――朝日が昇ったその時に
ベッドでぐっすり寝た俺は、メディに起こされ、身支度をして、お世話になった酒場兼宿屋を出た。途中で
だだっ広い草原で、何も無い。
「メディ、ここが入学試験会場?」
「はい、ご主人様」
メディから受け取った刀を、留め具を使って腰に下げた俺、改めて聞くけど彼女の返答は肯定、
確かになんにも無いこの場所に、
「人は凄く集まってるみたいだけど……」
だいたい300人くらい? 皆、俺やメディと同じ年齢なのかな。色んな姿や格好をしてる。
「どうよ試験前に、俺の【賽子】スキルで
「こ、こんなに沢山の殿方達が、ああ【
「オトォ、【双子】スキル使っとこうぜ」「わかりましたアニィ兄さん」
「君マジかわいいんですけどぉ☆ ね、ねぇ! 【吸血】させてほしーし☆」
「……【一撃】」
元気な人、清楚な人、双子な人、ギャルな人、一撃な人、様々な人達が過ごしてる。
ん?
あれって、もしかして獣人?
緑のメッシュが混ざった黒い長髪に、狼みたいな耳があって、尻尾もある。褐色肌の長身だ。初めて見た、あんまり人と交流しないって聞いてたけど、あの人も試験を受けるのか。
いやいや、あんまりじっと見てると失礼、目を反らそう。
他に視線をやっていると、メディが話しかけてくる。
「帝国学園の入学試験方法は様々です」
「様々?」
「フィア様のようにスカウトされる事を除けば、貴族のみの試験、Aランクスキル保持者限定の試験など」
「Aランク――でも、それって嘘を吐けるんじゃ?」
「学園に、たった一人ですが、スキルのランクを見抜ける
なるほど、それなら不正は出来ないか。
「……今日の試験は最大にして最後のものになります」
「最後」
「ええ、身分や種族、そしてスキルに関わりなく参加出来るので、”最大にして最底辺の試験”と揶揄されています」
「ひ、ひどい言われよう」
「ですが、事実です、試験を受ける条件はスキルに覚醒して、まだ試験を受けた事が無い16歳の者。基本的に再受験は出来ません、なのでほとんどの方が、ご主人様と同じ16歳です」
「ああ、
「はい、それでも10分の1のみが合格する、狭き門ですが」
10分の1、難関に過ぎる、俺が受けた高校も、そこまでの倍率じゃなかった。
それでも俺は、
「そっか、ありがとうメディ」
と、笑った。
「……大丈夫ですか?」
メディの心配は最もだ、昨日の夜、あれだけ受験失敗のトラウマで泣き喚いていた俺だもの、でも、
「失敗しても、傍にいてくれるんだろ?」
それが、心が軽くなる理由だった。
「勿論、受かるつもりだよ、でもなんというか、
「それは――とても良い事ですね」
「ああ、それにぶっつけ本番で挑む俺に出来る事はもう」
――
そう思ったその時、
「ん?」
空に何かがあるのに気付いた、鳥じゃない、黒くて丸い影のような、それが段々、近づいて、ていうか、
大きくなって!?
「な、なんだあれ!?」
どんどん大きくなっていく黒い丸、俺達の上を横切って、はっきりとした影を落とす!
「円盤!?」
まるでSF映画に出てくるような、そう思って叫んだ俺に、
「いえ、円卓です」
メディは、動じないままに訂正する。そして巨大な”円卓”は、ざわつく俺達より300メートルくらいの所で静止して、ゆっくりと下降していく。
「あ」
その途中で、円卓の正体に気付いた。
――国だ
高い城壁に囲まれながら、その中央に、シンボルのように城がそびえ立つ国だ!
「この大陸を統治する、人口約1万人のエン
国そのものが、空を飛んできて、今、
「私もこの目で見るのは初めてですが、あれこそが、第七代皇帝エンペリラ様の【皇帝】スキル」
ズシン! という音と供に降り立つ。
「――〈キ
う、嘘?
