「な、なんだあいつのあの速度!?」
「どんなスキル!?」
「あんなSランク並みのスキル持ちが、なんでこの試験に混ざってんだよぉ!?」
そんな声も聞こえなくなるくらい、メディを抱えたままに俺は加速して、草原をサバンナのように走っていく。チーターのように四足歩行じゃないし、陸上選手みたいな正しいフォームでも無いのに、確かに俺は、時速120kmを越える。
(大当たりだ!)
円卓帝国がどれだけの速度を出してるか分からない、けど、
異世界に持ち込んできた世界の概念で、帝国の入り口に辿り着こうとする俺に、
「待て待て待てぇぇぇぇぇ!?
って、叫ぶ門の上のヴァイスさんがこんなにも近く! あ、
「エ、エンペリラ様、加速してくださぁぁぁぁい!」
あ、帝国の速度が早くなった、けどこの速さなら、ってあれ?
「どうされましたご主人様!?」
「な、なんか息が、胸と肺が苦しい」
そういえばと――俺はちゃんと自分の今のスキルを確認しようと、メニューを開いた。
【チーター】スキル Bランク
スキル解説[チーターと同じく時速120kmで走れるが、30秒迄が限界]
ああ、そこまで一緒なのか!?
どれだけ走った!? あと何秒以内に
――いや、考えるな!
走れ、走れ! あの門を潜り抜ければ、
「――学校に」
入れるんだから!
「あぁぁぁぁぁっ!」
そう思って叫びながら、俺は門へ飛び込んで、
メディと一緒に潜り抜けようとした、その時、
――全ての音が消えた
(え?)
え? と、自分の口で言ったはずの声すら聞こえない。そんな無音の中で、
目の前に、執事のユガタさんが飛び降りてきて、
120kmの俺に対して、何一つ淀みも無く、
ポケットから取り出したナイフを構える。
――【静寂】スキル
靜かの中で俺は、ユガタさんの唇の動きだけで、
――〈
この人が何を言って、この人に何をされるか、
解ってしまった。
――だけど
そのナイフを!
刀の峰が受け止める!
「……ぁぁぁああああああ!」
音が戻る! キィン! と、硬質音がする!
俺が抱えていたメディが、俺の腰の刀を抜いて、ナイフを防いでくれた、そして、
――30秒が終わる
「あ、うわぁぁ!?」
「きゃああああ!?」
なんとかユガタさんを突破した俺達は、時速120kmの勢いに翻弄されたままに走り去ってく。
「ああ、バカァァァァ! ユガタァァァァ! 全員、10分くらい走らせてから、
そんなフルフェイスメット越しのヴァイスさんの大声も遠くなっていく中で、俺は、
「わわわっ!?」
とうとうつまずいてしまい――建物立ち並ぶ間にある石畳の道に、メディを下敷きにしないよう、空中で身をよじって仰向けになった。
「げふっ!」
「あっ!」
倒れる、背中から落ちる、痛い、それでもなんとか無事っぽい、けど、
「だ、大丈夫、メディ?」
「ご、ご主人様の方こそ、大丈夫でしょうか?」
「やばい、スキルの反動が強くて動けない……」
「そ、そうですか、では、試験が始まるまで私が治療を」
メディは、刀を俺の鞘に戻し、回復を開始した。
俺も、いつまでも仰向けじゃいられないので、痛む身を無理矢理座らせた、
その時、
「仕方無ぁぁぁぁい! 今より、試験を開始するぅぅぅ!」
「え?」
「へ?」
ヴァイスさんの大声が聞こえた途端、異変が起きる。
……俺がいるのは帝国内部、つまり、普通ならここで生活してる住人達がいるはずなのに、誰も居ない。店が建ち並ぶのに店主はいなく、公園があるのに子供は遊ばず、
その代わりに、あらゆる物陰から現れたのは、
――なんか如何にもファンタジーな学園の制服を着た人達が
全員、剣とか斧とか杖とか武器を持っている!?
