス」


 語る、


「貴方はこの世界で、幸せになる為に――からっぽの心を埋める物を取り戻さなければならない」


 語り、


「それが、結果的にこの世界と、貴方の心を救う事にナル」


 終える。

 ……い、言われてもピンと来ない、自責と他責のバランスって何?


「あの、もうちょっと具体的に」

「つまりデスネー、貴方が幸せにならないと、貴方が爆発しちゃうのデス」

「爆発!?」

「ええ、ばらばらばらばらどっか悲しくなっちゃうなぁーんデス」


 いやいやいや、なんでそんな俺が爆弾みたいに!? 比喩的な意味!? それとも本当に!?


「戸惑うのも無理もないデスね、なので、これから詳しく説明を」

「――ねぇ」

「あ、ごめんなさいデス、セイラちゃん、もうちょっとだけこのお兄ちゃんとお話を」

「 あ そ ぼ 」

「へ?」


 スキルの女神様がそう言った途端――何かピカァって光った!?

 え、女神様達の後ろに、何か光の渦が出来て、それに二人が吸い込まれてく!? お、俺には影響が無いみたいだけど。


「ちょっと待ってデース!?」

「あそぼ! はいかんこうカート、しよ!」

「いやいやPREP法で結論Pointから言ったデスけど! まだ彼に伝えなきゃいけない事沢山ありマスから!?」


 ああもう、渦に下半身が飲み込まれている! それでも、なんとか踏ん張ってる!


「セ、セイラちゃん、アレ! 頼んでたアレ、お兄ちゃんにやってください!」

「あ、はーい」


 と言ったスキルの女神様から、何か光が放たれて、

 ステータス欄が自動的に立ち上がり、そして、スキルの下に新たな項目が追加され、オープンする。


アルズハート

[【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】]


 な、なんだこの項目?

 説明欄の中に、【○○】が、七つ並んでる?


「それが貴方の今の心のステータス、ご覧の通りからっぽデス!」


 あ、転生の女神様、首と右手だけしか出ていない!?


「あなたはそのからっぽハートレスを埋めて、心を満たさなければなハートフルデイズらない!」


 ああとうとう右手だけに――あっ、その手を、


「ともかく目覚めテモ!」


 ――サムズアップして


「”笑顔”を忘れずにデス!」


 その言葉と一緒に、転生の女神様は、スキルの女神様と供に消えていった。

 親指を立てながら光の渦に沈んでいく涙無しでは見られないシーンの余韻に浸る暇もないまま、

 ――夢が覚める

 俺の意識は、覚醒する。

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