「こんな
「えっと、施設の方ではお学びになられなかったんですか?」
「あ、いや、……俺は勉強するよりも手伝いをしろって言われて、歴史は俺に必要ないからって」
「――やっぱり
「うっ」
「……いえ、そうですね、ご主人様は優しいですからしなくていいです、代わりに私が」
「ちょ、ちょっとメディ、落ち着いて」
なんか体がパチパチッって弾けだしたメディをなだめようとした、その時、
「おはよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「うわっ!?」
「きゃぁっ!?」
な、なんだ、円卓帝国の――入り口の門っぽい所から――凄くでっかい女性の声が聞こえてきた! えっと、門の上に、誰かが二人居る?
「どうしたぁぁぁぁぁぁぁぁ! 挨拶されたら挨拶し返すぅぅぅぅ! それが礼儀というものだろうがぁぁぁっ!」
こ、これだけの
「礼儀知らずは、全員落第させてやろうかぁぁぁ!」
その声に俺達は慌てて、「「「おはようございます!」」」と返した。
「うむっ!!!」
あ、ま、満足そうな声が聞こえた。
「私は〔がなる怒鳴るのデカヴァイス〕! 隣の辛気くさいこいつは、〔寡黙なユガタクワイエット〕! 皇帝の専属騎士と専属執事ぃ!」
騎士と執事、言われてみればそれっぽい鎧姿っぽい、あ、執事っぽい人が会釈をしたっぽい。
「本日はよく集まってくれたぁぁぁ! 我々は諸君を歓迎するぅぅぅ! さぁ、入って来たまえぇぇぇ!」
そう言うと、ギギギと音をたてて、門が開く。微かだけど、街並みが見える。
よ、よかった、とりあえず試験は、帝国に入ってからか。
「行きましょうか」
「ああ」
という訳で、俺達は一斉に歩き出す。300メートルという距離は遠いけど、俺達を踏みつぶさないような配慮だったのだろう。
あの壁の向こうで、どんな試験が待ってるんだろう。
……、
……、
……あれ?
「ねぇ、メディ」
「は、はい」
「全然、距離が縮まらなくない?」
「や、やっぱり、そうですよね」
俺の違和感を、メディが肯定した瞬間、
――円卓帝国が一気に遠ざかりはじめた!
「ああ、移動してる!?」
「まさか、今回の試験って!?」
慌てて走り出した俺達に、デカヴァイスさんの声が届く。
「はっはっはぁ! どうした貴様等ぁぁぁっ! そんな調子では試験会場にすら辿り着けんぞぉぉぉっ!」
やばい、結構な速さで走ってるつもりだけど、それでも追いつけない!
これが最初の、試験者達の振るい落とし、
でもこれって、
「分の悪い賭けじゃない!」
「はい!」
メディは返事した後、俺の目の前にぐるりと回って、軽く跳ねた。
俺はそれを――【最強】スキルを使った時のように、お姫様抱っこで受け止める。互い、ちょっと頬を赤くしてから、
スキル画面を呼びだす。
【チー○○】
今朝まで十分に、何のスキルを当てはめるか考える時間はあった。
思いついたけど、それは使えるかどうか解らないスキル
いっそ、試験前に使う事で、
だけどメディの一言で、俺はこれを残す事にした。
――次の
そして仮説だが、低ランクのスキルだった場合、インターバルが生じる可能性――
Eランクスキルの【ぬるぽ】を使った後、気絶した時間を考えると、それを使えるようになったのは随分後だ。
それなら、このスキルを使う事にした。
俺の思い通りならこのスキルなら、
「【チーター】!」
俺の叫びと供に、空白が埋まった瞬間、
「おっ」
僅か2秒で、俺の時速は、
「おおおぉぉぉ!?」
陸上
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ヴァイスさんの絶叫を、生んだ。