「試験内容は
め、目の前にある? ……本当だ、まだ随分遠くだけど、建物があって、門がある。ここからあそこまで一直線だ、だけど、
「が、学校、じゃなかった、学園の生徒さん達が武器をもって立ちはだかってるんですけど!?」
「まさか、これを乗り越えろと!?」
「安心せよぉ! エンペリラ様の【皇帝】スキル〈ブラ
いやいやそんな無茶な!? こんな沢山の
「有り難く思えぇぇ! 貴様のようないかにも庶民な男に、試験を受けさせてやるエンペリラ様の寛大さぁぁ、そしてぇぇぇぇ!」
ヴァイスさんは、
「お前のような
そう叫んだ後、
「じゅううううう! きゅううううう!」
なんかカウントダウンを始めた!? 力を込めて凄くゆっくりだけど、どっちにしろ時間が無い!
メディは――俺に〈エレ
「ご、ご主人様、新しいスキルは!」
「あ――ご、ごめん!」
パニくっててどうする、今の状況を嘆くよりも、やるべき事をやらなきゃいけないんだから!
そう思って、メニューを開く、
頼むから、【○○】が、来い!
――【○○
や、やった、俺の願いが通じて!
【○○ター】
「チーが抜けたぁ!?」
「ご主人様!?」
いや、【チー○○】→【チーター】→【○○ター】ってどんな法則性!? というか、ぬか喜びさせてこの仕打ち! 俺のスキル、俺の事が嫌いなの!?
「はぁぁぁぁちぃぃぃぃ!」
俺が心で叫ぶ中でも、無情にヴァイスさんのカウントダウンは進んでいく! ど、どうしよう、やばい!
いやでも待て、【○○ター】なら結構色々出来るんじゃないか!? 【ガーター】、いや、ボウリング玉を外してどうする、【センター】、何を二つに分けるんだ! 【モロター】、もろたでって
――【ハンター】
あ、
なんか、強そう、
これなら、敵を全て狩り尽くせるかも!
「あの、ご主人様、体力の方は」
「え、ま、まだ回復してないけど」
「――それで新たなスキルは使えますか?」
あ、
あああああ!?
そうだ良く考えたら、こんなボロボロの体じゃ、
待て、【最強】みたいに体力も一気に回復するみたいな奴なら、いやでも【ハンター】にそんな効果はなさそう。
体を治す、あ、【ドクター】とか!? い、いや、魔法による回復と薬による治療は全然違う! 今この瞬間、体力も全回復する、そんな都合の良い【○○ター】なスキルが思いつかない!
俺が必死に頭を回してる中でも、
「ごぉぉぉぉぉぉ! よぉぉぉぉぉん!」
って、ヴァイスさんは
「いやいや長い、ヴァイスさん長い!」
「まぁ集団でボコるのって気が引けるけど」
「悲しいけれど、これって試験なのよね」
って、同情的な人も攻撃的な人も、皆、俺達を狙ってる!
……ああ、
これって、
「――俺の所為だ」
「え、ご主人様?」
「俺が、なんの考えも無しに、突っ込んだから」
一番乗りしなきゃいけないって言われた訳じゃない、それでも、早く入らなきゃって焦ってしまって、
……その焦りに負けた、俺の所為だ。
「ごめん、メディ」
俺が謝り、
「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ、……あぁぁぁぁぁぁ!」
「ああ、楽しそうに歌い始めた!?」
「美声なのが腹立つ!」
「ビブラート効いてんなぁ」
刻一刻と、最後の時が近づく中で、
「――ご主人様は、私を信じてくれますか?」
「え?」
急にメディがそう言い始めて、
「答えて下さい」
そして彼女は、
笑った。
――昨日の夜、約束した時のように
「――信じる」
「解りました」
俺の返事に、そう返したメディは、〈エレ
――むぎゅっ
「へっ!?」
だ、だ、
抱きついてきた!?
「おいなんだあの野郎!?」
「メイドと公然にイチャりはじめたわ!?」
「
せ、背中があったかくて、やわらかくて、それに息も近くて!?
「メ、メディ!?」
俺が戸惑う中でも、
「いちぃぃぃぃぃ!」
カウントダウンは進み、そして、
「ぜろぉぉぉぉぉぉ!」
その言葉と供に、学園の生徒達が、
武器を持った集団が、一斉に俺達に飛びかかってくる!
「――【紫電】スキル」
その瞬間、メディの体から雷が弾けて、
それが全部、
俺に伝わる。
「〈オ
その瞬間、俺は――
余りにも自然に刀に手をかけ、
一閃!
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
「はひ!?」
「ぶるあぁぁぁ!?」
――飛びかかってきた学園の生徒達を、
紫の雷、その閃光との一刀を以て斬り飛ばしていた。